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就業規則の変更手続き|従業員に納得してもらう就業規則変更のコツを解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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企業を取り巻く法律や、会社の賃金体系を変更する場合などは就業規則の変更手続きが必要です。しかし「専門家に依頼しなければ就業規則の変更は難しい」と考えている方も多いのではないでしょうか?

就業規則は手続きをしっかりと押さえておくことによって、自社でも変更手続きをすることが可能です。この記事では自社で就業規則を変更する手順や、就業規則変更時の注意点について詳しく解説していきます。

自社で就業規則の変更手続きをする場合の手順やポイントについて理解しておきましょう。

就業規則とは

就業規則とは経営者から従業員に対する労働基準法に基づいた労働条件などに関する決まりです。常時10名以上の従業員を雇用する事業所は、就業規則を作成しなければなりません。賃金を決める時、従業員に異動を命じる時、解雇する時など、使用者が従業員に命じることは、全て就業規則に基づいて決定します。

また、従業員に守秘義務を課すなど、会社にとって不利益となることから会社を守る決まりも就業規則に明記されます。このように、就業規則は従業員が会社から不当な労働を強いられないためにも、会社が従業員によって不利益を被らないためにも必要になるものです

就業規則がなければ、従業員は不当なサービス残業や休日出勤を強いられたりするかもしれませんし、従業員が会社の機密を他社へ漏洩させてしまうかもしれません。就業規則は従業員にとっても会社にとっても必要になります。

なお、就業規則には必ず明記しなければならない「絶対的明示事項」会社に制度があれば必ず定めなければならない事項の「相対的明示事項」の2つの明示しなければならない事項があります。それぞれの明示事項は次のように決められています。

絶対的明示事項 ・労働時間に関する事項(就業時間や休日等)
・賃金に関する事項(賃金の計算方法、決定方法、支払日等)
・退職に関する事項(定年年齢、解雇事由等)
相対的明示事項 ・退職手当に関する事項
・臨時の手当や退職金を除く一時金に関する事項
・安全・衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・表彰や制裁に関する事項
・災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項

あらかじめこれらの事項を就業規則で定めて、従業員と使用者が双方納得した上で業務に当たらなければなりません。

就業規則を変更しなければならない場面とは

就業規則を変更しなければならない場面は多々あります。具体的には次のような場面で就業規則を変更しなければなりません。
・法令改正や最低賃金の改定時
・労働時間や休日や賃金体系を変更するとき
・手当を新設したり廃止する場合
・労働制度を変更する場合
・その他会社の経営変更時

就業規則を変更しなければならないのはどのようなタイミングなのか、詳しく解説していきます。

法令改正や最低賃金の改定時

労働基準法や労働関連の法律が改正になるタイミングでは、法律に合うように就業規則を変更しなければなりません。

法律改正によって現在の就業規則の方が従業員にとって不利になる場合には、就業規則に記載されている内容が無効になってしまいます。そのため労働関係の法律が改正されたら、就業規則を変更しましょう。

また、最低賃金が見直されたタイミングも就業規則の変更が必要です。

変更された最低賃金が就業規則に定められた賃金よりも高くなる場合も、就業規則に記載された賃金は無効になるので就業規則を変更しなければなりません。

労働時間や休日や賃金体系を変更するとき

会社の中で労働時間や休日についての決まりを変更する場合も、就業規則の変更が必要になります。

・賃金体系を歩合制にする場合
・公休日を変更する場合
・始業時刻を変更する場合
・就業時刻を変更する場合

従業員の賃金体系や休日などを変更する場合は、変更内容をしっかりと就業規則に反映させたものが必要になります。

手当を新設したり廃止する場合

手当を新設したり廃止する場合にも就業規則の変更が必要になります。手当の変更は従業員の賃金に対する事項を変更することに該当するため、就業規則において変更後の手当の明記が必要です。具体的には次のような手当が該当します。

・残業手当
・家族手当
・住宅手当
・休日出勤手当

これらの手当の内容を変更したり、手当の新設や廃止を行う場合も就業規則を変更しましょう。

労働制度を変更する場合

従業員の働き方などの制度を変更する場合も、就業規則の変更が必要になります。

働き方改革によって従業員に対して新しい働き方の導入を検討している企業も多いかと思いますが、このような場合には実際に働き方を新しくする前に就業規則を変更しなければならないので注意しましょう

・テレワーク在宅ワークの導入
・時差出勤
・フレックスタイム制

これらを導入する場合には、まずは就業規則を変更しましょう。

その他会社の制度の変更時

その他、会社の制度を変更する場合には、就業規則の変更が必要になる場合があります。

例えば、従業員の残業管理が難しい場合には、固定残業代制度(みなし残業代)を導入することがありますが、この場合には就業規則の変更が必要です。

また、裁量労働制を導入する場合にも就業規則が変更になります

就業規則を変更するときの手順

就業規則を変更する際には次のような手順で手続きを行います。

①従業員の意見を聞きながら変更箇所と内容を決める
②就業規則変更届を作成する
③意見書を作成する
④労働基準監督署へ届け出る
⑤社内へ通知して周知を図る

就業規則を変更する際の手続きや流れについて詳しく見ていきましょう。

①従業員の意見を聞きながら変更箇所と内容を決める

就業規則を変更する際には従業員の代表者の意見を聞きながら変更箇所や変更内容を決めなければなりません。労働基準法では会社からの一方的な不利益変更をすることは禁じられています。

また、就業規則変更届には労働者の過半数を代表するものの意見書の添付が必要です

スムーズに就業規則を変更するため、事前に従業員の代表者とすり合わせを行いながら、就業規則の変更内容を具体的に決めましょう。

就業規則の変更内容に法律の違反がないかも、法務担当者のチェックを受けながら、問題がないことを確認して経営陣に最終確認を行います。

②就業規則変更届を作成する

就業規則の変更内容が決定したら、労働基準監督署へ提出する就業規則変更届を作成します

就業規則変更届に決まったフォーマットはありません。新旧対照表などを作成し、どこをどう変更するのかを分かりやすくすることが重要です

なお、厚生労働省のホームページの様式集に就業規則変更届が用意されているので、どのように作成したらよいか分からない場合には活用してください。

③従業員の代表者の意見書を作成する

就業規則変更届には「労働者の過半数を代表する者の意見書」も添付しなければなりません。

従業員の代表者に変更内容を説明し、意見を聞き、その内容を意見書にまとめ、代表者の署名・捺印・記入日を記入します。

従業員の不利益変更を行う場合には、この段階でしっかりと従業員へ説明しておきましょう。

④労働基準監督署へ届け出る

就業規則変更届に従業員の代表者の意見を添付して労働基準監督署へ届出を行います。

変更届と意見書は2部ずつ用意して、受領印を押印してもらい会社に控えとして用意しておきましょう。なお、提出する就業規則変更届の内容に不備や法規違反がある場合には、就業規則の変更が受理されないことがあります。

就業規則変更届がスムーズに受理されるよう、事前に労働基準監督署の担当者に相談するのも有効な方法です。

⑤社内へ通知して周知を図る

就業規則変更届が受理された後は、社内へ通知して従業員に対して変更内容を周知します

従業員に対して、どこをどのように変更したのかが分かりやすいよう、新旧対照表を作成して変更内容を周知しましょう。社内のデータベースや、会社の広報版などに変更内容を掲示し、従業員の誰もがいつでも変更内容を確認できるようにしてください

従業員への周知は就業規則変更届が受理される前に行うことも可能です。早めに周知したい場合には、労基署への提出前に従業員への通知を始めるのがよいでしょう。

就業規則変更時の注意点

就業規則を変更する際には次の点に注意しなければなりません。

・変更には労働組合との合意が必要
・就業規則の不利益変更をする際の注意点を抑えておく
・不利益変更の必要性の説明を怠らない
・就業規則の変更の周知を徹底する
・就業規則の変更は事業所ごとに必要になる
・労働基準法の遵守

就業規則変更時に注意しなければならない注意点を詳しく見ていきましょう。

変更には労働組合との合意が必要

就業規則は会社側が一方的に変更することは禁止されています。労働組合との合意がないまま就業規則を変更した場合には、就業規則の変更が無効になることもあるので注意が必要です

就業規則変更届に添付する労働者の過半数を代表する者の意見者を作成する際に、しっかりと労働者の代表者へ変更内容を説明し、代表者の同意を得ておきましょう。

就業規則の不利益変更をする際の注意点を抑えておく

就業規則の変更は労働者の同意が必要になるのが原則です。しかし、会社の経営上、従業員に不利益になったとしても給料の引き下げ等を行わなければならない場面もあるでしょう。

次の3つの不利益変更をする際には特に注意が必要になります。
・給与の減額や手当の廃止の場合
・労働日数、休日の変更の場合
・みなし残業代の廃止の場合

就業規則の不利益変更をする際の注意点についてケース別に詳しく解説していきます。

給与の減額や手当の廃止の場合

給与の減額や手当の廃止は従業員が最も嫌がる変更だと言えます。

そして、従業員の生活を直撃する変更でもあるので、従業員に対して丁寧に説明して同意を得ておかなければトラブルや大量退職につながるリスクもあります。

・働き方が具体的にどのように変わるのか
・賃金がいくら減少するのか

これらを十二分に丁寧に説明し、変更前・変更後の内容について分かりやすく説明します。

また、必要に応じて説明会や従業員と個別に面談をする機会を設け、就業規則の変更を進めていかなければなりません。

変更後に「就業規則の変更に自分は同意していない」という従業員が出ることがないよう、従業員全員から同意書をもらうことも重要になります

また、労働組合がある会社は労働組合と労働協約を締結しなければなりません。

労働日数、休日の変更の場合

労働日数や休日を変更することによって、具体的にどのように変化するのか、そして変更によって従業員の収入はどのように変わるのかを具体的に説明することが重要です

特に時給で働いている従業員にとっては労働日数や休日の変更は収入へ直結する部分でもあります。

時間単価や固定残業代などを考慮して、賃金がどのように変化するのかなど具体的な説明も行いましょう。

変更に伴い、収入や働き方に大きな変化がある従業員については特に個別面談の時間を設けて、丁寧に説明することも重要です。

みなし残業代の廃止の場合

みなし残業代を廃止することは、会社からの一方的な不利益変更に該当し、違法になる可能性があります

そのため、みなし残業代を変更することには十分な注意が必要です。具体的には次の2つの準備をした上でみなし残業代を廃止しましょう。

1.経過措置を設ける
2.合理的な理由が必要

急にみなし残業代を廃止したら、従業員の生活に支障をきたす可能性が高くなります。そのため、「来月から廃止する」などの急な変更を行うのではなく、一定期間の経過期間を経てから、数ヶ月先に廃止するようにしてください。

また、就業規則の不利益変更を行うことには合理的な理由が必要になります。

労働契約法には次のように明記されています。

労働条件の変更について、合意性を有する場合は労働者の同意なく就業規則を変更することが出来る(労働契約法10条)

残業代は実際の残業時間に基づいて支払われるものです。そのため、残業時間の実態と、みなし残業代の支払状況を比較し、「みなし残業代を廃止して、実態に即した残業代を支払うことが合理的だ」と説明できるようにしておきましょう

不利益変更の必要性の説明を怠らない

就業規則の不利益変更を行う場合には、なぜ不利益変更が必要になるのかについて従業員に説明して理解を得る必要があります。

就業規則の変更は原則的に従業員の同意が必要になりますし、仮に形式上同意を得られたとしても従業員が変更について納得していなければ大量退職に繋がるリスクもあるためです

そのため、変更前の労働条件と変更後の労働条件を比較して書面で説明するとともに、後々紛争になった時のために説明会の際に議事録を残しておくようにしてください。

また、不利益変更をする場合には、不利益変更を行うための合理的な理由が必要になるので、説明できるようにしておきましょう。

就業規則の変更の周知を徹底する

就業規則の変更を従業員に周知することも徹底してください。

形式上「労働者全員の同意を得た」としても、労働者が内面から就業規則の変更内容を理解して納得していなければ貴重な人材が流出したり、後から紛争になることもあるためです。

そのため、就業規則の変更内容を書面の交付や社内データベースへのアップロード、社内広報版への掲示などあらゆる方法で説明し、変更内容が分かりやすいように「どこが」「どのように変更になり」「従業員には具体的にどんな変化があるのか」を丁寧に周知してください

就業規則の変更は事業所ごとに必要になる

就業規則の変更は会社ごとではなく事業所ごとに必要です。

原則として会社の支店ごとに就業規則変更届を所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません

ただし、本社と支店の就業規則が変更前も変更後も同じ場合には、本社が一括で変更を届け出る「一括届出」が認められる場合もあります。

複数の事業所で就業規則の変更が必要な会社は、本社を管轄する労働基準監督署へまずは問い合わせてみましょう。

労働基準法の遵守

就業規則の変更については労働基準法を遵守したものでなければなりません。違法なものでないかどうか、関係部署がしっかりとリーガルチェックを行い、必要であれば弁護士や社会保険労務士などの専門家にも確認しましょう

また、労働基準法の罰則についても頭に入れておきましょう。

次のような違反をした場合には、労働基準法違反として30万円以下の罰金に処される可能性があります。

・就業規則の作成義務
・就業規則の届出義務
・就業規則の作成または変更についての意見聴取
・就業規則の内容や変更内容についての周知義務

違反すると罰則があるということを理解した上で、慎重に就業規則の変更手続きを行ってください。

就業規則の変更をスムーズに行うための3つのポイント

就業規則の変更は従業員の反対があるとスムーズに就業規則の変更が進まない可能性があります。スムーズに就業規則の変更を行うためには、次のポイントを押さえて変更手続きを進めなければなりません。

・可能な限り多くの従業員から同意書をもらう
・代償や経過のための措置を設ける
・従業員の代表者との話し合いの場を設ける

就業規則の変更をスムーズに進めるための3つのポイントについて詳しく解説していきます。

可能な限り多くの従業員から同意書をもらう

就業規則を変更する際には、従業員の代表者だけでなく、できる限り従業員1人1人から同意書をもらいましょう。

各従業員が就業規則の変更について理解することが重要であることはもちろん、1人1人から同意書を受け取っておくことで、就業規則変更後に紛争になるリスクを引き下げることができます

できれば従業員全員に対して就業規則の変更について理解を求め、同意書をもらっておいた方がよいでしょう。

代償や経過のための措置を設ける

賃金引き下げや休日変更などの従業員の賃金条件や労働条件を変更する際には、突然変更するのではなく、経過措置や代償を設けるようにしましょう

特に賃金の引き下げについては従業員の生活を直撃するため、従業員にとっては深刻な問題です。

突然、賃金が引き下げられたら「生活ができない」「借入金の返済ができない」など、従業員にとって非常に困った場面に直面する可能性もあるので、賃金や休日を変更する際には代償措置や経過措置を設けるようにしてください。

従業員の代表者との話し合いの場を設ける

就業規則を変更する際には、経営陣が一方的に変更内容を決め、決めた後の決定事項を従業員に見せるのではなく、変更内容について従業員の代表者と話し合う場を設けましょう。

一方的に決めてしまっては従業員も反感を持つ可能性が高いですが、話し合いの場を設けることで「自分達の意見を聞いてもらえた」と考えるので反発を抑えることができます

円滑に就業規則の変更を行うため、変更前に必ず従業員の代表者との話し合いの場を設けるようにしてください。

就業規則の変更についてよくある質問

就業規則の変更についてよくある質問をご紹介していきます。

従業員の反対があっても就業規則は変更できる?

会社からの一方的な就業規則の不利益事項の変更は禁止されています。

しかし、従業員の過半数を代表する者の意見書を提出すれば変更することは可能です。

この際には、不利益事項を変更する合理的な理由を説明しなければならないことに注意しましょう。

労働協約と矛盾する就業規則の変更は可能?

労働組合がある会社の場合、会社と労働組合が労働条件などを取り決めた「労働協約」があり、労働基準法には労働協約と就業規則について次のように明記されています。

就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない(労働基準法92条)

そのため、就業規則が労働協約に反するものなら、就業規則の変更は認められません

まとめ

就業規則は最低賃金や労働関連の法律が改正された時だけでなく、賃金や休日などの労働条件や各種手当などを変更する際にも変更が必要です。

変更の際には、経営陣だけで一方的に決めるのではなく、従業員の意見を聞いたり従業員の代表者との話し合いの場を設けるなど、就業規則の変更が従業員から反感を買わないように進めなければなりません

そして、賃金の引き下げなど従業員の生活に関わる改正は、従業員にとって死活問題です。

丁寧に説明して、できれば従業員全員から同意を得るとともに、突然変更するのではなく、代償措置や経過措置を設けて慎重に進めるようにしてください。

       
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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。