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スチュワードシップ・コード|特徴・原則と責任・8つの基本原則と実施方法・メリット・デメリットについて解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
~概要と基本原則を解説~

コーポレートガバナンス・コードの「基本的な概要」と「基本原則」にフォーカスして紹介

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スチュワードシップ・コードは、投資家や企業がより良い関係を築くための大切なガイドラインとなるもので、2000年代初頭にイギリスで生まれました。

「スチュワードシップ」は、「財産を管理することを任された者の責務」という意味を持ち、日本では、投資家と企業との対話を深めることを目的として、2014年にスチュワードシップ・コードが導入されました。

スチュワードシップ・コードを理解することで、企業の運営や投資の世界がどのように動いているのかが見えてきます。

今回の記事では、スチュワードシップ・コードの基本から掘り下げていきます。まず、コードの定義と、なぜこのようなコードが生まれたのか背景について簡単に説明します。そして、このコードが目指す目的についても触れていきます。

さらに、スチュワードシップ・コードの特色や日本と英国版の違い、そして関連する機関投資家に焦点を当てて詳しく解説します。そして法的な側面や、近年の改訂点についても見ていきます。

そして、このコードが実際にどのような影響を企業や投資家に与えるのか、メリットとデメリットを通じて見ていきます。

スチュワードシップ・コードとは?

スチュワードシップ・コードは、企業と投資家が持続的な成長を達成するための行動原則をまとめたものです。これは投資家が企業との関係を効果的に管理し、企業価値と持続的な成長を促進するための責任を果たすことを目指しています。

具体的には、企業側と投資家側がお互いの利益や価値を最大化することを目指して行動するための指針や原則がまとめられているのです。

スチュワードシップ・コードの発端と背景

スチュワードシップ・コードが生まれた背景には、企業と投資家間のコミュニケーションや関係性の改善が求められるようになったことがあります。特に2008年のリーマンショック以降、企業統治(コーポレートガバナンス)の重要性が高まり、投資家の役割が再評価されました。

スチュワードシップ・コードはその一環として、投資家が企業と積極的かつ建設的な対話を行い、企業価値の向上と持続的な成長を支援するために、日本では2014年2月に導入されました。

スチュワードシップ・コードの目的

スチュワードシップ・コードの目的は、機関投資家が顧客と企業の両方を対象に、スチュワードシップ責任を果たす上で役に立つと考えられる原則を定めることにあります。

スチュワードシップ責任とは、機関投資家が投資先となる企業価値の向上と持続的な成長を促進し、顧客の中期的・長期的な投資リターンの拡大をする上での責任のことを指します。

企業の持続的な成長の促進を達成するために、投資家は企業との対話を通じて企業統治(コーポレートガバナンス)・戦略・リスク管理・業績等に関する理解を深めることが求められます。また、投資家は企業への責任を果たすために、持続的な成長を実現する方策を企業と共有し、その実施を支援する役割を担っています

スチュワードシップ・コードは、企業と投資家双方が利益を享受し、社会全体が豊かになることを目指すツールとしての役割を果たしているのです。スチュワードシップ・コードを通じて、企業と投資家が共に、企業価値の向上と持続的な成長を目指すことができるでしょう。

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スチュワードシップ・コードの特徴

投資の世界において、スチュワードシップ・コードは企業と投資家が共に目指すべき方向を示す重要なガイドラインとなっています。では、このコードの特徴とはどのようなものでしょうか?日本版と英国版の違い、関与する主な機関投資家、さらには法的な側面とその進化を見ていきましょう。

日本とイギリス版の違い

スチュワードシップ・コードは、日本とイギリスでそれぞれ異なる特色を持っています。イギリス版は2000年代初頭に導入され、株主活動に焦点を当てたガイドラインとして始まりました。

一方で日本版は、2014年に制度が導入され、企業と投資家の対話を深化させることに重きを置いています。また、日本版はコーポレートガバナンス・コードと連携し、企業価値の向上と持続的な成長を目指す観点から作成されました。

日本版スチュワードシップ・コードは、投資先となる企業との信頼性や秘密保持の点から機関投資家が他の投資家と一緒になって投資先企業に対して働きかけ・行動を起こすことがないという特徴があります。

しかしながら、投資先企業との建設的な対話をするために、機関投資家には見合った見識および理解が求められます。

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関係する機関投資家

スチュワードシップ・コードを成功させるためには、複数の機関投資家が協力して取り組む必要があります。この連携は投資プロセスの各段階で、企業価値の向上と持続的な成長を追求します。

特に注目すべきは、資産運用者と資産保有者の役割であり、彼らがそれぞれ異なるアプローチと責任を持ちます。以下、これら機関投資家とその役割について詳細に説明します。

機関投資家 特徴
資産運用者 ・企業に投資する際の重要なアクター
・企業と直接対話を行い、投資先企業の持続的な成長をサポートする役割
資産保有者 ・資産運用者に資金を委託することで、間接的に企業への影響を与える
・資産保有者が運用者に対して持続可能な投資を促す働きかけが求められる

法的側面から見るスチュワードシップ・コード

スチュワードシップ・コードの遵守と運用は、単なるビジネス倫理の問題だけでなく、一定の法的枠組みにも基づいています。この枠組みがどのようにスチュワードシップ・コードの具体的な実施をガイドし、支援するのかを理解するには、いくつかの重要な要素に焦点を当てる必要があります。

法的拘束力

スチュワードシップ・コードは、法律による強制力は持っていません。金融庁が定めているガイドラインのようなものなので、法的な拘束力はありません。

スチュワードシップ・コードの受け入れについては、機関投資家に選択権があります。

プリンシプル・ベース・アプローチ

スチュワードシップ・コードはプリンシプル・ベース・アプローチを採用しており、具体的な規則よりも基本的な原則に焦点を当てていることが特徴です。これにより、各投資家が自身の状況や目的に合わせて柔軟に対応できるようになっています。

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コンプライ・オア・エクスプレインの原則

「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守するか、理由を説明する)の原則」は、機関投資家がスチュワードシップ・コードを受け入れる場合においても、必ずしも原則すべてを行う必要はありません。原則を行わない場合は、行わない理由を説明する必要があります。

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2017年改訂と2020年改訂

スチュワードシップ・コードは時代とともに進化してきました。2017年の改訂では、投資家のスチュワードシップ活動に対する透明性が強化されました。

さらに、2020年の改訂では、環境・社会・ガバナンス(ESG)の側面が強調され、投資家が企業との対話を通じてこれらの側面を考慮することが推奨されるようになりました。また、対象を株式以外の保有に拡大、利益相反が無いように管理体制を整備することを規定しました。

これらの改訂を通じて、スチュワードシップ・コードは企業と投資家が共同で価値を創造し、社会全体の持続的な成長を促進する道筋を示しています。

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スチュワードシップ・コードの原則と責任

スチュワードシップ・コードは、企業統治の品質を向上させ、投資家と企業の間の建設的な関係を築くことを目指しています。

8つの基本原則とその実施方法

スチュワードシップ・コードは、8つの基本原則に基づいており、それぞれの原則が具体的な実施方法を示しています。これらの原則は、企業と投資家との関係をより強化し、共通の目標達成に向けた協力体制を構築するための基盤となります。これにより、社会全体の持続的な成長と企業価値の向上が促進されます。

スチュワードシップ・コードの8つの原則を見ていきましょう。

原則 内容
原則1 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
原則2 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
原則3 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
原則4 機関投資家は、投資先企業との建設的な目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。
原則5 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
原則6 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
原則7 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。
原則8 機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである。

参照:「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫(金融庁:令和2年3月24日)

スチュワードシップ・コードのメリットとデメリット

スチュワードシップ・コードが企業と投資家との関係を向上させることは明らかですが、その影響はメリットとデメリットの両方があります。以下のように詳しく説明します。
・メリット:企業側が高い収益性を確保できることへの期待
・デメリット:スチュワードシップ・コードの運用に対する企業側の本音

メリット:企業側が高い収益性を確保できることへの期待

スチュワードシップ・コードの導入は、企業側が高い収益性を確保することにつながります。原則に従うことで、企業は投資家との関係を深め、長期的な事業戦略や経営方針の質を向上させることが可能です。

これにより、投資家が短期だけでなく長期志向で企業を評価し、企業は持続的な成長を達成し、その結果として高い収益性を確保できることが期待されます。

また、スチュワードシップ・コードは、投資家からのフィードバックや意見を企業が取り入れやすくするフレームワークを提供するため、企業側は市場の動向や顧客のニーズに迅速に対応する力を向上させることができます。

デメリット:スチュワードシップ・コードの運用に対する企業側の本音

一方で、企業側から見ればスチュワードシップ・コードの運用にはいくつかの懸念点が存在します。企業側は、投資家との頻繁な対話や報告義務が、経営資源の過剰な消費を招くことを危惧するかもしれません。また、企業独自のビジョンや戦略が投資家のプレッシャーによって歪められるおそれもあります。

さらに、企業側はコードの要件を満たすことが、時には形式的な運用に陥る可能性を感じるかもしれません。これは、実際の企業価値の向上よりも、投資家への報告や準拠のための努力が増える結果となり得ます。

しかし、これらのデメリットも認識し、適切に管理し、そして適応することで、企業はスチュワードシップ・コードの導入から最大の利益を得ることができます。このプロセスは企業と投資家双方が良好な関係を築くための貴重な経験となり得ます。

まとめ

スチュワードシップ・コードは、企業と投資家との関係を強化し、持続可能な成長を目指すための重要な枠組みとなっています。コードの背景や目的、それに日本とイギリスでの違いや法的側面までを見てきましたが、その本質は企業の適切な経営と投資家との協力関係の構築です。

実施方法として示された8つの原則は、企業と投資家が効果的な対話を行い、互いの利益と社会全体の利益を高めるための道徳的な指針となります。しかし、その運用には企業側から見ればいくつかの懸念があり、これがコード運用のデメリットとして浮かび上がります。

しかし、適切に運用されれば、コードは企業側が高い収益性を確保できる可能性をもたらし、企業と投資家の関係をさらに強固なものにすることが期待されます。このように、スチュワードシップ・コードは、企業と投資家が共に進むべき方向を示す有効なガイドラインとなり得ます。

本記事が、ベンチャー・スタートアップ企業の経営者・ガバナンスに関する担当者の方のご参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。