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【経営者・CFO必読】IPOにおける主幹事証券会社の選び方 〜主幹事選択の事例と証券会社について解説〜

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

監査法人から選ばれるために

IPOを目指すために知っておきたいポイント

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主幹事証券会社とは、IPO全体のスケジュールを管理したり、株式の公開価格を決めたりするなど、IPOにおいて中心的な役割を果たす証券会社のことを指します。

IPOを成功させるためには、数多くある証券会社の中から、主幹事となる証券会社を1社選ぶには慎重に検討していきたいものです。

証券会社の中には、大手の店舗型の証券会社、ネット証券会社の他に、メガバンク系証券会社や準大手・中堅証券会社などもありますが、どのように主幹事証券会社を選んでいけばいいのかを解説していきます。

主幹事証券会社を選ぶ時のポイント

主幹事証券とは、企業がIPOを目指すことを支援する業務を行う証券会社のことをいいます。IPOの上場を目指すにあたって、主幹事証券会社とは数年の間のお付き合いをすることになります。そこで、主幹事証券会社の選び方を間違えてしまうと上場スケジュールが遅れるだけでなく、余分なコストがかかってしまうというリスクがあります。

IPOを成功に導くための主幹事証券会社を選ぶポイントを複数の切り口から考えていきます。

1. 上場実績
2. 販売力
3. 監査法人との繋がり
4. 報酬
5. 支援体制
6. 担当者

1. 上場実績

主幹事証券会社を選ぶ時のポイントとして、株式上場の実績が挙げられます。大手証券会社やメガバンク系の証券会社は、知名度も過去の実績も多いという事実もありますが、ネット証券会社も主幹事を担当した企業の数で猛追しています。主幹事証券会社として上場に関わった数も大事ですが、自社と同じ業界に属する企業の上場に関わっていることで事業に関する前提知識があるため、説明の手間が省けるといったメリットもあります。

ここで、過去3年に渡る証券会社ごとの主幹事数をまとめてみます。

証券会社2019年2020年2021年
みずほ証券13社21社33社
野村証券17社22社28社
SMBC日興証券20社16社26社
SBI証券7社15社21社
大和証券22社15社16社
モルガン・スタンレーMUFJ証券5社2社5社
岡三証券0社1社4社
東海東京証券4社1社4社
いちよし証券1社5社4社
東洋証券0社0社1社
マネックス証券0社0社1社

(2021年度の主幹事数から降べき順)

2. 販売力

ここでいう販売力は、発行された株式を投資家に購入してもらう商取引のことをいいます。手数料の安さや取引金額の大きさや顧客からの預かり資産などさまざまな指標がありますが、一概に販売力を比べるのは難しいです。そこで販売力の一つの目安として、証券会社が所有する投資家の口座の数をここで紹介していきます。

証券会社口座数
SBI証券603万口座
楽天証券600万口座
野村証券532万口座
SMBC日興証券370万口座
大和証券303万口座
マネックス証券197万口座
みずほ証券183万口座
松井証券148万口座
auカブコム証券134万口座
GMOクリック証券47.6万口座

(※2021年度時点でのデータ)

3. 監査法人との繋がり

株式上場には主幹事証券会社以外にも他の事業者との協力が必須になります。主幹事以外の証券会社や証券事務を担当する会社の他に、監査法人が重要な立ち位置を担います。監査法人は、上場に向けた社内の問題点を明らかにするために、会計や労務管理は適切に行われているかなど監査を行います

監査法人と証券会社は、今までの経験から他の企業の上場の際に協同して株式上場に関する業務を行っていることが考えられます。自社の主幹事となる証券会社と監査を担当する監査法人の関係性の良し悪しや相性を調べながらも、公開されている情報にも限界はあるので周りに証券会社や監査法人に使い人がいる場合に、それとなく聞いてみるのもいいかもしれません。

4. 報酬

主幹事となる証券会社への手数料も検討するべきでしょう。一般的に、上場前準備の手数料として年間500万円から1000万円かかると言われています。上場申請をしたとしても、必ず審査に通過するわけではないので上場申請に通過した場合にさらに成功報酬がかかります。こちらもおよそ500万円から2000万円が株式上場申請の成功報酬として主幹事証券会社に支払われます

後発のネット証券の強みとして、大手証券会社やメガバンク系の証券会社に比べて手数料が安い点も特徴として挙げられます。

依頼する企業の規模などによっても変わってくるので、上場準備時に複数の証券会社から見積をもらいコストパフォーマンスのいい証券会社に主幹事を依頼しましょう

5. 支援体制

主幹事証券会社の支援体制については、やはり大手証券会社が充実しています初回の打ち合わせの時に、どのような業務についてどこまで対応してもらえるのかを明確にして、複数の証券会社の対応範囲を比較しましょう。必要な資料の収集や企業価値を上げるための施策の検討によって、証券会社ごとに対応にかかる時間や工数などが変わってきます。このあたりは証券会社の違いというよりは担当者によって対応が異なるので、会社名だけに囚われずに打ち合わせの時に確認することが重要です。

主幹事証券会社に依頼することができる以下の業務内容について説明していきます。
・上場準備のためのアドバイザリー業務
・引受審査業務
・引受業務

上場準備に向けたアドバイザリー業務

依頼者となる株式上場を目指す企業が引受審査に対応できる体制構築の支援を主幹事証券会社が行います。主幹事証券会社に期待できるアドバイザリー業務は以下の通りです。
・資本政策のアドバイス
・事業計画・ビジネスモデルへのアドバイス
・上場申請の書類の作成サポート
・ファイナンス戦略の立案(上場後も含む)
・コーポレートガバナンスの体制確立のためのアドバイス

引受審査業務

依頼者となる株式上場を目指す企業から集めた審査に必要な資料や情報を判断基準として、引受を行う主幹事証券会社が引受審査を行います。有価証券の引受ができるか否かの判断の礎となる審査意見を形成する業務の遂行が、主幹事証券会社に期待されます。

引受業務

引受を行うことを目的として、株式上場を目指す企業に対して募集または売出しの提案を行います。ここでの引受の条件の検討および有価証券の元引受契約の締結に関わる業務の遂行が、主幹事証券会社に期待されます。

(※元引受契約:証券会社が株式の発行社または所有者から投資家に取得させることを目的に有価証券を取得する場合と、その有価証券を取得する投資家がいない際に残りの有価証券を取得する場合がある)

6. 担当者

最終的には担当者の方が決め手になるでしょう。

主幹事証券会社を選ぶ前に大切なポイントとして、良好な関係性や円滑なコミュニケーションがあります。主幹事証券会社とは、上場準備期間から株式上場後もさまざまなアドバイスを受けるなど、株式上場を依頼した企業との関係性は継続します。社内の管理体制の整備へのサポートや資本政策に関するアドバイスなど主幹事証券会社とは一歩踏み込んだやりとりをします。

このような時に主幹事証券会社の担当者の方との信頼関係がないと上場の準備を進めていくことは難しいでしょう。

担当窓口の方の相性や、レスポンスの早さ、フットワークの軽さなどを見分けるのは、証券会社の名前だけでは必ずしもわかりません。しかし、大手証券会社やメガバンク系証券会社だと経験豊富で優秀な担当者の方に巡り会える確率は高いと思われます。

また、投資家に自社の魅力を伝えるための成長戦略(エクイティストーリー)の構築も担当者の方の力量が関わってきます。主幹事証券会社側の担当者の方が事業への理解をしているか、マーケットを適切に捉えることができているかといった内容は会って打ち合わせをしてみるまでは分かりません。担当者のレベルの高さが、株式上場の成功確率を上げることに繋がります

直感ベースなところもありますが、「この人なら信頼できる」という安心感がある担当者の方との出会いも主幹事証券会社を選ぶ時に重要なポイントだと言えます。

主幹事証券会社をいつまでに選んだ方がいいのか?


上場を目指すには、主幹事証券会社の協力は欠かせません。選定時期が決まっているわけではないですが、一般的に監査法人を決めた後に主幹事証券会社を選定します。

直前々期(N-2期)中に選べれば安全に進めることができると言われており、直前期(N-1期)でも1年半から1年9ヶ月前までに主幹事証券会社を決めることでギリギリ間に合うことになると思います。

証券会社ごとの特徴

大手証券会社

大手の証券会社として有名なものには野村証券と大和証券があります。どちらも創業から100年ほどの歴史の長さを誇り、口座数は300万以上あり多くの投資家を抱えています

これら証券会社はIPOや証券業務に関する知識と経験が蓄積されています。公開引受部の層も厚いことから、丁寧なコンサルティングと細かなフォローなどが期待されます。

野村証券

1925年に大阪野村銀行の証券部として独立する形で野村証券は創業されました。大和証券やメガバンク系の証券会社とともに、老舗の証券会社として多くの日本企業のIPOに関わってきました。口座数も532万と多く、主幹事経験も豊富であり、支援体制と営業力の強さも有名です。

金融情報サービスのブルームバーグが発表している金融機関の引受実績をランキング付けした「日本資本市場リーグテーブル(2019年度)」において、野村証券は日本株式IPO部門で1位と評価されています。

近年、野村証券が請け負った主幹事数は以下になります。

2019年2020年2021年
野村証券17社22社28社

大和証券

1943年に藤本証券と日本信託銀行が合併することで大和証券が設立されました。野村証券と同じく主幹事経験が豊富なこと、口座数が303万あること、ネット証券が台頭する中、営業店舗を拡大することで顧客にとって身近な場所でコンサルティングを提供しているという強みがあります。

近年、大和証券が請け負った主幹事数は以下になります。

2019年2020年2021年
大和証券22社15社16社

メガバンク系証券会社

みずほ証券、SMBC日興証券、モルガン・スタンレーMUFJ証券は企業名からもわかるようにそれぞれメガバンクとの関係が深いという特徴があります。企業のメインバンクをメガバンクにしていると、円滑なコミュニケーションから企業と主幹事証券との間のリレーションの構築が期待できます

新株発行による資金調達(エクイティファイナンス)だけでなく、融資や借入といった資金調達(デットファイナンス)とのバランスを取りながら、メガバンク系証券会社に柔軟に相談できるという特徴があります。

みずほ証券

みずほ証券は、第一勧業証券・富士証券・興銀証券の3社が合併する形で2000年に発足しました。主幹事経験の多さだけでなく、銀行と信託の両方と提携している高い信用力を背景にした顧客ニーズへの対応力が強みになります。

また、日経ヴェリタス発表の「債権・為替アナリスト エコノミスト人気調査(2022)」において部門別で1位獲得しています。

近年、みずほ証券が請け負った主幹事数は以下になります。

2019年2020年2021年
みずほ証券13社21社33社

SMBC日興証券

SMBC日興証券は、1920年に設立された旧日興証券から始まり、2001年にまとめられた日興コーディアル証券が2011年に商号を変更することで生まれました。主幹事経験も他に追随しており、2021年は国内IPO銘柄の6割以上を取り扱うなどIPO取引の実績の多さも特徴として挙げられます。また、口座数は370万あり、メガバンク系の証券会社の中では一番多いです。

他の証券会社と違った大きな特徴として、AIを活用した「株式ポートフォリオ診断」や「株価見守りサービス」を提供している点があります。

近年、SMBC日興証券が請け負った主幹事数は以下になります。

2019年2020年2021年
SMBC日興証券20社16社26社

三菱UFJモルガン・スタンレー証券

1948年に設立された八千代證券の設立から、2010年に三菱UFJ証券がモルガン・スタンレー証券会社の業務を統合しされて三菱UFJモルガン・スタンレー証券に商号が変更されました。他社に比べると主幹事経験と証券口座数が少ない特徴がありますが、メリルリンチやモルガン・スタンレーを背景にした国内外それぞれに基盤となる金融ネットワークを持っているという大きな強みがあります。

近年、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が請け負った主幹事数は以下になります。

2019年2020年2021年
モルガン・スタンレーMUFJ証券5社2社5社

ネット証券会社

一番種類が多いのがネット証券会社です。積極的に主幹事業務を引き受けているネット証券業界1位のSBI証券や大手企業やサービスに隣接する証券会社として楽天証券、GMOクリック証券、カブドットコム証券、松井証券、マネックス証券、LINE証券、SBI証券、PayPay証券、SBIネオトレード証券、auカブコム証券、DMM株、岡三オンラインなどがあります。

一番の特徴は取引手数料の安さにあります。証券会社としての事業者を構えていないので、運営コストが低く抑えられつつも実店舗がある証券会社と同程度のサービスを投資家に提供しているという点も人気を支える要因だと思われます。

SBI証券

ネット証券の中でも一番有名なものがSBI証券です。前身は、1944年に設立された大沢証券株式会社であり、商号変更を経て、2008年にSBI証券となった。SBI証券はインターネット証券サービスの先駆者であり、1999年10月に証券のインターネット取引サービスを開始しました。

一番大きな特徴は、証券業界最大の603万の口座数にあります。口座数はそれだけで証券会社が抱える個人投資家の数にもつながるので販売力にも影響してきます。これは、手数料の安さやユーザーの使いやすいシステムなど顧客中心主義の経営理念が浸透していることが理由として考えられます。

近年、SBI証券が請け負った主幹事数は以下になります。

2019年2020年2021年
SBI証券7社15社21社

主幹事証券会社を選んだ企業のケース

株式会社じげん

1社目は、株式会社じげんをご紹介します。2013年に東京証券取引所マザーズに上場した、ライフサービスプラットフォーム事業を行う会社であり、CEOは平尾丈 氏です。

平尾氏は、主幹事証券会社の選定は、アライアンスと同じようにどこの企業と付き合うのかが非常に重要であると考え、時間をかけて証券会社を選定しました。主幹事証券会社の選定にあたって、コンペを行い、いかに自社を理解してくださっているかという基準の下で判断しました。

8社の証券会社が参加したとのことですが、自社がどのような事業を行っているかについて齟齬があった会社もあり結果として野村証券を選定しました。理由は、野村証券のリソースを活用できることと、IPOプロジェクトに対するコミット度合いが高く費用対効果が高いと判断したからとのことです。

平尾氏は、上場に際してコーポレート部門含め全ての部門で利益を追求しようとしましが、野村証券は、主幹事交代のリスクがあるにもかかわらず、この経営方針に真っ向から反対をしたことで、平尾氏はコーポレート部門の果たす役割の重要性を見出すことができたと述べています。

株式会社クラウドワークス

2社目は、株式会社クラウドワークスをご紹介します。2014年に東京証券取引所グロースに上場した、クラウドソーシングサービス会社であり、CEOは吉田浩一郎 氏です。

主幹事証券会社は大和証券が担いました。新規上場の際に、足元の直前期は黒字というケースが通例であるにもかかわらず、株式会社クラウドワークスは赤字の状態で上場した、めずらしいケースです。

そして、上場から4年後の2018年にはクラウドワークスの総契約額が100億円を突破し、黒字化を果たしました。当時、Tech系の赤字上場としては初めてであり、基本的にはリスクが高いため断られることが多いですが、他社がやらないことに積極的に挑戦する「初モノに強い」大和証券が主幹事であったからこそ赤字上場を実現することができた事例だと考えられます。

まとめ

いかがだったでしょうか。

本記事では、IPOに向けた主幹事証券の選び方について解説をしました。

投資家視点でどの証券会社で口座を開いて、どのような銘柄を買うべきかという情報は数多くあるものの経営者・役員の立場からどの主幹事証券を選ぶべきかという情報は多くはありません。

主幹事証券を選ぶということは、IPOに向けて数年間の時間をかけて伴走するパートナーを選ぶことです。後から主幹事証券を変更することも可能ですが、大きなエネルギーを使うことになります

最終的に主幹事証券を決めるには、担当者の方の人柄や事業に対する理解など企業情報だけではわからない要素もあります。しかし、最初に主幹事となる証券会社を選ばないことには担当者の方と顔を合わせることはありません。

この記事が現在スタートアップ・ベンチャー企業を経営していて上場を目指されている方にとって参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。