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人的資本ROIとは?概要・情報開示を実施している企業の事例について解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
~概要と基本原則を解説~

コーポレートガバナンス・コードの「基本的な概要」と「基本原則」にフォーカスして紹介

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人材を資本として捉え、その価値を高める人的資本経営が重要視されています。

人的資本経営やその情報開示に対する注目が高まりつつあり、企業においても人材の成長を促す研修や労働環境の改善などの取り組みが本格的に始まっていると指摘されています。

この記事では、「人的資本ROI」に焦点を当て、人的資本ROIを向上させる方法や企業の成功事例などを主に解説をしていきます。


人的資本経営については、こちらに記事もご参照ください。
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人的資本ROIとは

ROA(Return On Asset)は資産に対する利益率を示す指標であり、一方ROI(Return On Investment)は投資に対する利益率を示します。

したがって、人材マネジメントにROIの考え方を取り入れることは、人的資本経営の基本であり、この理念に基づいてISOの国際規格も制定されています。

「人的資本ROI」は、人的資本に対する投資の収益貢献度を表し、数値で人件費や研修費などの投資が効果的であったか否かを確認することができます。人的資本ROIを数値化するための基本的な式は以下のようになります。

人的資本ROI = [売上高 −(総経費 − 人件費) ÷ 人件費]− 1

計算で求めた人的資本ROIの数値が高いほど、人的資本投資の効果が高いと言えます。

先述しましたが人的資本ROIは、人件費や研修費に対してどれだけ利益をもたらしているかを示す指標で、一般的には20〜30%の範囲にある企業が多いですが、業界によっては90%程度の企業も存在します。

人的資本ROIが低い場合、人件費や研修費の無駄な部分を削減するなどの対策を考える必要があります。しかし、計算式を見れば一目瞭然ですが、人的資本ROIの数値を上げるには人件費を削減すれば解決しますが、それでは社会的にも従業員にとっても受け入れが難しいという現実的な問題もあります。

ステークホルダー資本主義は、従業員やサプライヤーを過度に使い果たして利益を追求するのではなく、従業員やサプライヤーを大切にし、同時に売上を伸ばしROIを高めていく考え方です。最近では、この考え方に対する注目度が高まり評価されています。

人的資本ROIを向上させるには

ISO30414は、人的資本の評価に関する国際規格であり、以下の11の人的資本領域が示されています。これらの領域は、組織が人的資本を評価・管理する際の指標として利用されます。

1. コンプライアンスと倫理(Compliance and ethics)
2. コスト(Cost)
3. ダイバーシティ(Diversity)
4. リーダーシップ(Leadership)
5. 組織の風土(Organizational culture)
6. 健康・安全・福祉(Organizational health, safety and well-being)
7. 生産性(Productivity)
8. 採用・異動・離職(Recruitment, mobility and turnover)
9. スキルと能力(Skills and capabilities)
10. 後継者の育成(Succession planning)
11. 労働力の確保(Workforce availability)

岸田総理が推進する「新しい資本主義」を実現する政策の一環である人的資本投資は、給与の増額と人材育成への投資だけでなく、「採用・異動・離職」「組織の風土」「福祉」「コンプライアンス」「ダイバーシティ」など、さまざまな領域が存在します。

これらの人的資本領域を総合的に考えるとき、自社の抱える課題を明確にしたうえで、何を軸にして優先順位をつけるのか、どの領域に投資すれば企業のROIが向上するかをデータに基づいて整理し、投資することが重要です。

人的資本投資を「見える化」する

人的資本投資を推進する際、人的資本の状態を指標として「見える化」する仕組みが有効であると考えられています。人的資本を金銭的な評価に換算できれば、投資の成果を定量的に評価することができます。

しかし、一般的には、企業の貸借対照表に人的資本を記載することはありません。そのため、人的資本投資は、資産のストックではなく、人件費や研修費などの経費として計上されます

一方、投資家は、人的資本が目に見えないが企業の中長期的な価値に影響を与えると理解しており、非財務情報の開示がますます重要視されています。

世界的に利用される非財務報告のための任意の情報開示基準として、SASB(Sustainability Accounting Standards Board)スタンダードやGRI(Global Reporting Initiative)スタンダードが存在します。これらの基準は、人的資本に関連する情報の開示に焦点を当てています。

具体的に、SASBスタンダードでは、以下の項目が人的資本に関連する要素として掲げられています。

1. 労働慣行
2. 従業員の健康と安全
3. 従業員の関与・多様性・包括性

人的資源管理の持続可能性やコンプライアンスについて注力した内容となっています。

また、GRIスタンダードも似たような傾向が見られます。雇用、労使関係、研修と教育、ダイバーシティと機会均等などの情報開示が重要視されています。

人的資本開示については、こちらの記事もご参照ください。
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人的資本の情報開示例|情報開示のための手続き・国内企業の開示例について解説

人的資本管理に関わるISO30414

ISO30414は、2018年2月に国際標準化機構によって公表された、人的資本の情報開示に関するガイドラインです。

この規格は、人的資本に関連する情報を11のカテゴリーに分類し、それぞれ58の指標で評価します。
ISO30414に基づく情報開示には、人的資本を算出し数値化する作業が必要です。

「生産性」という7番目のカテゴリーでは、特定の指標として「人的資本ROI」が存在します。この指標は、人的資本投資がどれだけ収益に貢献したかを示し、具体的な数値を通じて人件費や研修費などの投資の効果を確認することができます。

ISOの国際規格については、こちらの記事もご参照ください。
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人的資本ROIの数値が上がっている企業例

人的資本ROIの数値が向上している企業例を紹介します。
・株式会社リンクアンドモチベーション
・豊田通商株式会社
・日本情報通信株式会社

株式会社リンクアンドモチベーション

株式会社リンクアンドモチベーションのミッションは、モチベーションエンジニアリングを通じて組織と個人に変革の機会を提供し、意義ある社会を実現することです。

事業戦略と組織戦略を同等の価値があるものと見なし、これらの戦略を相互にリンクさせてミッションの達成を目指しています。

生産性を人的資本ROIとして経営の重点指標とし、そのリンクの度合いをモニタリングしています。生産性向上のためには、「採用・育成・制度・風土」といった4つの領域で施策を展開しています。同様に、人的資本に関する指標も、「戦略・採用・育成・制度・風土」という5つの要素に独自に分類し直し、これらを公表しています。

人的資本ROIは、「調整後営業利益 ÷ 人的資本コスト」で計算しており、従業員の給与や賞与、法定内外福利費、通勤交通費、その他の役員報酬などを含む費用の合計額で人的資本コストを算出しています。

また、リンクアンドモチベーションの人的資本ROIの数値は、2020年が24.2%、2021年が33%、2022年が41.1%と、年々右肩上がりに向上しています。

参照:「HUMAN CAPITAL REPORT 2022」(Link and Motivation Group)

豊田通商株式会社

豊田通商株式会社は、Global Visionの実現を目指し、経営戦略として以下の6つのサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を設定しています。

交通死傷者ゼロを目指し、安全で快適なモビリティ社会の実現に貢献
グリーンエネルギーや革新的技術を活用し、自動車/工場・プラントCO2を削減することで、脱炭素社会移行に貢献
廃棄物を資源化することで、モノづくりを支え、循環型社会に貢献
アフリカをはじめとした開発途上国と共に成長し、事業を通じて社会課題の解決に取り組む
安全とコンプライアンスの遵守をビジネスの入り口とし、社会に信頼される組織であり続ける
人権を尊重し、人を育て、活かし、「社会に貢献する人づくり」に積極的に取り組む

重要な課題を解決するために、変化に対応できる「強い個」が集まり、強力な組織を形成します。このために、人事戦略として「人財開発」と「健康経営」を通じて、個々の能力を伸ばし、さらに「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」「適所適材・適材適所」「人権尊重」を通じて、強力な組織を築き上げ、社員の参画度を高め、「Be the Right ONE」を実現します。

トヨタ通商の人的資本ROIは、「経常利益 ÷ 人的資本コスト」で計算されています。2019年の数値は2.91%、2020年は2.05%であり、前年度に比べて数値が低下しています。しかし、2021年には4.17%と大幅にV字回復していますが、また、2022年には3.44%にまで下落してしまいました。
参照:「Human Capiral Report 2023」(豊田通商)

日本情報通信株式会社

日本情報通信株式会社は、ネットワーク・システム・インテグレーターとして情報と通信の先進技術により社会の発展に貢献することを理念としています。企業として、人的資本への投資については「新しい働き方の推進」「健康経営の推進」「人材の育成」「Diversity&Inclusionの推進」を4つの重点テーマとしています。

従業員への経営資源投資により、従業員と企業の関係性が強固なものとなり、顧客へのサービスレベルの向上が期待できます。それにより顧客ロイヤリティの向上につながり、企業成長と利益の拡大、従業員の働きがい向上へと繋がります。

企業が社会貢献に注力する取り組みは、顧客や従業員からの信頼と評価を高めます。これによって、従業員は会社に安心感と信頼を抱き、報酬や人事制度、施策の充実に再投資され、良い循環が生まれることを目指しています。

日本情報通信は、コストを「売上原価、販売費および一般管理費」と置き、人的資本ROIを 【{収益 − [コスト −(給与+ 福利厚生)] / (給与 + 福利厚生)} − 1】という計算式で算出しています。

人事制度については、こちらの記事もご参照ください。
人事制度とは?人事制度の目的・設計・歴史・新しい人事制度について徹底解説!

まとめ

ここまで、人的資本ROIを向上させる方法や企業の成功例などを中心に解説してきました。

本記事が、ベンチャー・スタートアップ企業の経営者・ガバナンス・人的資本に関する担当者の方のご参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。