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ストックアプリシエーションライト(SAR)のメリット・デメリットについて解説!

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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優秀な人材の確保や企業価値の向上を踏まえた社員のモチベーションアップのために、役員・従業員に付与されるストックオプションもニュースなどで見かける機会も増えてきたように思われます。

そのストックオプションの中には、権利を付与した時点での株価と権利行使時の株価の差額を、現金または株式で支給するSAR(ストックアプリシエーションライト)という制度があります。

本記事では、

SAR(ストックアプリシエーションライト)とは何か
SAR(ストックアプリシエーションライト)によるメリット・デメリット
SAR(ストックアプリシエーションライト)に関する大きな事件

について解説いたします。

ストックアプリシエーションライトのことをよく知らない方も、記事を読み終えた後には、本制度の基礎をご理解頂けます。

まずは、ストックオプションの概要について理解を深めたい方は、以下の記事で詳しく解説しておりますので、こちらをご覧ください。
【経営者必読】ストックオプション制度を徹底解説!仕組み・種類・メリット/デメリットを完全体系化!
【有償ストックオプションとは?】メリット・デメリットや発行価額と行使価額の違いを簡単に解説!
【無償ストックオプションとは?】税制適格の要件やデメリットを解説!
【経営者向け】話題の「信託型ストックオプション」を徹底解説

SAR ストックアプリシエーションライトとは?

ストックアプリシエーションライトについて

ストックアプリシエーションライトとは、あらかじめ株価を設定し、役員が権利を行使した際に、その時の株価と設定された株価との差額を株式または現金で受け取れる権利になります。

株価連動型報酬の一種であり、一定の期間内に自社の株価が事前に設定した株価を上回った場合、その差額分を受け取ることができます。株価が下がった場合は報酬を受け取ることができなくなるだけで、減額をされることがないという特徴もあります。

ストックオプションとの違い

ストックオプションは、あらかじめ設定された金額で”株式を購入”できる権利になります。株価が上昇した後でも元々設定されていた株価で株式を購入でき、購入した株式を売却することで、その分の利益を得ることができます。

 一方、ストックアプリシエーションライトは、権利を行使した時の設定株価との差額が報酬となるため、利益を得るために株式を購入する必要がないという点でストックオプションとは異なります。現金での報酬の場合は、株式の売却も必要ありません。

ストックオプションの行使については、次の記事もご参照ください。
ストックオプションの行使タイミングはいつ?行使期間や手続き方法まで詳しく解説!

ファントムストックとの違い

ファントムストックとは、実際の株式や購入権利を付与するのではなく、仮想的な株式を付与するものになります。書面上では企業は自社株を付与したものとなっています。

したがって、ファントムストックを付与された人は、普通の株式と同様に、株価上昇後に売却することで現金報酬を得ることができ、また、株主配当なども得ることができます。

ストックアプリシエーションライトは、権利が与えられた時と権利を行使した際の差額を現金報酬として得られるという点ではファントムストックと同じです。しかし、仮想的な株式を付与するものではないため、株主配当などは得ることはできないという点でファントムストックとは異なります。

ファントムストックとストックアプリシエーションライトの違いをまとめると以下のようになります。

ストックアプリシエーションライト

ファントムストック

報酬

株価が値上がりした差分の利益

株価と同額の売却益

株主配当

無し

有り

支給手段

現金(または株式)

現金

ファントムストックについて詳しく知りたい方は以下の記事で詳しく解説しておりますので、こちらをご覧ください。
【経営者必読】ファントムストック(ファントムオプション)とは?仕組み・メリット/デメリット・注意点を解説!

ストックアプリシエーションライトのメリット

ストックアプリシエーションライトのメリットとして次のようなものがあります。

個人に合わせて柔軟に計画できる
株式の希薄化が起こらない
株価が低下しても損失がない
付与対象者に強いインセンティブが働く

以下、それぞれについて説明していきます。

個人に合わせて柔軟に計画できる

様々な個人に合わせて様々な方法で SAR を計画できます。例えば、権利確定規則やSARの支払い方法(現金または株式)などを柔軟に設定することが可能です。

株式の希薄化が起こりにくい

ストックオプションと比べて、ストックアプリシエーションライトの付与において、企業は株式を新たに発行せず現金で付与する場合、一株あたりの価値が低下することがありません。その場合、既存の株主が不利益を被ることがありません。 

株価が低下しても損失がない

ストックアプリシエーションライトは株価上昇分を報酬として受け取れるものであると紹介しました。 権利付与者は株価が低下した場合には報酬を得ることはできませんが、その代わり、資産が減ることはなく、損失が発生することはありません。 

付与対象者に強いインセンティブが働く

株価と連動した報酬体系であり、株価の上昇分の差額を報酬として得られるため、従業員には企業の業績向上のための強いインセンティブが働くことになります。優秀な人材のモチベーションを高めることへの寄与も期待できます。

インセンティブプランについては、次の記事もご参照ください。
インセンティブプランとは?種類とメリット・導入時の注意点を解説
M&A先で有効な業績連動型報酬とは?子会社向け株式インセンティブプラン4類型を分かりやすく解説!

ストックアプリシエーションライトのデメリット

ストックアプリシエーションライトのデメリットとして次のようなものがあります。

企業の財務負担が大きくなりやすい
会計・税務上の取り扱いが複雑である

以下、それぞれについて説明していきます。

企業の財務負担が大きくなりやすい

一般的に、株価の変動の差分を現金で支給することが多く、その場合企業は報酬を支払うために多額の現金を用意する必要があります

株価は市場環境や企業の取り組みによって、 日々変動するため、正確に株価の変動を予測するのは難しい点もあります。 したがって、ストックアプリシエーションライトの付与のために事前にどれくらいの現金での負担があるのかということの見積もりを立てるのが難しく、余裕を持った見積もりを立てる必要があります。

会計・税務上の取り扱いが複雑

日本ではストックアプリシエーションライトを導入している企業数が少なく、会計、税務上の取り扱いが確立していないというデメリットもあります。実務面では全然普及していないので、ストックアプリシエーションライトの会計処理に関する議論が進んでいないという現状もあります。

日本国内でもグローバル展開をしている企業の場合には、ストックアプリシエーションライトを発行しているケースもありますが、このスキームを利用した経済犯罪が起きた事例も存在しているという点も見逃せません。

ストックアプリシエーションライトが関わる事件

2018年に日産自動車の代表取締役会長であったカルロス・ゴーン氏が金融商品取引法違反で逮捕された事件を覚えている方も多いと思います。 実はこのときに不正に使われたのがストックアプリシエーションライトになります。 

ゴーン氏は2011年度以降に約40億円分の現金報酬を受けていましたが、 有価証券報告書に記載をしていなかったということです。 

ストックアプリシエーションライトに関わる箇所の概要を以下にまとめました。

カルロスゴーン元会長及びグレッグケリー元代表取締役は、2009年から2017年まで合計90億7800万円につき、これを取締役退任後に受領することとして取締役報酬でないかのように装うことで隠蔽し、有価証券報告書における取締役報酬として開示する義務に違反した。また、株価連動型インセンティブ受領権(SAR)の行使可能数が確定し、権利の公正価額合計約22億7100万円を取締役報酬として開示すべきだったにもかかわらず、あたかも確定しなかったかのように書類を操作して、隠蔽し、開示義務に違反した。

日産HPより引用)

日本での導入事例が少ないために、 このような不正の温床になるのではないかという懸念点もあり、 日本でのストックアプリシエーションライトの導入が進んでいない現状があります。 

まとめ

ストックアプリシエーションライトは、 株式や株式購入の権利を付与するのではなく、 あらかじめ設定された金額と株価の差額を現金または株式で受け取ることができるというものでした。 

現金で付与することが一般的で、その場合は株価への影響を与えることなく従業員へ報酬を与えることができる制度です。

しかし、 日本では導入企業が少ないため、株価の上昇による差額が大きくならないとメリットが小さいことなどを従業員に十分理解をしていただきながら導入を進める必要があるでしょう。 

今回は、ストックアプリシエーションライトという制度のメリット、デメリットについて解説をしました。 

SOICOでは、ストックオプションや株式報酬制度といったインセンティブ制度の設計・導入に関するコンサルティングを提供しております。株式報酬制度の種類や設計方法についてもっと詳しく知りたいという方や、導入を検討しているという方は、下記のフォームよりお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。