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ベンチャー企業がIPOする意義はあるのか?上場のメリット・デメリット

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

監査法人から選ばれるために
IPOを目指すために知っておきたいポイント

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ベンチャー企業が資金調達する方法としてIPOが挙げられます。
多くのベンチャー企業経営者にとっても目標のようになっているIPOですが、メリットだけではなくデメリットもあります。

IPOを目指すのであればメリットとデメリットをしっかり理解し、IPOの恩恵を最大限受けられるように準備しましょう。ベンチャー企業がIPOを行うメリットとデメリットと、IPOにはどんなベンチャー企業が向いているのか、詳しく解説していきます。

ベンチャー企業がIPOを行うメリット

ベンチャー企業がIPOを行うメリットは次の6つです。

・社会的信用力が向上する
・大きな資金調達ができる
・従業員のモチベーションが向上する
・将来的に株価の上昇で大きな創業者利益が得られる
・優秀な人材を獲得できる
・経営体制が整備される

社会的な信用や資金力や従業員のモチベーションアップなど、IPOによってさまざまな恩恵を受けることが可能です。ベンチャー企業がIPOをすることの6つのメリットについて詳しく解説していきます。

社会的信用力が向上する

IPOで上場すれば会社の社会的信用力が大きく向上します。

「上場企業」というだけで大きなブランド価値がありますし、IPOをして上場するためには財務状況や社内体制などで厳しい基準をクリアしなければならないためです。

IPOによって社会的な信用力が向上することで、一流企業との取引など、さらなる取引拡大へ繋げられる可能性があります

大きな資金調達ができる

IPOを実施して市場へ株式を公開することで大きな資金調達ができます。

金融機関からの借入では数十億円規模の資金調達をすることは難しいですが、IPOを実施して一般株主へ株式を売却することで数十億円以上の大きな資金調達を行うことも不可能ではありません。

IPOで調達した高額な資金を活用し、さらなる投資をすることで飛躍的に企業を成長させることも可能です。

従業員のモチベーションが向上する

IPOによって上場企業になることで従業員のモチベーションは向上します。

「上場企業勤務」というのは会社員にとって大きなステータスです。そのため、会社に対する愛着や仕事への取り組みも向上していくでしょう。

また、社員にストックオプションを発行すれば、経済的な側面でも社員のモチベーション向上を図ることができます。

IPOは心理的・経済的、両方の側面から従業員のモチベーション向上が期待できます。

ストックオプションについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひご参考ください。
【経営者必読】ストックオプション制度とは?仕組み・種類・メリット/デメリットを完全体系化!新株予約権との違いも解説!

将来的に株価の上昇で大きな創業者利益が得られる

創業者は企業の株式の多数を保有しているため、上場によって資産価値は飛躍的に上昇します。

また、会社が成長し、将来的に株価が上昇すれば大きな創業者利益を得られます。IPOは創業者が数億円〜数十億円という非常に大きな利益を得ることができるのもメリットです。

優秀な人材を獲得できる

IPOで上場企業になれば優秀な人材を獲得できます。就職や転職の際にも、その企業で働くかどうかの大きなバロメーターの1つが、上場企業かどうかです。

上場企業の方が人材を確保しやすいので、IPOを実施して上場企業となることで優秀な人材を確保でき、その人材が定着しやすい傾向があります。

経営体制が整備される

IPOを実施して上場企業になることによって、会社の管理体制が強化されます。上場するには証券取引所の厳しい審査をクリアしなければならないためです。

具体的には次のような体制を整備していきます。
・経理部門の設置
・財務部門の創設
・社内規定の作成
・コンプライアンスの強化等

これまでは経営に近い部署が一括して行っていたこれらの業務を、上場にあたっては専門部署を設置して経営体制を整備しなければなりません。

上場前よりも社内体制が整備され、より効率的な組織へと進化できるのもIPOのメリットです。

ベンチャー企業がIPOを行うデメリット

ベンチャー企業がIPOを行うことにはメリットも多いですが、次のようなデメリットもあるので注意しなければなりません。

・上場のための高い費用がかかる
・株主利益を考えて経営しなければならない
・毎年の情報開示と報告にコストがかかる
・敵対的な買収をされる危険性がある
・安定志向をもった従業員が増える可能性がある

資金的・事務的なコストは間違いなくIPOの方が大きくなりますし、人事面や外的に対する対策も必要になります。ベンチャー企業がIPOを実施する5つのデメリットについて詳しく見ていきましょう。

上場のための高い費用がかかる

IPOを実施して証券取引所へ上場するには上場前、上場中、上場後それぞれ非常に高い費用がかかります。

フェーズ費用
上場前・監査法人への報酬:800万円〜2,000万円
・主幹事証券会社へ支払う費用:500万円〜2000万円
・株式事務代行機関の費用:約400万円
・証券印刷会社の費用:約500万円
・IPOコンサルティング会社への費用:500万円〜1500万円
・内部統制にかかる費用(J-SOXコンサルティング):500万円〜1000万円
・弁護士費用:数十万円〜500万円
上場中・上場審査料:200万円〜400万円
・新規上場料:100万円〜1500万円
・登録免許税:資本組入額×0.7%
・証券会社への成功報酬:0円〜500万円程度
上場後・年間上場料:48万円〜456万円(上場時価総額に応じて決定)
・監査法人の報酬:1,000万円〜数千万円
・株式事務代行機関の費用:約400万円
・TDnetサービス料:年間約44万円
・株主総会運営費用

上場する前にトータル3,000万円〜5,000万円程度の費用がかかりますし、上場してからも年間3,000万円程度の費用がかかります。これらの費用はIPOを実施しなければかからなかった費用ですので、この点はデメリットです。

株主利益を考えて経営しなければならない

IPOを実施して上場企業になったら、会社は一般株主のものにもなります。そのため株主の利益を考えて毎年利益を出して配当金を分配しなければなりません

また、株主から経営に口を出されることもあります。今まではトップダウンで経営方針を決めていた企業でも、株主への説明責任は問われるようになります。上場以前よりも経営の自由度が狭くなるという点はIPOのデメリットです。

また、株主からは短期的な事業成果を求められることが多いです。もちろんステークホルダーへの説明の仕方にもよりますが、短期視点が強くなることで中長期的に花が開くような施策への投資がしにくくなるということも起こりやすいです。

毎年の情報開示と報告にコストがかかる

上場企業になると、毎年決算状況を報告し、有価証券報告書の作成が必要です。また、一般の株主を集めて株主総会も開催しなければなりません。

上場前は株主総会やディスクロージャーはカジュアルに行っていた企業でも、上場後は手間と費用をかけてしっかりと行う必要があります。

上場前よりも情報開示や報告の手間とコストと責任が圧倒的に大きくなる点もIPOのデメリットです。

敵対的な買収をされる危険性がある

上場によってライバル企業などから敵対的買収を仕掛けられる可能性もあります。敵対的買収とは、経営者の事前の同意を得ることなく多くの株式を買い占めて、第三者に経営権を奪われてしまうことを言います。株式を上場しているということは、いつでも誰もが株式を購入できるためこのようなことも起きてしまうのです。

日本においては多く起きるものではありませんが、可能性は考えられるので経営権を他社に奪われる敵対的買収に備える対策も講じておかなければなりません。

安定志向をもった従業員が増える可能性がある

IPOで上場することで安定志向の従業員が増える可能性があります。上場企業になることで優秀な人材が増える可能性がある一方、安定ばかりを求めてチャレンジしようとしない従業員が増える可能性があるのはデメリットです。未上場の成長中のステージでは、ベンチャーマインドをもった人材が集まる一方で、上場企業の安定さを求めてくる求職者も一定数存在します。

社員にチャレンジさせる仕組みや人事制度を構築していかないと、IPOがゴールのようになり、そこから会社が成長していかないリスクがあります。

ベンチャー企業はIPOをするべき?

実際のところ、ベンチャー企業はIPOをすべきなのでしょうか?それは企業の内容や企業が目指すべき方向によって異なります。

なぜ、ベンチャー企業はIPOを目指すのか、IPOに向いている企業と向いていない企業はどんな企業なのか、詳しく見ていきましょう。

ベンチャー企業がIPOを目指す理由

日本ではEXITの手段としてIPOを目指しているベンチャー企業が多いのは、主に次の3つの理由によるものです。

・大きな資金調達ができる
・会社が社会的な信用が獲得できる
・経営者個人のステータスと創業者利益

資金面や信用の面でIPOによって上場企業となった方が有利になることは間違いありません。上場してなければVCからのエクイティファイナンスや、金融機関などからのデットファイナンスを行うことが主流です。一方、IPOをすることで、一般投資家からの資金を集めることが可能となり、事業や設備に対して大きな投資もしやすくなるという訳です。

企業としての社会的信用力も付いてくるので、採用や新規取引にもいい影響を与えることが多いです。BtoC向けサービスでは「上場企業運営」という表記はやはり権威性が出ますし、BtoB企業であれば商談の受注率に大きく影響すると考えられます。

また、創業者として「上場企業オーナー」という非常に大きなステータスを獲得したいと考える経営者が多いというのも、日本のベンチャー企業がIPOを目指す大きな理由だと言えるでしょう。日本においては徐々にM&Aも増えてきているとはいえ、やはりIPOが主流のイグジット手段です。最年少上場という言葉もよく聞きますが、やはり若くして上場すると箔がつくという観点はあると考えられます。

そこに加えて上場後に株式を売却することによる売却益を得られるのもやはり大きなインセンティブとなっているでしょう。もちろん上場後に多くの株式を売却すると、市場からマイナスの評価をされるため売却するタイミングや量には気をつけなければいけません。そうだったとしても、IPO後に株価が上がり、そのキャピタルゲインを得られることはオーナー経営者の利点となることは間違いありません。

EXIT手段としてのM&Aはどうか?

EXITの手段としてIPOと並んで頻繁に行われる方法がM&Aです。M&AはIPOと比較して次のような利点があります。

・資金調達まで時間とコストがかからない
・シナジー効果が期待できる
・経営から離れられる

IPOには準備期間まで含めると3年程度の時間がかかりますが、M&Aは数ヶ月程度で手続きが完了します。すぐにお金を手にしたい場合にはM&Aの方がよいでしょう。

また、他社と合併することで、他社の技術やブランド力と自社に加わることによってシナジー効果も期待できます。IPOでは他社と提携することはありません。

他社の技術やブランドなどを自社に取り入れて会社を成長させたいというケースでは、M&Aの方が向いています。

M&Aによって会社の経営権を完全に譲受企業へ譲渡してしまえば、経営者は経営から離れられます。経営から離れて好きなことをしたい、新しい事業を立ち上げたいという方はM&Aの方がよいでしょう。

EXITおけるIPOとM&Aの違いを知りたい方は以下の記事をご覧ください。
EXITにおけるIPOとM&Aについて〜相違点・メリット・デメリットについて解説〜 

ベンチャー企業がIPOをした方がいい場合

長期的に会社を成長させていきたい場合にはIPOを選択するのもよいでしょう。

上場時に創業者は全ての株式を手放していくわけではありません。

会社の成長とともに少しずつ手放していくものですので、長期的に会社が成長し株価が上昇していけば大きな利益が得られます。「長いスパンで会社を成長させていきたい」、「成長していく見込みがある」という企業はIPOを検討してみてください。

ベンチャー企業がIPOを選ぶべきではない場合

会社の現状に満足しているのであれば、わざわざIPOで会社の一部を投資家へ売り渡す必要はありません。

会社は安定しているし、これ以上大きく成長する見通しもない、必要な設備投資もできているので大きな資金調達も不要という場合には、IPOを選択せずに現状維持を選択するのもよいでしょう。

上場後は毎期利益の最大化を図り会社を大きくするのが至上命題になるので、そのような運営をしていきたくない場合はあえてIPOをしないというのも選択肢の1つです。

ベンチャー企業がIPOをする流れ

ベンチャー企業がIPOを実施するには長い期間と、非常に多くの手続きが必要になります。
IPOを実施するために必要な期間と流れについて簡単に解説していきます。

IPOに必要な期間

IPOに必要な期間は3年です。例えば3月決算の企業が、2020年に上場の予定を立てた場合は、IPOが実施できるのは最短でも2022年の7月以降です。

上場前には2期分の監査期間があり、この期間が経過しなければ上場申請ができません。

IPOを実施するまでには最短で3年弱、準備に時間がかかる場合には4年程度の時間がかかります

IPOの大まかな流れ

IPO実施のためには次の4つの行程をクリアしなければなりません。

フェーズ実施すること
直前前々期(N-3期前)事業計画・資本計画の策定
プロジェクトチームの編成
IPOコンサルタントの選定
内部統制の整備
シュートレビューの実施
監査法人の・主幹事証券会社の選定
直前々期(N-2期前)利益管理制度・業務管理制度・組織運営体制・会計制度の整備
特別利害関係等との取引を解消・整理
関係会社を整備
会計監査実施
主幹事証券会社・監査法人と打ち合わせ
直前期(N-1期前)経営管理体制の運用
事業計画・資本政策の見直し
市場の選定
申請書類作成
申請期上場審査
上場申請
上場承認

3月決算の企業が、2020年に上場の予定を立てた場合、2021年3月決算(2020年4月〜2021年3月分)と2022年3月決算(2021年4月〜2022年3月)の期間は監査期間です。
つまり、丸2年は監査を受けなければなりません。

なお監査を受ける前までには半年程度前から、管理体制の整備や証券会社の整備を行います。

そして監査が終了したら3ヶ月程度かけて申請のための準備を行い、申請後には2〜3ヶ月程度証券取引所の審査があり、審査に通過すると、晴れて株式の公募・売出となります。

準備期間と監査期間で2年半、申請準備と審査で半年程度、合計で丸3年の時間をかけてIPOが行われます

ベンチャー企業がIPOをする際の注意点

IPOを実施するためには思い立ってすぐにはできませんし、社員の独力だけでも不可能です。IPOを実施するためには長期の計画と専門家のサポートが必要不可欠です

そのためベンチャー企業がIPOを実施する際には次の注意点を理解しておきましょう。

上場4年以上前から具体的なスケジュールを立てる

IPOを実施するためには監査期間や申請準備などの必要不可欠な期間だけで丸3年の時間が必要です。そのため、上場を実現する4年以上前から、具体的なスケジュールを決めていきましょう。

上場審査に通過するための社内体制の構築をどうするかなど、早めに上場準備プロジェクトチームを立ち上げて準備を進めていくことが重要です。

基準に則った体制整備を早めに行う

プロジェクトチームを立ち上げたら、上場の基準に則った社内体制を早めに構築していきましょう

上場直前に体制を変更することは非現実的です。上場準備段階で監査法人からのショートレビューなどの対応も必要で、徐々に社内管理体制を強化していくことが求められます。上場したタイミングで、すでに会社が基準に則った体制で円滑に運営されるよう、早めに体制を整備していきましょう。

早めに外部の専門家と連携する

監査法人・主幹事証券会社・弁護士等の外部業者とは早めに連携しましょう

社内だけで上場の基準に則った体制作りを行うことには限界があります。

また、最近では監査難民という言葉も飛び交っています。監査難民とは契約してくれる監査法人が見つからないという状況が起きてしまうことです。国内でIPOを目指す企業は増加傾向にあるのですが、監査法人はそれに比例して増えるわけではありません。IPO準備における需要と共有にギャップが生まれてしまっているという訳です。

IPOを実施することを決めたのであれば、早めに監査法人などへコンタクトを取り、社内に立ち上げた専門部署とともに上場準備を進めることをおすすめします。

まとめ

ベンチャー企業がIPOを実施することには次のようなメリットがあります。

・大きな資金調達
・会社の成長による創業者利益の獲得
・従業員のモチベーションの向上
・社会的信用の確保
・優秀な人材の確保
・経営体制の整備

これらの理由からIPOを実施して上場を目指すベンチャー企業は非常に多くなっています。しかしIPOには3年程度の時間がかかるので早めに準備をすることが重要です。

IPOを目指すベンチャー企業経営者は早めに専門家へ相談しましょう。

       
IPOを目指すために
知っておきたいポイント
  1. IPOまでのロードマップ
  2. N-3期の想定課題と解決策
  3. N-2~N-1期の想定課題と解決策
  4. 陥りがちな内部統制構築における課題
  5. 業務フロー構築
  6. 稟議制度とワークフロー
  7. 社内規程の構築
  8. コンプライアンスチェック
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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。