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人的資本開示の義務化とは?情報開示のポイント・開示が求められる領域について解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
~概要と基本原則を解説~

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人的資本の開示は、企業が人材戦略や組織の成果に関連する情報を、内外のステークホルダーに提供することを指しています。人的資本への投資は、企業価値の持続的な向上や投資家への魅力を高める要素となるため積極的に投資を行う企業が増加しています。

国際的に人的資本の開示を要求する動きが拡大しておりアメリカでは既に上場企業に対し情報開示が義務づけられています。2023年3月期の決算から日本でも上場企業など大手企業を対象に人的資本の開示が義務化されることが決まりました。

この記事では、人的資本開示の背景、重要な文書、また求められる7つの分野と19の項目、さらに開示時のポイントなどについて解説します。


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人的資本とは

人的資本とは、個人が持っているスキル、才能、資格などを資本として捉え、その重要性を認識する考え方です。

具体的に言うと、人に対し適切な投資を行うことで、人も物資資本と同様に価値が高まり、資産となるということです。人的資本を含む無形資産が企業価値に占める割合が増加傾向にあります

最近では、コロナ禍の影響によって社会生活が大きく変化し、企業には新しい価値を創造する能力が求められるようになり、これが人的資本の考え方が注目される要因の1つと考えられます。

企業の価値を評価する際に、人的資本は投資の観点からも重要な要素の1つとなっています。

人的資本経営については、こちらの記事もご参照ください。
人的資本経営とは?注目される背景・重要な3つの視点と5つの要素について解説

人的資本の情報開示とは

​​人的資本の情報開示は、企業が自社の人材育成方針や社内環境の整備方針などの情報を社内外に公開することを指します。

人的資本を無形資産として情報を開示することで、経営者、投資家、社員などのステークホルダー間の理解をより深めることができます。

国内外で、人的資本の情報開示に関するさまざまな任意の開示基準が設けられています。

特に、2018年に国際標準化機構(ISO)が発表した情報開示のガイドライン「ISO30414」は、欧米諸国の企業を含む世界中の企業で採用されています

ISO30414については、こちらの記事もご参照ください。
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人的資本の情報開示の義務化

人的資本の情報開示義務化は、企業が「従業員の成長のためにどのような取り組みを行っているか」という情報を、財務情報と同様に社内外に公開する義務を課すものであり、2023年3月31日以降の事業年度に関連する有価証券報告書等から適用されます。

金融商品取引法第24条に基づき「有価証券報告書」を発行する約4,000社の大手企業が人的資本の情報開示義務化の対象となりました。

有価証券報告書は内閣総理大臣へ提出する義務があります。万が一提出が怠られた場合、懲役刑あるいは罰金刑の対象となりますので、十分な注意が必要です。

国内企業における人的資本の情報開示要請がますます増加する見込みですので、義務化される以前から準備を進めることが大切です。

また、ここ最近では、投資家を含むステークホルダーから、企業がどのように社会貢献し、環境保護に取り組むかというサステナビリティやEGSへの興味が高まっています。

投資家は財務情報だけでなく、サステナビリティやEGSに関する情報も参考にして投資先を選定する傾向が強まっており、企業にはこうした情報の開示を求める傾向があります

人的資本の情報開示に不可欠な3つの重要資料

人的資本の情報開示を理解する上で必要不可欠な3つの重要な文書について解説します。
・ISO30414
・人材版伊藤レポート
・人的資本可視化指針

ISO30414

ISO30414は、企業の持続的な成長と経営を促進することを目的とする人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインです。

このガイドラインでは、コンプライアンス・倫理、コスト、多様性、リーダーシップ、組織文化、健康・安全、生産性、採用・配置・異動・離職、スキル・能力、後継者の育成、労働力の可用性の11領域に関する開示項目が定められています。

人的資本の組織への貢献度を判断しやすくなり、投資家にとっても重要な判断材料を提供できます。

人材版伊藤レポート

2020年9月に、人的資本経営の実現に向けた検討会報告書として知られる「人材版伊藤レポート」が公表されました。

2022年5月には第2弾として「人材版伊藤レポート2.0」が公表されました。

人的資本経営の実現に向けて、人材版伊藤レポートの内容を詳細に検討するための検討会が設置され、そこでの議論の結果をまとめて「実践事例集」を追加したのが「人材版伊藤レポート2.0」です。

人材版伊藤レポートは、人的資本経営の実践についての深い理解に繋がり、また、人的資本の重要性を理解するために大切な資料です。

人的資本可視化指針

人的資本可視化指針は、非財務情報可視化研究会から2022年8月に公表された資料です。この指針は、人的資本の情報開示に焦点を当てており、既存の基準やガイドラインの活用方法についても言及しています。

さらに、国内外の開示基準などを記載しているため、具体的にどのような人的資本情報を開示すべきかが把握できる内容となっています。

人的資本開示が求められる7分野19項目

内閣官房が公表した「人的資本可視化指針」では、人的資本に関する理想的な開示項目として、7分野19項目が示されています。7分野19項目について、それぞれ解説します。

分野 項目
人材育成の領域 リーダーシップ|育成|スキル・経験
エンゲージメントの領域 従業員満足度
流動性に関する領域 採用|維持|サクセッション
ダイバーシティの領域 ダイバーシティ|非差別|育児休業
健康・安全の領域 精神的健康|身体的健康|安全
労働慣行の領域 労働慣行|児童労働・強制労働|賃金の公平性|福利厚生|組合との関係
コンプライアンス・倫理の領域 法令遵守

人材育成の領域

人材育成分野では、「リーダーシップ」「育成」「スキル・経験」という項目が挙げられています。

この分野において開示する情報は、後継者の育成やスキルアップ向上への取り組みの他、優秀な人材を常に確保するためのシステムなど人材育成に関する情報もございます。

具体的には、従業員1人あたりの研修時間および研修にかかったコスト・研修への参加率、人材開発の効果、人材確保と定着に向けた取組の説明などの情報開示が求められています。

エンゲージメントの領域

エンゲージメントは、従業員が自分の働き方や業務内容、就業環境に対し満足しているかどうか、そして仕事に対するやりがいを感じているかを評価する重要な項目です。

具体的な例として、従業員満足度調査の実施結果やエンゲージメントの持続的向上を促す取り組みが開示されることが期待されます。

また、企業への帰属意識や共感度に加え、ストレスや不満などの程度も開示されるべき項目であり、調査やストレスチェックなどを通じて数値化が可能な項目です。

流動性に関する領域

流動性の分野では、離職率や採用コスト、人材確保や定着の適正度を測る重要な指標です。

具体的な開示例には、離職率や定着率、採用・離職コスト、新規雇用の総数や比率などが含まれます。「採用」「維持」「サクセッション」という3つの要素がこの分野を構成しています。

人材の維持・定着に関する取り組みや、採用人数、離職率などの数値的な情報の開示が求められます。

ダイバーシティの領域

多様性の開示も義務化されている項目の1つです。多様性分野には、「ダイバーシティ」「非差別」「育児休業」の項目が挙げられています。

特に女性の管理職比率や男女間の賃金格差、男性の育児休暇取得率、育児休業後の復職率などが開示の対象となります。さらに定着率や異なる性別、人種、国籍などを持つ多様な人材を尊重し受け入れる体制が整備されているかも重要なポイントです。

この項目は、多様な働き方が推進されている現在において、開示が必須とされており、注目を集めている分野と言えます。

健康・安全の領域

健康・安全分野では、「精神的健康」「身体的健康」「安全」が重要な項目となります。

労働災害の発生率や従業員の欠勤率、医療・ヘルスケアサービスの利用促進および利用の適用範囲などを通じて、リスクマネジメントの観点から、従業員が安全に仕事を行えるか、心身の健康が保たれているかなど従業員の健康や労働環境に対してどのような施策を行っているか、具体的な数値などを可視化し、今後の目標や進捗状況も開示することが求められます。

労働慣行の領域

「労働慣行」「児童労働・強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」といった5つの重要な分野が、労働慣行分野に含まれます。

労働慣行は、使用者と労働者の双方に一定の事実が相当期間にわたって浸透し、これに従うことが労使双方で暗黙の了解とされている事実を指します。また、15歳未満の児童の労働や人権を侵害する労働が行われていないか、支払われる賃金が適正であるか、福利厚生の種類・内容、団体労働協約や団体交渉協定の対象者となる割合などの情報開示が求められます。

コンプライアンス・倫理の領域

コンプライアンスとは、「法令遵守」を意味しています。

コンプライアンスの分野では、世の中に存在する法令を遵守した上で、法令を順守し企業活動を行っているか、倫理的な行動を取っているかなど情報を開示することが求められています。

人的資本開示する上でのポイント

単純に情報を開示するだけではなく企業価値の向上やステークホルダーへのアプローチに繋がるように人的資本を開示することが重要です。

ここでは、人的資本開示をする際のポイントと注意点について解説します。
・開示が必要な情報の整理と可視化
・情報の定量化
・企業優位性を意識した開示内容
・ストーリー性を感じる開示内容

開示が必要な情報の整理と可視化

人的資本の情報を整理し、ステークホルダーが求める内容を開示することは非常に重要です。これにより、相互理解が深まり、企業の価値向上につながります。

そのためには、自社が開示する情報については事前に精査し、見える化しておくことが重要です。情報があらかじめ整理できているとステークホルダーの求める情報を開示しやすいだけではなく、その中で自社の強みを発見できる可能性もあります。

情報開示の際には、7つの分野と19の項目を参考にしながら、ステークホルダーのニーズを十分に分析し、適切な情報を提供することが重要です。

情報の定量化

人的資本の情報開示を行う際は、できる限り具体的で定量的な情報を示すことが求められます。

自社の現状や取り組みの結果を数値化し、それを用いて現状と目標の差異を示すことで、具体性が増し、ステークホルダーも理解しやすくなります。

現状を定量的に把握できるようになれば、目標との差異も明確になり、改善に向けた取り組みも期待できます。

このプロセスは、開示のみならず、人的資本経営を成功させるためにも重要なステップです。

企業優位性を意識した開示内容

ステークホルダーが求める情報を分析した上で、戦略的に情報を開示することも重要です。

開示すべき情報は、企業のリスクマネジメントや働き方改革など、比較検討が容易な保守的な側面だけでなく、企業独自の戦略など、成長に寄与する側面も示し、企業の競争優位性を強調することが重要です。

情報開示において、自社の魅力や優位性を明確に示すことで、他社との差別化が図れ、ステークホルダーにも理解される情報開示になります。

ストーリー性を感じる開示内容

情報を開示する際には、ストーリー性を持たせることが有効です。人的資本の情報にストーリーを加えることで、内容が具体的に伝わり、より質の高い情報をステークホルダーに提供できるようになります。

人的資本に関する取り組みの結果をまとめるだけではなく、施策に取り組んだ背景の説明や企業理念に結び付けてまとめることで、ステークホルダーのニーズを満たせる情報開示になる可能性があります。

まとめ

ここまで、人的資本開示についての背景、重要な文書、また求められる7つの分野と19の項目、取り組みのポイントなどを解説してきました。

本記事が、ベンチャー・スタートアップ企業の経営者・ガバナンス・人的資本に関する担当者の方のご参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。