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ベスティング条項とは?なぜ人材の離脱防止と 従業員のモチベーション向上につながるのか

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

ストックオプションで
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従業員などへストックオプションを付与する際に、欠かすことができない概念が「ベスティング」です。ベスティングとは、一定期間の経過によって権利を確定させる契約条件のことです。

ストックオプションを付与する際に、ベスティングを上手に活用することによって、従業員のモチベーションの向上だけでなく、優秀な人材を一定期間企業に留めておくことができます。

本記事では、ベスティングの概要やベスティングの活用事例・注意点・よくある質問について詳しく解説していきます。

ベスティングとは

ベスティングとは、一定期間の経過によって権利を確定させる契約条件で、一般的に従業員や役員に対してストックオプションを付与する際に用いられる条件です。

ベスティングには次の2つのケースがあります。
ストックオプションを行使できない一定の期間を経て権利行使が認められるケース
一定の期間ごとにストックオプションの権利行使が認められる株式の割合が増えるケース

それぞれ、どのようにしてストックオプションの権利が確定するのか、詳しく解説していきます。

ケース①ストックオプションを行使できない一定の期間を経て権利行使が認められるケース

1つめのパターンが一定の期間を経てストックオプションの権利行使が認められるというものです。

例えば、従業員にストックオプションを付与し、「上場後3年経過後に権利行使ができる」というベスティングを設ける方法です。これによって、従業員は上場後3年間は会社に勤続しなければ、ストックオプションを行使できません。さらに、従業員が上場後すぐに株式を売却して株価が下落することを防ぐ効果も期待できます。

ケース②ストックオプションの一定の期間ごとに権利行使が認められる株式の割合が増えるケース

ストックオプションが付与されてから一定の期間ごとに、少しずつ権利行使が認められる株式の割合が増えるというものです。

例えば、会社が役員Aに対して100株のストックオプションを発行し、「毎年6月に20株ずつの権利行使を認める」というベスティングを付けるような場合です。
1年間で20株ずつ権利行使ができるので、5年間に分けてストックオプションを行使できます。

毎年ストックオプションの権利行使ができるので、「来年はさらに業績を上げて株価を高くしよう」というモチベーション向上になります。また、少しずつストックオプションの権利行使ができるので一括で権利行使をするよりも、従業員のモチベーションが長期間維持されることも期待できます。

ストックオプションの多くに、「一定期間ごとに権利行使が認められる」ベスティングが付いているのが一般的です。

なぜストックオプションにベスティングは必要なのか

ストップオプションにはベスティングが付いているケースが多々あります。ベスティングがストックオプションに必要な理由は次の3点です。

・ベスティング条項で人材離脱を防ぐため
・株価の大幅な暴落を防げる
・従業員のモチベーション向上

基本的にベスティングは人材を社内に留まらせるために、ストックオプションに付されるものです。ベスティングが必要な3つの理由を詳しく解説していきます。

べスティング条項で人材離脱を防げる

ストックオプションの付与にベスティングを設けることによって、人材の離脱を防ぐ効果があります。ベスティングを「黄金の手錠」と呼ぶことが多いですが、その名の通り、ベスティングによって「一定期間経過後に権利行使ができる」という条件をつけておくことで、その期間内は従業員は会社を離職しないでしょう。

ベスティングでは会社を退職するとストックオプション行使の権利がなくなるためです。また、ストックオプション行使によって株式を市場価格よりも安く購入することで、従業員には「もっと株価が上がるかもしれない」という意識が働くため、さらにその後も会社に留まる可能性があります。

ベスティングは、人材の離脱を防ぎ、従業員の勤続年数を防ぐ方法として有効です。

株価の大幅な暴落を防げる

ベスティング条項に「一定期間経過ごとに段階的に権利行使ができる」という条件を付けておくことで、株価の大幅な暴落を防げます。従業員に与えたストックオプションが一度に行使され、従業員が一度に株式を売却してしまったら、株価が大きく下落するリスクがあります。

しかし、ベスティング条項に「毎年20%ずつ」などの条件を付けておけば一度に株式が売却される心配はありません。ストックオプション行使後にすぐに株式が売却されたとしても、ベスティングによって売却される最大量をあらかじめ調整できます。

従業員に一度にストックオプションを行使されないためにも、ベスティングは有効です。

従業員のモチベーション向上

ベスティング条項は「一定期間経過後に、ストックオプションの一部または全部を行使できる」というものです。

ストップオプションが付与された従業員とすれば、権利行使できるタイミングまでに株価が上がっていればいるほど自分の利益は大きくなります。そのため、ベスティングを付与しておけば、「従業員はベスティング条項の権利行使期間までに株価を引き上げたい」というモチベーションが生まれます。

ベスティング条項を上手に活用することで、従業員のモチベーションが向上し、株価の上昇につながります。

ベスティングの活用事例

ベスティングの活用事例として、次のようなものがあります。

IT企業の事例

株式会社ラクスルはネット印刷業ですので、IT企業として分類されます。株式会社ラクスル次の条件のストックオプションをベスティング条項付きで発行しました。

・金融商品取引所への上場
・新株予約権の相続は認めない
・M&Aの際の権利行使

ベスティングの内容は次のようなものです。ストックオプションの割り当て後、最初の2年間は権利行使ができず、2年後から6年後の4年間で1年につき25%ずつ権利行使が可能。

「一定の期間ごとに権利行使が認められる」ベスティング条項を設定し、従業員のモチベーション向上や株価の下落抑制策を講じています。

研究開発企業の事例

研究開発企業は研究に長い時間がかかるので、IT企業などよりも長いベスティング条項も設けることがあります。ある企業では、10年間で年間10%ずつの権利行使を認めるというベスティングを設け、10年間、従業員が勤続するように促しています。

ネット印刷業のラクスルはIT業に分類されるので、会社の成長にそれほど時間はかかりません。そのため、4年という比較的短めのベスティング条項を付していましたが、研究開発業においては、会社が成長するまでに時間がかかるので10年程度のベスティング条項を設けることも珍しくありません。

ベスティングの注意点

ストックオプションにベスティングを付ける際には次の2点に注意しなければなりません。

・M&Aの弊害にならないようにする
・ベスティング完了まで従業員が手抜きになる

ベスティングによって企業の株価を取得したことがM&Aの弊害になることがありますし、従業員がベスティング完了まで仕事をサボる可能性には注意しなければなりません。ベスティングの2つの注意点について詳しく解説していきます。

M&Aの弊害にならないようにする

A社の共同創業者であるCさんがベスティングを遵守して、A社の子会社であるB社の株式を取得した後、D社がB社を100%子会社化しようとした場合、すでにB社を離れたCさんが反対するとM&Aが成立しません。

100%子会社化するためには、売却側企業の株主全員の同意が必要になるためです。そのため「子会社をいずれ売却しよう」としている場合には、当該子会社のストックオプションを付与すべきではありません。

また、このようなケースにおいては「創業株主間契約」に合意しておきましょう。創業株主間契約とは、「創業期から企業に携わっている役職員(創業株主)が退職する時に、残った創業株主で退職する創業株主が保有する株式を買い取る契約」です。

創業株主間契約を提携しておけば、創業者の株主を買い取ることができ、M&Aの妨げにはなりません。離職した株主は、その後何かと企業の動きの弊害になることも多いので、創業者が複数いる場合には創業株主間契約を締結しておきましょう。

ベスティング完了まで従業員が手抜きになる

ベスティングを設定したことによって、本来であればその会社を「退職したい」と考えているモチベーションの低い従業員も、ストックオプションを行使するためだけに、低いモチベーションのまま会社に留まってしまうリスクがあります。

ベスティングは優秀な人材を会社に確保するために有効ですが、その反面で、やる気のない従業員も会社に残ってしまう副作用もあります。

そのため、日頃から従業員に対して「結果を残していない従業員はストックオプションを行使できない可能性がある」など、『無条件にストックオプションを行使できるわけではない』ということをしっかりと伝えておきましょう。

ストックオプション付与対象者のパフォーマンスを客観的に評価できる仕組みを作っておくことも重要です。

ベスティングについてよくある質問

ベスティングについてよくある質問をご紹介します。

なぜベスティングって言うのですか?

ベスティングは英語でVestingです。Vestingは日本語に訳すと「権利確定」という意味になります。

権利を確定する条件という意味からベスティングと呼ばれます。そして、ストックオプションを付与する際に、権利確定する条件を「ベスティング条項」といいます。

マニュアルべスティングについて教えてください

マニュアルベスティングとは、トークン(暗号資産)のベスティングを行う際の方法の1つです。トークンのベスティングにはマニュアルベスティングとべスティングソリューションの2つの方法があります。

マニュアルベスティングとは、管理者側が手動でベスティングする方法で、ベスティングソリューションとはウォレットアドレスへ一定量のトークンを定期的かつ自動にリリースできるように作成されたスマートコントラクトのことです。いずれも株式のベスティングでは使用することがない方法です。

企業がベスティングを選ぶ理由は何ですか?

主には従業員を一定期間会社に留める目的で行われます。ベスティング条項を「企業の成長に貢献してほしい期間」に定めることによって、会社は自社にとって最も都合のよい期間、人材を会社に留めることが可能です。

ベスティング期間前に創業者が退職した場合はどうなりますか?

ベスティング期間前に創業者が退職した場合には、当該創業者に割り当てられたストックオプションは行使できません。

まとめ

ベスティングとは、付与したストックオプションについて「一定期間の経過によって権利を確定させる契約条件」のことです。

ベスティング期間を経過しなければ、ストックオプションが行使できないため、創業者や役員や従業員をベスティング期間の間は会社に人材を留めておくことができます。

その一方で、モチベーションの低い従業員まで会社に留まってしまうリスクもあるので、ベスティング条項設定の際には役員や従業員を客観的に評価する仕組みも作るようにしてください。

       
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上場した会社の成功事例
『ストックオプション解体新書
22年上半期』
  1. 新規上場企業のストック・オプション統計データ
    ーストック・オプション発行割合サマリー
    ーストック・オプション積極活用企業5選
  2. 役職別ストック・オプション付与割合
    ーCOO、CFO、CTOなどのCxO人材
    ー常勤監査役、社外取締役など
  3. 信託型ストック・オプションの発行状況
    ー見込みキャピタルゲインと発行割合
  4. 上場時の代表者持分割合
    ー代表者持分がもたらす資本政策への影響
  5. ストック・オプション失敗例&解決策3選
    ー発行時期が遅過ぎて、キャピタルゲインが取れない
    ーせっかく発行したのに、パフォーマンスが上がらない
    ー社内に仕組みが浸透せず、発行しても離職率が下がらない
  6. お問い合わせ方法

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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。