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人的資本経営とは?注目される背景・重要な3つの視点と5つの要素について解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
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最近の傾向として、投資家の要望や上場企業など国際的な情報開示の義務化の背景から、「人的資本経営」という言葉が企業経営における大きなトレンドとなっています。

2023年3月期の決算から、特定の企業においては人的資本の情報開示が義務化されましたが、これに関して「導入の進め方がわからない」「自社に適用するためにガイドラインをどう活用したら良いのか」といった点でお困りの担当者が多くいると思われます。

この記事では、人的資本経営の定義、国内と国外での人的資本経営の違い及び人材資本経営において重要な3つの視点と5つの要素に焦点を当てて説明していきます。


人的資本経営については、こちらに記事もご参照ください。
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人的資本経営とは

人的資本経営は、企業が従業員や人材を資本と同様に重要な資産として見なし、彼らのスキル、経験、モチベーションなどを向上させるために投資を行い、その価値を最大化しようとする経営手法です。

このアプローチは、中長期的な企業価値向上や成長に寄与し、組織の成功を支える重要な要素とされています。「人的資本」という言葉には一貫した定義が存在せず、その意味や範囲は発信する機関や企業などによって微妙に異なることがあります。

人的資本経営における情報開示

人的資本の情報開示は、人的資本経営における重要な取り組みです。国際標準化機構(ISO)が公開した人的資本に関する情報開示のための「ISO30414」というガイドラインは、世界中で人的資本に関する情報開示の基準として採用され、米国証券取引委員会(SEC)を含む多くの国で採用されています。

ISO30414は、企業が人的資本に関する情報を報告する際の指針を提供し、社内・社外の関係者に対して透明性を確保するための枠組みを提供します。この規格は、コンプライアンス、倫理、コストなどの11の領域において、49の情報開示規格を定めています。

2023年1月31日に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」により、日本の上場企業はサステナビリティに関する考え方や取り組み、人的資本、多様性に関する情報などの開示が義務化されました

これにより、企業は有価証券報告書などでこれらの情報を提供し、投資家やステークホルダーに対して透明性を高める責任を負うことになったと言えます。

人的資本に関する情報開示には19項目が存在しますが、義務的に開示しなければならない項目はわずかで、企業は自身の現在の取り組み状況に合わせて柔軟に情報開示を行うことができます。

開示する情報は、人的資本に関する指標が経営戦略やビジョンにどのように関連しているかをストーリーのように理解できるものが求められます。

日本での情報開示の義務化は現段階では上場企業に限られていますが、今後の展望では中小企業などにも情報開示の義務が拡大する可能性が考えられています

今後の国際的な傾向も考慮に入れ、人的資本に関する情報開示に対応できるように、今から情報開示の要点や必要項目について理解を深めておくことは非常に重要です。

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人的資本経営の注目度が高い背景

人的資本経営の注目度が、日本で高まった背景について解説します。
・技術革新による市場の成熟
・無形資産の重要性
・ESG投資への関心度の高まり
・多様性のある柔軟な働き方

技術革新による市場の成熟

日本では少子高齢化が進行し、労働人口の減少が人手不足の主な原因の1つとなっています。本来、人の手で行ってきた一般的なルーティンワークや定型的な業務はデジタル化やAIによって置き換えられ、技術が進化する一方で、DXを推進できるような専門的なスキルのある人材が不足している状況です。

時代の変化に柔軟に適応できるような優れた人材の不足は、今後も予想されております。

この課題に対処するためには、新しい人材の採用だけでなく、既存の社員のスキル向上や人的資本の価値最大化を重視することが重要です。

無形資産の重要性

技術進歩や市場成熟に対応し、企業の競争優位性を維持または築くためには、イノベーションが非常に重要です。

差別化を図るための革新的なイノベーションは、人材が持つ能力や経験、モチベーションなどの無形資産がその源泉となります。

こうした無形資産は金銭価値に変えることができない非常に価値のあるものです。無形資産を獲得するためには、人材の価値を最大限に引き出すための人的資本経営を実施し、競争市場での優位性を確保することが不可欠です。

ESG投資への関心度の高まり

現代のビジネス環境では、企業の価値評価において財務面だけでなく、サステナビリティ要素がますます重要視され、特にSDGsやESGといった要素が焦点となっています。

サステナビリティ志向の経営は、ステークホルダーからの信頼を獲得し、企業の持続的な発展に寄与すると言われています。そのため、今後はSDGsへの取り組みやESG経営を実践する企業が、持続的な成長と価値向上の期待ができる企業と評価されると考えられます。

人的資本はESG投資の「Social」要素に該当し、その価値は目に見えないため、ステークホルダーへの積極的な開示が求められています。

多様性のある柔軟な働き方

テレワークやワーケーションなどの新しい働き方の導入により、企業は従業員の多様な状況やニーズに合わせて柔軟な働き方を提供し、それぞれの従業員の価値を最大限に引き出すための経営戦略を行う必要があります。

人的資本の価値を高めるために、労働環境の整備や柔軟に働けるようなソフト面の体制を整えるなど企業側も対応をする必要があるでしょう

業種によっては、テレワークやワーケーションが難しい場合も考えられます。そのような場合には、現場から上がってくる声にも耳を傾けることで柔軟な働き方に対応することもできるでしょう。

国内・国外での人的資本経営

人的資本経営における人的資本の情報開示は、国内と国外で異なる状況がみられます。それぞれの現状を説明します。
・国内での人的資本経営
・国外での人的資本経営

国内での人的資本経営

日本では近年、人的資本経営に関する議論が盛んになっており、企業の持続的な成長や競争力向上に向けた取り組みが進められています。

日本における人的資本経営に関するいくつかの取り組みや動向を説明します。東京証券取引所と金融庁によるコーポレートガバナンス・コードの改訂によって日本の上場企業に対し人的資本や知的財産への投資などに関する情報開示が強化されました。

また、経済産業省が「人材版伊藤レポート2.0」を発表し、企業が人的資本の育成や活用に焦点を当て、人的資本を最大限に活かすための具体的な提言や指針を示しました。

この報告書では、人的資本経営を具体化する際のアプローチとして、3つの視点と5つの共通要素から成る「3P・5Fモデル」を提唱しています。

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国外での人的資本経営

「ISO30414」は、国際標準化機構(ISO)によって2018年に策定された人的資本情報開示のガイドラインです。

このガイドラインは、ステークホルダーが企業の人的資本状況を把握しやすくするために作成され、企業が人的資本経営を行うための指標を提供しています。具体的には、人的資本情報の開示において11の領域に関する指標を含んでおり、企業がこれらの領域に関する情報を提供する際のガイドとして活用されています。

アメリカでは2020年に上場企業に対し人的資本情報の開示を義務化しました。2021年4月にはSEC(米国証券取引委員会)が非財務情報開示指令の改定案を策定し、より人的資本の情報開示が注目され、上場企業だけでなく多くの企業が人的資本の情報開示の対象となりました。

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人材資本経営に重要な3つの視点と5つの要素

人材資本経営に重要な3つの視点と5つの要素について具体的に説明します。
・人的資本経営に重要な3つの視点
・人的資本経営に重要な5つの要素

人的資本経営に重要な3つの視点

人的資本経営に重要な3つの視点についてそれぞれ説明していきます。
・経営戦略との連動化
・ギャップの把握
・企業文化への定着化・意識づけ

経営戦略との連動化

人的資本経営を進めていくためには、経営戦略と人材戦略の連動が極めて重要です。企業はますます競争が激化するビジネス環境でその価値を高めていくために、まず経営戦略を綿密に立案する必要があります。

経営戦略において、どのような目標を達成し、どの市場で競争するのか、どのような価値を提供するのかなどを明確に定義します。

また、経営戦略を実現するために必要な人材について、組織におけるどのポジションに、どのようなスキルや経験が求められるかなど明確にします。

その後、適切な人材を獲得・採用し、育成・訓練し、最適なポジションに配置するための人材戦略を策定します。

ギャップの把握

経営戦略と連動させた人材戦略を策定したら、目標と現状の差異をできる限り定量的に把握し、数値化する必要があります。

この差異を明確に把握することで、必要な行動プランを立てて効果的に人材を活用し、経営目標を達成する手助けとなります。

企業文化への定着化・意識づけ

人的資本経営において、企業文化への浸透と意識の醸成が不可欠です。過去、多くの企業では従業員を資源とみなし、管理の対象として捉える傾向がありました。

このため、「人材は管理すべきものである」との観念が広がり、従業員の自己決定や自立性を奨励する視点が不足していました

人的資本経営を実践するためには、まず企業や従業員が人的資本の概念を理解し、具体的にどのような事項を検討し、何をするべきかを再認識する必要があります。

人材戦略を策定する段階では、目指す企業文化を明確にし、経営陣が経営理念を従業員に伝え、企業文化への意識付けを行うことが極めて重要です。

人的資本経営に重要な5つの要素

人的資本経営に重要な5つの要素についてそれぞれ説明していきます。
・動的な人材ポートフォリオの導入
・知識・経験のダイバーシティとインクルージョンを重視
・リスキリング・学び直しの支援
・従業員エンゲージメントの向上
・多様な働き方

動的な人材ポートフォリオの導入

動的な人材ポートフォリオの導入により、企業はリアルタイムで人材の状況を把握し、必要な調整や戦略的な人材マネジメントを行うことができます。

これにより、適切なポジションへの配置や将来の育成に関する戦略を立て、人材を効果的に活用できるようになります。

知識・経験のダイバーシティとインクルージョンを重視

多様な人材が最大限に活躍できる環境を整えるためには、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括)の促進が必要です。

国籍、性別、年齢などの外的属性だけでなく、職歴、ライフスタイル、価値観などの内的属性に関係なく、個々の個性を尊重し合い、その個性を最大限に活かすことを目指します

企業の人的資本経営において、ダイバーシティとインクルージョンは、これに加えて価値の創造に焦点を当て、個人が持つさまざまな経験や知識を積極的に取り入れる概念として重要視されています。

リスキリング・学び直しの支援

従業員が自己のキャリア構築について主体的に考え行動する際、企業は従業員のリスキリングを支援する姿勢が望ましいでしょう。

リスキリングを通じて、既存の従業員が新しい技術を習得し、能力を向上させることができ、経営環境の変化に柔軟に対応できるようになります。

また、組織変革を遂行するためには、従業員だけでなく経営陣のリスキリングも極めて重要と言えます。

従業員エンゲージメントの向上

従業員エンゲージメントは、企業や組織に対する愛着や貢献意欲を示す指標であり、高いエンゲージメントを持つ従業員は通常の場合、低い離職率や積極的な仕事への取り組みを示します。

人的資本経営において、従業員エンゲージメントを向上させる取り組みは不可欠です。

従業員エンゲージメントを高めるためには、定期的なコミュニケーションはもちろんのこと、納得度の高い経営戦略の構築、充実した就業環境、多様なキャリアパスの提供などが効果的です。

多様な働き方

パンデミック対策や災害などの緊急事態において、事業を継続するためには柔軟な働き方を導入し、従業員が遠隔で仕事を行えるような環境を整備することが重要です。

また、テレワークやフレックスタイム制、時短勤務など多様な働き方を提供することで、従業員の選択肢が広がり、地理的制約や時間的制約に関係なく優秀な人材を採用する機会が増えます

人的資本経営コンソーシアム

「人的資本経営コンソーシアム」が一橋大学CFO教育研究センター長伊藤邦雄氏を含む7名の発起人により設立され、設立総会が2022年8月25日に開催されました。

このコンソーシアムは、人的資本経営の実践に関する活動や情報共有、企業間の協力、情報開示の検討を通じて、日本企業の持続的な成長と企業価値向上を支援することを目的としています。経済産業省や金融庁もオブザーバーとして参加しており、投資家との対話も行われています。

このような取り組みによって、日本企業が人への投資に積極的であることをアピールし世界中からの資金が集まり国際市場での成功を収める一助となることが期待されています。

まとめ

ここまで、人的資本経営について人的資本経営の定義、国内と国外での人的資本経営の違い及び人材資本経営において重要な3つの視点と5つの要素を中心に解説してきました。

本記事が、ベンチャー・スタートアップ企業の経営者・ガバナンス・人的資本に関する情報開示の担当者の方のご参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。