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ダイレクトリスティングとは?メリット・デメリットとIPOとの違い・事例について解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)



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企業経営者の多くが「将来はIPOで会社を上場したい」と上場を目指しています。しかし、IPOには時間がかかり、コストもかかります。
IPOよりも圧倒的に時間を節約して、簡単に株式を売り出せる方法がダイレクトリスティングです。ダイレクトリスティングであれば、短期間かつ低コストで株式を市場で売却できるので比較的簡単に資金調達可能です。
本記事では、ダイレクトリスティングとIPOの違いやダイレクトリスティングのメリットとデメリットについて詳しく解説していきます。
目次
ダイレクトリスティングとは
ダイレクトリテスティングとは英語でDirect Listingと表記します。Listingとは上場という意味ですので、ダイレクトリスティングとは直接上場という意味です。
通常、株式を上場する際には新株を投資銀行に引き受けてもらいますが、直接上場(ダイレクトリスティング)では新株を発行しません。新株を発行せず既存の株式だけを売り出します。したがって、上場の手間がかかりません。そもそも、既に発行している株式を証券取引所で売却するだけですので、非常にスムーズに上場できます。
通常のIPOとの違い
IPOもダイレクトリスティングも証券取引所へ上場させて株式を取引するという点では同じです。一般的に、IPOを実施するためには次のようなプロセスが必要になります。
- IPOに向けた社内プロジェクトチームを編成・発足
- 監査法人、主幹証券会社を決定
- 監査法人・幹事証券会社と契約
- 幹事証券会社が新株を引き受け
- 公募・売出価格で投資家へ販売
これらの流れでIPOを実施するためには3年程度の時間が必要になります。また、証券会社や監査法人へ報酬を支払う必要があるので数千万円程度のコストがかかります。
しかし、ダイレクトリスティングであれば、これらの手順を全て飛ばすことができます。発行済みの株式を証券取引所で取引するだけですので、非常に短時間かつ低コストで上場できます。
ダイレクトリスティングの手順
ダイレクトリスティングの手順は非常にシンプルです。
証券取引所の上場基準を満たし、証券取引所に株式を上場するだけになります。面倒な主幹事社との契約や監査などは必要ありません。通常のIPOのように、IPOのためのチームを発足し、証券会社と契約をし、上場審査を受けるといった一連の流れがないのでコスト面でも時間的面でも大きく節約することができます。
ダイレクトリスティングのメリット
ダイレクトリストティングには次の4つのメリットがあります。
・上場するのにコストがかからない
・IPOよりも時間がかからない
・ロックアップ期間がない
・発行済み株式が希薄化しない
IPOには数千万円単位のコストと約3年の時間がかかりますが、ダイレクトリスティングでは、このような金銭的・時間的なコストはかかりません。また、ロックアップ期間や発行済み株式の希薄化がないので、既存の株主の利益を犯すこともありません。
ダイレクトリスティングの4つのメリットについて、詳しく解説していきます。
上場するのにコストがかからない
IPOでは上場手続きのために証券会社や監査法人に対して年間5,000万円程度の費用を支払わなければなりません。内訳は次の通りです。
・監査費用800~2,000万円
・株式事務代行手数料400万円程度
・主幹事証券会社成功報酬500万円程度
・コンサルティング費用400~800万円程度
上場するまでの3年間はこれらの費用がかかるので、上場までに総額で1億円以上のお金が必要です。
しかし、ダイレクトリスティングでは、上場前のランニングコストがかからないので、これらの上場準備費用を節約することができます。
IPOよりも時間がかからない
ダイレクトリスティングではIPOのように上場までの時間がかかりません。IPOでは監査法人が2期監査を行い、過去2期分の監査証明書が必要になります。そのため最低でも上場までには3年の時間が必要です。
しかし、ダイレクトリスティングでは、このような上場準備が必要ありません。IPOに必要な上場準備の多くを飛ばすことができるので、短期間で上場することができます。
ロックアップ期間がない
IPOを実施するとロックアップ期間が生じます。ロックアップ期間とは、上場後に株式の暴落が起きないために大株主が上場後の一定期間株式を売却できない期間です。そのため、IPOでは創業者やベンチャーキャピタルはいかに多くの株式を保有していても自由に売買できません。
ダイレクトリスティングであればロックアップ期間が存在しないので、創業者やベンチャーキャピタルはすぐに株式を売却して利益を獲得できます。
発行済み株式が希薄化しない
ダイレクトリスティングは新規の株式を発行しないので、1株の価値が下がることがありません。
IPOでは新規の株式を発行するので、1株あたりの持分が下がってしまいます。例えば、発行済株式数100株の企業の株式を1株保有している人の持分比率は1%ですが、IPOで100株の新規発行を行った場合には持分比率は0.5%へ減少します。これを株式の希薄化と言い、IPOは株式の希薄化によって既存株主の利益を害するのがデメリットです。
ダイレクトリスティングであれば持分比率はそのままですので、既存の株主の権利を犯す心配はありません。
ダイレクトリススティングのデメリット
ダイレクトリスティングは、IPOと比較して多くのメリットがありますが、次の2つのデメリットだけはしっかりと理解しておきましょう。
・新規の資金調達はできない
・流動性が低く売買が成立しないリスクがある
IPOと異なり、新株を発行するわけではないので、資本金が増強されるわけではありません。また、そもそも流動性が低いので買い手が現れるのかは不透明です。
ダイレクトリスティングの2つのデメリットについて詳しく解説していきます。
新規の資金調達はできない
ダイレクトリスティングは、あくまでも発行済みの株式を証券取引所で売却するだけですので、企業にとって新たな資金調達ができるわけではありません。
創業者やベンチャーキャピタルにとっては、保有している株式を市場で売却できるのでメリットはありますが、会社そのものが新たな資金調達ができないという点を理解しておきましょう。
流動性が低く売買が成立しないリスクがある
ダイレクトリスティングは、新株の発行を行いません。そのため、IPOで上場する場合と比較して、どうしても市場に出回る株式数は少なくなってしまいます。
株式数が少ないと流動性が下がり、売買が成立しないことがあります。
せっかくダイレクトリスティングで株式上場を果たしても、買い手が見つからずに売却できない可能性があるという点にも注意しましょう。
ダイレクトリスティングに向いている企業
IPOではなくダイレクトリスティングに向いている企業は、次の3つの企業です。
・時間とお金をかけずに上場したい企業
・創業者個人に資金調達が必要な場合
・上場による知名度と信用度の向上が目的
IPOと比較して圧倒的に簡単に上場できますし、創業者が保有する株式を市場に売却することで、創業者は多くの資金を調達できます。また、ダイレクトリスティングであっても、世間的には「上場」ですので、企業は高い社会的信頼を獲得できます。
ダイレクトリスティングに向いている2つのケースについて詳しく見ていきましょう。
時間とお金をかけずに上場したい企業
時間とお金をかけず証券取引所へ上場したい企業にダイレクトリスティングは向いています。
IPOを実施するには3年以上の時間と、年間数千万円もの高額な費用がかかります。もちろん、IPOで新株発行すれば多額の資金調達ができますが、それでもIPOにかかる時間とコストは膨大です。
ダイレクトリスティングであれば、IPOに時間もコストもかからないので、「早く上場したい」「お金をかけずに上場したい」という企業に向いています。
創業者個人に資金調達が必要な場合
創業者個人に資金調達が必要な場合にはすぐに上場して株式を売却できるダイレクトリスティングが向いています。
IPOを実施した場合には、ロックアップ期間が設定されるので創業者は株式を一定期間売却できません。また、そもそもIPOには時間がかかります。ダイレクトリスティングであれば、IPOのように上場までに時間がかかりませんし、ロックアップ期間も存在しないので、創業者が「すぐにまとまったお金が欲しい」という場合に適しています。
上場による知名度と信用度の向上が目的
IPOでもダイレクトリスティングでも上場であることには変わりありません。
そして、上場企業になると、知名度と社会的な地位は飛躍的に向上します。「新たな資金調達は必要ないが、上場して知名度や信用度を上げたい」という方は、時間をかけずに上場できるダイレクトリスティングがよいでしょう。
短期間で上場して、すぐに上場企業としてのステータスを得ることができます。
ダイレクトリスティングで上場した企業の事例
実際にダイレクトリスティングで上場した次の3つの企業の事例をご紹介していきます。
・スポティファイ・テクノロジー
・スラック・テクノロジーズ
・コインベース
音楽配信サービスのスポティファイや仮想通貨で有名なコインベースもダイレクトリスティングで上場しています。実際の事例を詳しく解説していきます。
スポティファイ・テクノロジー
Spotifyは2017年にダイレクトリスティングで上場しています。この際にIPOでは次の目標が達成できないと考えました。
・ロックアップ契約で制約を受けることなく、既存の株主に対してより大きな流動性を提供
・Spotifyの既存株主が上場後すぐに市場価格で株式を売却できるようにするために透明性を最大限に高めた上場プロセスを実施
・すぐに資金調達の必要性無し
Spotifyはすぐに資金調達をする必要はありませんでした。
そのため、上場の際には既存株主の利益へ配慮と透明性の高さが重視されました。ダイレクトリスティングであれば、株式の希薄化が起こらずにロックアップ期間も存在しないので、既存株主はすぐに市場で株式を売買できます。
これらの理由からSpotifyはダイレクトリスティングで上場をしています。
スラック・テクノロジーズ
2019年スラック・テクノロジーズは共同作業を進める人たちのためにウェブ上にチャットの場を提供するサービスである「Slack」の提供を行っています。株式の65%を創業者ならびに初期の支援者が保有しており、Spotify同様に、既存の株主の利益を重視したいと考えました。
やはり「資金調達が必要ない」「既存の株主がすぐに株式を売却できるようにする」という2つの理由が揃うことで、IPOではなくダイレクトリスティングは有力な選択肢になります。
コインベース
アメリカの仮想通貨取引所最大手のコインベースも2021年にダイレクトリスティングで上場しています。やはり、既存株主の利益保護と資金調達の必要性のなさからダイレクトリスティングが選択されました。
上場時には参考価格が1株当たり250ドルでしたが、初値は381ドルと52%以上高騰しました。新株を発行しないので、株式の希少性が高まり、有名企業であればダイレクトリスティングの方が価格が上昇しやすいことを示しています。
ダイレクトリスティングだからこそ、株価が上昇した事例だと言えるでしょう。
まとめ
ダイレクトリスティングとは新株を発行せず、既存の株式を証券取引所で売りに出す上場の方法です。IPOのように時間とお金がかからずに、ロックアップ期間も存在しません。
創業者や既存株主がすぐに資金調達したい場合や、時間をかけずに上場企業になりたい場合には有効な方法です。上場の1つの手法として頭に入れておきましょう。
本記事が上場を目指しているスタートアップ・ベンチャー企業の経営者の方の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。