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【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
~概要と基本原則を解説~

コーポレートガバナンス・コードの「基本的な概要」と「基本原則」にフォーカスして紹介

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2021年6月11日に改訂コーポレートガバナンス・コードが施行されました。今回の改訂では、上場企業にESGやサステナビリティの対応を求める内容が拡充されており、実務上の対応が必要になる場合があります。

そこで今回は、コーポレートガバナンス・コード改訂のポイントや実務対応新コードに対応した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の開示例をご紹介します。


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1.コーポレートガバナンス・コードとは

 

コーポレートガバナンス・コードとは、金融庁と東京証券取引所が取りまとめた、東証上場企業の行動原則を言います。2015年6月から適用が開始されました。適切な情報開示や株主との対話、株主や取引先だけでなく、従業員や地域社会などを含めたステークホルダーとの協働を通じて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を促すことを目的としています。

内容は5つの基本原則とそれに紐づく原則補充原則で構成されています。コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)が採用されているため、東証に上場する企業はそれぞれの原則を実施するか、あるいは、実施しないでその理由を説明する、のいずれかを選ぶことができます(有価証券上場規程436条の3)。

2021年6月に改訂コーポレートガバナンス・コードが施行され、企業統治がより一層強化されると期待されています。

2.2021年改訂コーポレートガバナンス・コードの概要

2021年改訂コーポレートガバナンス・コードの概要

2021年6月11日より施行されています。前回の2018年改訂コーポレートガバナンス・コードに対して、5つの補充原則が新設され、合計で83原則となりました。また、14の原則・補充原則が追加・修正を受けたほか、4つの原則で開示項目が追加・変更されました。

さらに、2022年の市場区分見直しを考慮して、プライム市場上場会社に適用する6原則が選定されています。

コーポレートガバナンス・コード改訂のポイント

改訂の主なポイントは、以下の3点です。

ポイント1:取締役会の機能向上を図る

他社経験や資質を有する独立社外取締役の選任、独立性のある指名委員会・報酬委員会の設置、スキルマトリックスの策定・開示などが盛り込まれており、取締役会の機能が十分に発揮できる体制の構築が求められています。

特にプライム市場上場会社は、独立社外取締役を3分の1以上選任する(原則4-8)、委員会の構成員の過半数に独立社外取締役を選任する(補充原則4-10①)など、他の市場より高い基準が設けられることになりました。

【関連する原則:原則4-8、補充原則4-10①、補充原則4-11①】

ポイント2:中核人材の多様性を確保する

管理職など中核人材における多様性の確保が追加されました。女性・外国人・中途採用者の登用に対する考え方や自主的な目標を示すほか、人材育成・社内環境整備方針を策定し開示することが求められています。

【関連する原則:補充原則2-4①】

ポイント3:サステナビリティに取り組む

独立社外取締役と並び、サステナビリティも大きく取り上げられました。経営戦略を開示する際、サステナビリティへの取り組みも開示する、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やこれと同等の国際的枠組みを採用して、気候変動に伴うリスク・収益機会に関する開示の質と量を充実させる(プライム市場上場会社が対象)など、具体的な内容が追加されています。

サステナビリティは環境面への配慮だけでなく、人権の尊重、労働環境や従業員の健康、公正かつ適正な処遇・取引など人的資本に関わる内容も含まれています。総合的な観点から、企業が成長し続けることが求められています。

【関連する原則:補充原則3-1③】

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)およびプライム市場に上場している会社のTCFD開示の実質的義務化については、次の記事もご参照ください。
プライム市場におけるTCFDの開示の義務化|コーポレートガバナンス・コードの改訂を背景にした情報開示の今後の見通しも解説
TCFDとは?気候関連財務情報開示タスクフォースの概要・TCFDに関する世界的な取組について解説

その他のポイント:グループガバナンス

グループガバナンスの観点から、コーポレートガバナンス・コードでは次のような点が求められています。
議決権のある株式の過半数を保有する支配株主を有する上場企業は、取締役会において支配株主からの独立性を持つ独立社外取締役を3分の1以上、プライム市場に属する上場企業においては過半数を専任する。または、支配株主と少数株主の利益が相反する取引について審議・検討を行う、独立社外取締役を含む者で構成された特別委員会を設置する。

【関連する原則:補充原則4-8③】

その他のポイント:監査に対する信頼性の確保

企業の不正を防ぐためには、監査に対する信頼性を確保することが大切です。このような視点から、上場企業は、取締役会および監査役会の機能発揮に向けて、内部監査部門が取締役会・監査役会に対して適切に直接の報告を行う仕組みの構築、また、内部監査部門と取締役、監査役との連携が求められています。

【関連する原則:補充原則4-13③】

その他のポイント:内部統制・リスク管理

内部統制およびリスク管理は、取締役会による適切な体制の整備が大切になります。コーポレートガバナンス・コードにおいて、取締役会はグループ全体を含む内部統制や全社的なリスク管理体制を適切に構築して、内部監査部門を活用することで、内部監査部門による内部統制およびリスク管理体制の運用状況を監督することを求められています。

【関連する原則:補充原則4-3④】

内部統制についてはこちらの記事もご参照ください。
内部統制とは?会社法・金融商品取引法での定義や方針を徹底解説!

その他のポイント:株主総会の運営方法

プライム市場に属する上場企業は、株主総会での意思決定のためのプロセス全体を建設的なものにするために、株主が株主総会での管理を行使することができるような適切な環境の整備と外部への情報提供を充実させていくことが求められます。

そのためにも、プライム市場の上場企業は議決権電子行使プラットフォーム利用の促進をすることや、開示書類のうち必要とされる情報について英語での開示と提供の促進がコーポレートガバナンス・コードにて求められています。

【関連する原則:補充原則1-2④、補充原則3-1②】

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3.コーポレートガバナンス・コード改訂に伴う実務対応

ステップ1:取締役会で対応方針を決定する

コーポレートガバナンス・コードの全適用が目標ですが、企業によっては対応の難しい原則があることも想定されます。そこで取締役会では、現在の考え方や企業理念・経営理念等の関係を踏まえた上で、企業統治に対する考え方やコーポレートガバナンス・コードへの対応方針等について議論を十分に行い、対応方針を決定しましょう。

ステップ2:原則を実施・未実施に仕分けする

新設や追加・変更等を経て新たに適用対象となる原則について、現時点で自社が実施しているか否かの仕分けを行います。特に開示原則は、原則の実施にあたり、特定の事項を開示する必要があります。

特に近年、気温の上昇など環境問題が企業の財務情報に与える影響について、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿った情報開示に取り組む企業が増えています。

TCFD開示は、プライム市場に上場する企業に対して実質的に義務化されることになりました。TCFD情報開示の流れは、スタンダード市場やグロース市場にまで拡大する可能性も考えられます。

コーポレートガバナンス・コードの最新の状況を確認しつつ、現在開示している書類を精査して、実施・未実施を判断しましょう。

TCFD提言に沿った情報開示については次の記事もご参照ください。
TCFDの4つの主要な開示要件|ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標について詳細に解説
TCFDの開示内容の具体例|金融機関が発行するTCFDレポートを中心に解説

ステップ3:未実施の原則への対応を検討する

ステップ2で未実施に分類された原則は、今後の実施有無や実施内容・時期等について、取締役会で審議を行い、決定する必要があります。経営環境や会社の抱える問題、株主総会の日程など重要度や対応にかかる期間の長さを考慮して、優先度の高いものから対応する必要があります。

ステップ4:開示内容を検討する

各原則を実施しない場合は、実施しない理由や原則の趣旨・精神の実現のために実施している代替的な取り組みを検討します。また、開示原則を実施する場合は、個別具体的に開示内容を検討します。ひな型通りではなく、企業の個別事情が十分に反映されており、ステークホルダーの理解を得られる内容である必要があります

ステップ5:報告書の記載内容を確定し、更新する

決定した内容を確定し、報告書の更新を行います。実施しない原則は「各原則を実施しない理由」欄、開示原則は「各原則に基づく開示」欄に、それぞれ原則の項番を付して記載し、12月までにTDnet(適時開示情報閲覧サービス)で提出します。

実務対応の中で、中長期インセンティブ制度の導入検討が必要な企業様は、株式報酬制度の最新導入実例をまとめた株式報酬リサーチをぜひご活用ください。

4.改訂コーポレートガバナンス・コードに対応した開示例

2021年6月改訂に対応したコーポレートガバナンス・コードを6つご紹介します。

1.双日株式会社様

最終更新日:2021年6月18日
証券コード:2768(東証プライム)
事業内容:総合商社(自動車、航空、医療インフラ、プラント、エネルギー、金属資源、化学品、食料、農林資源、消費財など)
コーポレート・ガバナンス報告書【PDF】

双日株式会社は、改訂コーポレートガバナンス・コードの83原則を全て実施しており、各原則への対応や取り組みは、報告書の末尾の「コーポレートガバナン ス・コード各原則に関する当社の取組について」に記載されています。

特に新設項目の、中核人材の多様性の確保(補充原則2-4①)では、2ページを使った詳細な説明があり、2030年代に女性社員比率を50%程度にする2025年までに海外事業会社CxOの過半数を外国人人材にする毎年の採用者は3割を中途採用にする、など具体的な数値目標が示されています。

また、サステナビリティへの取組み(補充原則3-1③)では、統合報告書やウェブサイトを通じて脱炭素社会に対する考え方や目標、取組みを公表しており、加えて、中期経営計画2023にて、人材、DX等など非財務投資に300億円を配分している旨を開示しています。

全体として具体的かつ非常に充実した内容になっており、各原則や図、関連リンクなどを取り入れて、読みやすさにも配慮されています。2021年改訂に対応させる際、参考になる報告書と言えるでしょう。

2.株式会社アイシン様

最終更新日:2021年6月25日
証券コード:7259(東証プライム)
事業内容:自動車部品、エネルギー・住生活関連製品の製造販売
コーポレート・ガバナンス報告【PDF】

株式会社アイシンは、改訂コーポレートガバナンス・コードの83原則を全て実施しています。

優先課題として「多様性の推進」を掲げており、中核人材の多様性の確保(補充原則2-4①)に向けて、女性管理職比率、女性新卒採用比率の設定と社外への公表キャリア申告制度等を通じたキャリア形成支援職場環境整備に取り組んでいます。

目標KPIや取組み、取締役・監査役の専門性および経験をまとめたスキルマトリックス(補充原則4-11①)など、詳細は株式会社アイシン 公式企業サイトで開示されています。

3.株式会社いい生活様

最終更新日:2021年6月25日
証券コード:3796(東証スタンダード)
事業内容:不動産業界に特化した業務支援システムの開発・提供、マーケティング
コーポレート・ガバナンス報告書【PDF】

株式会社いい生活は、改訂コーポレートガバナンス・コードの83原則のうち76原則を実施しており、プライム市場向けを含む、各原則への対応や取り組みは、「2021年6月25日 コーポレートガバナンス・コードに関する当社の取り組み」に記載されています。

実施するサステナビリティへの取組み(補充原則3-1③)は、ウェブサイトの「ESG」の項目や決算説明会資料等で開示しており、環境負荷の低減高度IT人材の創出健康経営の推進などが掲げられています。人的資本やソフトウェアを中心とする知的財産への投資についても言及されています。

このほか、プライム市場上場会社で必要とされる英語での情報開示・提供(補充原則3-1②)については、海外投資家向けに英語版の決算説明資料を毎四半期作成・公開して対応しています。

一方、中核人材の多様性の確保(補充原則2-4①)、指名委員会・報酬委員会の設置(補充原則4-10①)、スキルマトリックスの策定・開示(補充原則4-11①)など一部の原則は実施しない旨の記載があります。しかし、実施しない理由の説明では、現時点での実績や独自の選任基準の採用など、会社の個別事情や今後の方針等を十分に反映しており、ステークホルダーの理解を得られる内容となっています。

4.ヤマハ株式会社様

最終更新日:2021年6月25日
証券コード:7951(東証プライム)
事業内容:楽器、音響機器、部品・装置の製造販売等
コーポレート・ガバナンス報告書【PDF】

ヤマハ株式会社は、改訂コーポレートガバナンス・コードの83原則を全て実施しています。

中核人材の多様性の確保(補充原則2-4①)では、「人重視の経営」に基づいて多様な人材の視点や価値観を活かすとしており、人材の多様性や育成方針についてヤマハ株式会社ホームページで公開されています。また、重要ポストの国籍多様化指標や女性管理職比率を策定・運用している旨が記載されています。

このほか、サステナビリティへの取組みとTCFDへの対応(補充原則3-1③)、取締役の知識や経験等を一覧にしたスキル・マトリックス(補充原則4-11①)に関しては、統合報告書サステナビリティレポート、ホームページ上に掲載され、それぞれ詳しく説明されています。

5.扶桑化学工業株式会社様

最終更新日:2021年7月1日
証券コード:4368(東証プライム)
事業内容:電子材料・機能性化学品の製造販売(果実酸、コロイダルシリカなど)
コーポレート・ガバナンス報告書【PDF】

扶桑化学工業株式会社は、改訂コーポレートガバナンス・コードの83原則のうち79原則を実施しています。

中核人材の多様性の確保(補充原則2-4①)は、女性活躍推進の取組みや人材育成方針目標・スケジュール等が扶桑化学工業ホームページで開示されており、中途採用者の管理職等への積極的な登用、子会社における外国人の役員登用についても言及されています。

一方、サステナビリティへの取組み(補充原則3-1③)は未実施となっていますが、中期経営計画やホームページを通じて、サステナビリティへの取組指針やESGの取組み事例が示されています。加えて、データの収集など基本方針の策定に向けて検討し、定期的に取締役会に報告するとの説明があります。このほか、補充原則4-11①に関連して、取締役の主なスキル・経験等(スキル・マトリックス)が報告書末尾に掲載されています。

6.児玉化学工業株式会社様

最終更新日:2021年8月3日
証券コード:4222(東証スタンダード)
事業内容:自動車内装部品、住宅設備、樹脂製品等の製造・販売
コーポレート・ガバナンス報告書【PDF】

児玉化学工業株式会社は、改訂コーポレートガバナンス・コードの83原則のうち74原則を実施しています。報告書は2022年4月のスタンダード市場への移行を前提として記載されています。

情報開示の充実(原則3-1)を図るため、コーポレート・ガバナンスの基本方針の、ホームページ等での開示を検討しています。また、スキルマトリックスの策定・開示(補充原則4-11①)は、来年度の取締役の改選時より開示予定との記載があります。

新設の補充原則2-4①や補充原則4-2②など実施していない原則がありますが、2021年度中に目標値を設定する、方針を決定して具体的な取り組みを行うとしています。このため今後は、中核人材の多様性やサステナビリティにより配慮した経営が進められていくと考えられます。

改訂対応はSOICOにご相談ください

6月11日の施行開始に伴い、すでに一部の企業では、新コードに対応した報告書が開示されています。開示内容の検討作業を進めている企業がほとんどと思われますが、12月末の提出期限に向けて、新コードに対応した報告書は続々と開示されていくものと見込まれます。

改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応についてお困りごとがございましたら、お気軽にSOICOまでご相談ください。

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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。