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就業規則の作成について|就業規則の作成手順と記載事項・作成時の注意点も解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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創業間もないスタートアップやベンチャー企業において、契約や労務周りなどバックオフィスの制度が整っていない企業もあるでしょう。

しかし、上場を目指していく企業は上場審査の過程でコーポレートガバナンスや内部管理体制が整備されているかを見られます。その中の1つに労務管理体制も含まれています。

上場審査で確認される労務管理の項目には、勤怠管理や未払いの残業代がないかどうかなど従業員が安心・安全に働けていることに関連するものが多くあります。労務管理の中でも、重要なものとして就業規則があります。

本記事では、就業規則について
・作成の手順
・作成する5つのメリット
・作成時の注意点
を解説していきます。

就業規則とは?

就業規則とは、労働者と使用者の双方が守るべき雇用に関する規則のことです。

就業規則は具体的には、始業と終業の時刻や休憩時間、賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切りや支払いの時期、昇給に関する事項、退職や解雇の事由、さらに、安全衛生や職業訓練、災害時の補償などについて、会社ごとに定められています。

就業規則を明確に定め、労使双方が就業規則を遵守することで、労使間のトラブルを避けることができます

就業規則と労働条件との違い

就業規則と労働条件の違いは、就業規則は使用者と労働者全員との間で共通のルールである一方で、労働条件は使用者と各労働者の間で個別に定められたルールであることです。

使用者は労働者一人ずつとの間で個別に労働契約を締結する必要があり、その際に用いられるものが労働条件です。労働条件は就業規則をもとに決定され、使用者と労働者が個別で合意することにより決定されます。

労働契約を締結する際に、絶対的に明示すべき労働条件の事項は以下の6点です。

【労働条件の絶対的明示事項】
(1)労働契約の期間に関する事項
(2)有期労働契約の更新の基準に関する事項
(3)就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
(4)始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2交代制等に就業させる場合に関する事項
(5)賃金の決定・計算・支払い方法、賃金の締め切り、支払い時期、昇給に関する事項(退職手当及び臨時の賃金は除く)
(6)退職に関する事項(解雇を含む)

就業規則の効力

就業規則は​​法令または当該事業場について適用される労働協約に反してはならないと定められています(労働基準法第92条)。

したがって、就業規則は法令または労働協約の範囲内で効力を持ちます

また、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とすると定められています(労働基準法第93条・第12条)。

したがって、従業員と個別に労働契約を結ぶ際の労働条件は、就業規則に違反しないように作成しなければなりません。

使用者の就業規則作成義務

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」と定められています(労働基準法89条)。

実際は、常時10人以上の労働者を使用する事業場が複数ある場合は、事業場ごとに就業規則を作成する必要があります

事業場単位で従業員代表者の意見聴取手続きが定められていることなどから、労働基準法89条には事業場という言葉はないものの、企業単位ではなく事業場単位で就業規則を作成しなければならないと考えられています。

従業員が10人未満の企業の就業規則については次の記事もご参照ください。
従業員数10人未満の企業の就業規則について|就業規則作成手続きの注意点なども解説

就業規則の作成

就業規則の作成について、以下の内容を説明していきます。
・就業規則の記載事項
・就業規則の作成手順

就業規則の記載事項

就業規則の記載事項には、必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項と当該事業場でルールを定めた場合に記載しなければならない相対的必要記載事項の大きく2種類あります(労働基準法89条)。以下でそれぞれの事項の内容を詳しく解説を行います。

絶対的必要記載事項

絶対的必要記載事項は以下の3点です。

(1)始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
(2)賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(3)退職に関する事項(解雇の事由を含む)

絶対的必要記載事項は、労働時間や賃金、退職(解雇)に関する項目が該当します。これらのような労働契約を交わす上で1つでも欠けていたらトラブルにつながるような項目は、労働契約において基本的で重要な項目であるため、必ず記載を行わなければいけません。

相対的必要記載事項

相対的必要記載事項は以下の8点です。

(1)適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
(2)臨時の賃金・最低賃金額関係:臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額に関する事項
(3)労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項
(4)安全及び衛生に関する事項
(5)職業訓練に関する事項
(6)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(7)表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
(8)事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項

対的必要記載事項は、追加の手当や、補償、職場のルールなど事業所ごとに決められるものであるため、事業所ごとにこれらの項目がある場合は記載を行わなければなりません。

就業規則の作成手順

就業規則の作成は以下の手順で行います。

1.全体草案を作成する
2.代表従業員へのヒアリングを行う
3.就業規則を労働基準監督署へ届け出る
4.就業規則を従業員に周知する

それぞれの手順について解説を行います。

1.全体草案を作成する

まずはじめに、就業規則の全体草案の作成を行います。就業規則の絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項の項目の内容を職場の実態や状況に合わせて作成を行い、内容が法令に反していないか等のリーガルチェックも行います。

就業規則は従業員が理解できるかどうかという点も重要なポイントであるため、従業員にわかりやすく明確な内容であるかという視点で作成を行うことも必要です。

2.代表従業員へのヒアリングを行う

就業規則の全体草案の作成が終わったら、代表従業員へのヒアリングを行います。従業員代表者に確認してもらったら、代表従業員から就業規則草案に対する意見書とサインをもらいます

3.就業規則を労働基準監督署へ届け出る

代表従業員から意見書をもらったら、就業規則届と意見書を添付し事業所の所在地にあたる管轄の労働基準監督署へ届出を行います。

4.就業規則を従業員に周知する

労働基準監督署への届出の提出が済んだら、従業員に就業規則の周知を行わなければいけません。基本的には、従業員一人一人の手元に渡るように就業規則がまとまった書面にて配布を行う必要があります

従業員への就業規則の配布が困難な場合は、掲示板などに貼り出して周知を行うこともできますが、後々、十分に周知されていなかったなどのトラブルが発生するリスクが起こらないようにできる限り、従業員全員に就業規則が行き渡るようにしましょう。

就業規則を作成する5つのメリット

企業が就業規則を作成するメリットについて、次の5つの点を説明していきます。
・1.労働環境を明確にすることで社員が安心して働ける
・2.労使間のトラブルを事前に予防できる
・3.懲戒処分を行う根拠となる
・4.リスクマネージメントに繋がる
・5.助成金の申請が可能になる

1.労働環境を明確にすることで社員が安心して働ける

就業規則の中で、労働条件や給与や退職金について明確に規定されており、さらに、育休や病気の際に休むことができることなどが明記されていると社員は安心して働くことができます

労働者が安心して働ける環境を作ることにより、会社への帰属意識の向上に繋がり、結果的に社員の離職率の低下に繋がります。

2.労使間のトラブルを事前に予防できる

就業規則を定めることで、労使間トラブルを事前に予防することができます。

近年、残業代や有給休暇、不当な配置転換に関する労使間トラブルの裁判が増加しています。これらのトラブルが裁判にまで発展する原因の多くは、就業規則に明確な記載がなされていないことにあります。

労使間トラブルを起こさないためにも、あらかじめ、就業規則に残業代や有給休暇などの労働条件について明記しておくことが大切です

3.懲戒処分を行う根拠となる

就業規則は、懲戒処分を行う根拠になります。

懲戒事由は客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが必要であり(会社法第15条)、解雇事由の規定内容は、就業規則にそれを想定した例が挙げられていること(限定列挙)が必要です

懲戒解雇をする場合は、就業規則に規定した懲戒事由を根拠に行うことができますが、逆に、就業規則に懲戒解雇を想定した限定列挙がない場合は、どんなに労働者に非がある場合でも、裁判にまで発展した時に懲戒解雇が無効になってしまう可能性が高いでしょう。

懲戒事由は、その会社の業界や業種なども踏まえた具体的な内容で限定列挙をする必要があります。

懲戒事由の例には以下のようなものが挙げられます。
・経歴の詐称、二重就職
・職務怠慢、素行不良
・業務命令違反
・施設・備品の目的外使用
・ハラスメント
など

4.リスクマネジメントに繋がる

就業規則を作成することは、企業のリスクマネジメントに繋がります。

例えば、就業規則の懲戒処分の対象として顧客の個人情報を漏洩した場合という内容を含めておき、この内容を従業員に周知することで、従業員の危機管理意識を高めることに繋がり、情報漏洩のリスクを低減します

また、万が一従業員が情報を漏洩した場合に、懲戒解雇をする根拠となることもリスクマネジメントと言えます。

5.助成金の申請が可能になる

就業規則を作成することで助成金の申請が可能になることがあります。

助成金は、雇用保険に加入し所定の条件を満たすことができたら支給されますが、支給要件の中に、就業規則を作成することや変更することという項目が含まれている場合があります

助成金は融資などとは異なり、返済の必要がないため、条件を満たすものには申請を行った方が良いです。助成金を申請する場合に備えて、就業規則がない場合は就業規則を作成しておくと良いでしょう。

就業規則作成手続きの注意点

就業規則を作成する手続きの中で注意する点について、次の3点を説明していきます。
・意見聴取義務
・従業員への周知義務
・労働基準監督署への届出義務

就業規則の変更についてはこちらの記事をご参照ください。
就業規則の変更手続き|従業員に納得してもらう就業規則変更のコツを解説

意見聴取義務

就業規則の作成の中で触れた、代表従業員へのヒアリング(意見聴取)が抜け漏れてしまうと法律に違反してしまうことに注意しなければなりません(労働基準法90条1項違反)。

そもそも従業員の意見が反映されていないと、規則を守ろうとする意識も薄まり、全員の理解を得ることは難しいでしょう。上場を目指しているスタートアップやベンチャー企業においても、審査項目の中に就業規則の有無があるので避けては通れません。

従業員への周知義務

就業規則を作成する際は従業員全員に内容を周知する必要があります。

厚生労働省の指針では「一人ひとりに就業規則を配布することが望ましい」とされていますが、社員が多く、一人ひとりへの就業規則の配布が難しい場合には掲示板に貼り付けたりする方法による就業規則の周知でも良いことになっています。

しかし、今後トラブルが発生しないため、また、万が一トラブルが発生した場合に備えて、できる限り、メールや手渡しで就業規則を全員に個別に書面で配布しておく方が良いでしょう。

労働基準監督署への届出義務

作成した就業規則は労働基準監督署へ届出をする必要があります。

ただし、社員が10人未満の場合は、労働基準監督署長に届け出る義務はありませんが、届出をすれば受理してもらえるため、労働基準監督署に届出を行い、内容を確認してもらう方が良いでしょう。

労働基準監督署長への届け出は、オンラインでも行うことができます

オンラインで申請を行う場合は厚生労働省のパンフレットを参考にしてください。

副業と就業規則

労働者が副業をすることは違法ではありませんが、企業によっては副業を禁止しているところもあります。本業に集中して欲しい企業側の意図であったり、自社の機密が思いがけずに露呈してしまうというリスクが考えられるからです。

副業と就業規則については次の記事もご参照ください。
就業規則で副業は解禁すべき?副業を解禁するメリットと注意点について解説

まとめ

いかがでしたでしょうか。

本記事では、就業規則について作成の手順、就業規則を作成する6つのメリット、就業規則作成時の注意点について説明してきました。これから上場に向けて、労務管理・就業規則の整備を考えている経営者・担当者の方の参考になれば幸いです。

       
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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。