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IPO準備に法務は必要?上場審査での法務の役割・業務を解説!

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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IPOにおいて法務は非常に重要な役割を持ち、多岐に渡る業務を遂行する必要があります。

しかし、IPOを目指している企業経営者の中には、法務がどれだけ重要なのか、法務がどんな役割を持つのかわからない方もいらっしゃることでしょう。

そこで、今回の記事では、

IPOにおける法務の重要性
IPOにおける法務の位置づけ
IPOにおける法務の役割
IPOで法務が行う業務
IPOに悪影響を及ぼす可能性のある契約の例
IPOで法務に関する問題が起きた例

について解説していきます。

IPOにおいて法務は重要

IPOに向けた準備の中で、法務の重要性が増しています。その理由は、企業のコーポレートガバナンスやコンプライアンスの必要性が高まったからです。

従来は、IPOという場面で法務は重視されておらず、株式市場は企業の財務・会計のシステム構築を重要だとしていました。上場企業において最も重要なことは、投資家をはじめとするステークホルダーに対して、適切なタイミングで正しい情報開示を行うことです。情報が適切に開示されることによって、ステークホルダーにとって健全な判断を行えます。

そのため、上場の準備においては、財務・会計に基づく様々な企業情報の開示を行う運用の仕組みづくりが最優先に行われていました。法務は付随的に整備されるものとして、IPOのプロセスにおいては、あまり重要視されることはありませんでした。

しかし、企業による不正会計や粉飾決算が相次いだことで、財務・会計の仕組みづくりについて、そもそも適切に制度が構築・運用されているかどうかをチェックする必要があるのではないかという問題意識が生じました。この流れを受け、J-SOX(内部統制報告制度)が導入されました。

あわせて、食品の産地偽装といった、企業のサービスにおけるルール違反も相次ぎました。企業の活動は社会的に大きな影響を及ぼすので、法令で取り締まるだけでなく、企業ごとに行動規準を定めることが求められるようになりました。こうした背景があり、2015年3月に東京証券取引所と金融庁が協働し、企業統治指針として「コーポレートガバナンス・コード」が定められ、同年6月1日から運用が開始されました。現在は2021年6月に改訂されたもので運用されています。

上場企業はJ-SOXやコーポレートガバナンス・コードへの対応が求められます。IPOを実現すれば上場企業となるため、IPOへ向けた準備の中で体制を整備する必要があり、このことから法務への重要性が高まっているのです

法務はIPOのどの部分に関わるのか?

法務はIPOを実現するために必要な部分全てに関わるといえます。

IPOを実現するには、証券取引所の上場審査を通過する必要があります。上場審査には形式要件と実質審査基準があります。実質審査基準の内容は以下の5点です。

事業の継続性及び収益性
経営の健全性
企業のコーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性
企業内容等の開示の適正性
その他公益または投資家保護の観点から当取引所が必要と認める事項

企業の継続性と収益性の観点として、持続的な事業であるためには、企業が法令を遵守し必要に応じて規制に対応することによって事業の基盤を構築していく必要があります。そして、公正かつ忠実な事業の遂行には、コーポレートガバナンス・コードへの対応と内部統制の整備・運用が必要不可欠です。上記を実現するためには、法務の視点が欠かせません。

IPOにおける法務の5つの役割

IPOにおける法務の役割は以下の5つです。

内部統制の確立
コーポレートガバナンス対応に向けた内部管理体制整備
資本政策・法務デューデリジェンス
レピュテーションリスクのマネジメント
事業の拡大に伴う法的リスクへのマネジメント

以下で解説していきます。

内部統制の確立

内部統制確立のためには、自社のリスクがどこにあるのか把握し、リスクの程度を評価し、マネジメントすることが求められますが、法務はそのための具体策の実行を担います

内部統制は、未上場の段階でもある程度の整備が行われているのが一般的です。会社法を中心とした法令で求められる最低限のことを実行しなければ、企業経営における信頼性を損なうためです。上場にあたって重要なのは内部統制の質の側面です。

具体的には、業務フローや組織内の各部署の権限分掌を可視化した上で、法令違反や不正が行われないかどうかリスクの所在を特定したり、特定したリスクの評価とリスクの顕在化を防止するマネジメントを行うことが求められ、この施策を実行するのは法務の役割といえるでしょう。

コーポレートガバナンス・コード対応に向けた内部管理体制整備

現在運用されているコーポレートガバナンス・コードは、5つの基本原則と、31の原則、そして47の補充原則により構成されています。

コーポレートガバナンスコードには「コンプライオアエクスプレイン(Comply or Explain)」の原則が適用されています。これは「遵守(Comply)せよ、さもなくば説明(Explain)せよ」という意味で、コーポレートガバナンスコードを遵守するか、遵守しないのであればその説明を求めるという考え方です。

数の多いコーポレートガバナンス・コードへの対応は法務の役割です。

資本政策・法務デューデリジェンス

資本政策は数字的な側面では財務会計が担う部分ですが、スキームの構築、契約内容作成、必要な手続きの実行といった部分は法務の役割です。資本政策の実現には法務が担う役割は大きいといえます。

また、IPOを実現していくための様々な情報収集を行い、社内の情報を整理し、締結している契約やコンプライアンス体制などに法律上の問題点がないか調査・検討していきます。このようなDD(デューデリジェンス)も法務の役割です。

レピュテーションリスクのマネジメント

レピュテーションリスクのマネジメントも法務の役割の1つです。

レピュテーションリスクは不祥事対応・危機管理との親和性が高く、対応には一定の社会的な合意形成のある基準に従い解決の規準を定め、実行するというリーガルマインドの価値が試されます。その意味で、レピュテーションリスクのマネジメントにおいて法務の担う役割があります。

事業の拡大に伴う法的リスクへのマネジメント

事業の拡大によって生じる新たな法的リスクへのマネジメントも法務の重要な役割です。

IPOはゴールではなく通過点なので、企業はより成長していくために、通常、事業の多角化や新規事業を進めていきます。多角化・新規事業立ち上げにあたって、それまでの事業にはなかった法律上の規制やガイドラインへの適合が求められ、場合によっては法規制やガイドラインが障壁となります。事業の適法性を判断したり、適法に実現していくための理由付けや省庁対応、あるいはルールを策定することにより市場を創出するためには法務の視点が不可欠です。

IPOで法務が行う業務

IPOで法務が行う業務は以下の5つです。

コンプライアンス体制の整備
コーポレート機能の運用
J-SOXへの対応
事業の拡大と収益性を確保する仕組みの設計・構築
知的財産の保護

コンプライアンス体制の整備

法務が行う業務として社内のコンプライアンス体制の整備があげられます。

会社法を中心とした企業の組織に関する法律その他ルール、事業ごとに存在する業法への適応、所管省庁の細目的な規則・通達、ガイドラインへの対応など、全て網羅的に遵守する必要があります。これらは法的知見に基づいて正確に行う必要があるため、法務に委ねられます

また、法務には、事業を実行する現場の各部署において法令順守のチェックが行われる仕組みを構築・運用していくことが求められます。

コーポレート機能の運用

株主総会、取締役会運営を中心に、会社が事業を執行していく上で必要な手続きは適法に遂行される必要があるため、法務が中心となって業務を行います資金調達に関しても、増資のスキームや投資契約の内容を確認することは法務の業務にあたります。上記の業務はコーポレートガバナンス・コードへの対応とも関係します。

J-SOX(内部統制報告制度)への対応

J-SOX(内部統制報告制度)への対応においても法務が関わる業務があります

財務との協働関係となる側面もありますが、コンプライアンス体制の整備を中心に法務がカバーする業務も多いです。リスクの特定や評価の部分に関しては、法務が積極的に内容を整理することが求められます

事業の拡大と収益性を確保する仕組みの設計・構築

法務も将来的な収益拡大のための業務を担います。

企業の収益性を確保するためには事業の拡大や新規事業の立ち上げが必要になりますが、上記でも説明したとおり、法規制がその障壁になることもあり得ます。

事業の適法性をチェックしたり、法規制的にグレーゾーンな部分をリスクとしてとれる程度のものにするための対応は法務が行う業務といえます。

知的財産の保護

知的財産の保護に関する業務も法務が行う業務に含まれています。

上場企業になると注目度が高まることから、他社との関係でも経営資源を守る業務が必要になります。インターネットやSNSが発展した現代では、技術やアイデア、デザインに関して、知的財産の保護・管理を適正に行っていくことがますます重要になっています。

IPOに悪影響を及ぼす可能性のある契約の例6つ

契約管理は法務の基本的な業務です。

IPOにおける契約管理のポイントは、事業を運営するうえで、重要な契約が合理的な内容で、今後も継続していけるかという点です。そのため、まずは自社の事業にとって何が重要な契約なのか確認しましょう

以下にIPO審査で悪影響を及ぼす契約の例を6つあげます。自社が締結している重要な契約で、該当するものがないかチェックすることをおすすめします。

ライセンス契約・フランチャイズ契約の中途解約・最低保証
サービス等利用契約における長期間・独占的利用義務
開発委託・製造委託契約における著作権帰属
莫大な違約金条項・仕入先と販売先との損害賠償の時効・上限額
業務提携契約における競業避止義務
株主間契約・投資契約において経営の独立性を損なうような条項

IPOで法務に関する問題が起きた例(グレイステクノロジー株式会社)

IPOで法務に関する問題が起きた例として、グレイステクノロジー株式会社の事例を紹介します。

グレイステクノロジーは、2000年に設立された、産業機械やソフトウェアメーカー向け技術マニュアルの制作、マニュアル基幹システム「e-manual」の販売を行う、社員数40名の会社です。2016年12月に東証マザーズに上場、2018年8月には東証一部に市場変更を行っていました。

グレイステクノロジーは元代表取締役によるパワハラというコンプライアンス違反が原因で粉飾決算を行っていたことが上場後に発覚しました。

「グレイステクノロジー株式会社特別調査委員会」によると、上場以降売上の前倒し計上や架空売上が横行し、売上高の半分がこのような不正計上によって成り立っていたことが判明しました。

「グレイステクノロジー株式会社特別調査委員会」P.103より引用

この粉飾決算の背景に元代表取締役によるパワハラがあったことが判明しています。報告書によると、経営会議や取締役会では、元代表取締役による常軌を逸したような怒号が飛んでいたことが報告されています。代表取締役からの人格否定、罵倒、恫喝によって、役職員は予算必達以外の選択肢はないと圧力をかけられ、代表取締役に迎合するしかなかったとみられます。

本件の影響を受け、グレイステクノロジーは2022年2月28日に上場廃止となりました。

グレイステクノロジーの一連の問題が発生した原因は内部統制を構築できていなかったことにあるのではないでしょうか

グレイステクノロジーのような問題を起こしIPOを失敗させないためにも、内部統制を適切に構築する必要があります。そのためには、上述の通り、IPOにおける法務の役割はかなり重要といえます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回はIPOにおける法務の重要性や役割、業務について解説しました。

現在スタートアップ・ベンチャー企業を経営していてIPOを目指されている方、IPOに向けた準備をされている方にとって参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

       
IPOを目指すために
知っておきたいポイント
  1. IPOまでのロードマップ
  2. N-3期の想定課題と解決策
  3. N-2~N-1期の想定課題と解決策
  4. 陥りがちな内部統制構築における課題
  5. 業務フロー構築
  6. 稟議制度とワークフロー
  7. 社内規程の構築
  8. コンプライアンスチェック
  9. 制度導入にお困りの場合
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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。