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ノーレイティングとは?メリット・デメリット・評価制度を成功させるポイントを解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

成長ベンチャー企業が直面する
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会社組織の人数が大きくなり、上司・部下の間での評価や人材育成のための評価のような制度を構築し、運用することは成長を続けるスタートアップ企業・ベンチャー企業にとって急務となる課題です。

従来の評価制度では、毎年度末に1年間の働きを評価し、その結果に応じてランクが与えられ、給与や賞与、役職などが決まっていました。

しかし、テクノロジーの進化やビジネス環境の変化などによって1年の間で会社の外部環境は大きく変わることから、従来の評価制度では納得感を持った対応が不十分であるという話もあります。

このような変化の中で、従業員の年間の業務内容や仕事の成果で評価をする伝統的な評価制度ではなくノーレイティングと呼ばれる海外の企業の評価制度が注目され、日本国内でも実際に取り入れている企業も増えています。

本記事では、ノーレイティングの概要やメリット・デメリット、成功させるためのをポイントを中心に解説していきます。

ノーレイティングとは何か?

ノーレイティングとは、人事評価においてランク付けを行わず、リアルタイムでスピード感を持ちながら目標設定と仕事の成果へのフィードバックを行う中で評価をする制度です。

上司と部下の1on1のミーティングの中で、目標設定とフィードバック評価を一定の頻度で行うため、年次評価よりもビジネス環境の変化を前提にした評価などが可能となり、評価される人材自体の成長にもつながりやすいという特徴があります。

年次評価について

年次評価とは、レイティングとも呼ばれます。レイティングとは、従業員の業績を評価してランク付けする制度のことです。日本では、約20年前に導入され、現在でも多くの企業で一般的な評価方法として使われています。レイティングは、通常年度末に行われ、評価ランクと給与・賞与が連動することが一般的です。

この制度が日本に取り入れられる以前に、アメリカの企業は成果主義の評価体制を採用していました。日本でも、このアメリカ式の制度を参考にして、レイティングが導入されたという背景があります。

ノーレイティングにおける誤解

ノーレイティングは、評価される者に対して個別の評価を行い、評価の結果を賃金や役職などに反映させる人事評価制度の1つです。そのため、レイティングと比較して細かな評価が可能であり、タスクや役割を担う個々の従業員に合わせたフィードバックを可能にします。

このフィードバックにより、従業員は自己評価を正確に把握することができ、成長も促進されやすくなります。ノーレイティングを採用している企業では、基本的に年次評価も行わないため、従業員は自分自身の成長に焦点を当て、長期的にキャリア形成を考えることができます。

そのため、企業はより優秀な人材を獲得し、人材の流入・定着に繋がりやすくなります。以上のように、ノーレイティングは、レイティングの問題点を解決しながら、企業にとっても従業員にとってもメリットがある人事評価制度と言えるでしょう。

ノーレイティングでの給料の決め方

これまでの人事制度では、上司が部下のランクを決め、そのランクに準じて給与が決められていました。最近、注目されているノーレイティング制度制度では、従来のようなランクが存在せず、上司の裁量により給与が決められます。

ノーレイティング制度は、通常の評価制度よりも、細かな要素を考慮することができるため、給与の設定に対する納得感が高いことが特徴です。それゆえに、上司の主観による評価で給与・賞与が決まることを好ましく思っていない企業などがノーレイティングの導入を検討しています。

ノーレイティングのメリット

ノーレイティングには、従来のレイティングと比較して、4つの利点があります。
・環境の変化への対応
・目標設定や評価に対する納得感
・従業員のモチベーションアップ
・多様な働き方への対応

ノーレイティングを導入することで従業員のモチベーションが向上したり、環境の変化に対応しやすいといったメリットがあります。以下、ノーレイティングのメリットについて解説していきます。

環境の変化への対応

経営環境のスピードは目まぐるしい速さで変化しており、これまで通用していたレイティング評価では、現在の変化に追いついていない企業もあるでしょう。しかし、現在主流となりつつあるノーレイティングでは、上司と部下の1on1の対話を通じ、リアルタイムで部下の評価を行うことが可能です。

変化への対応力が求められる現代のビジネス環境において、ノーレイティングはリーダーたちにとって、新しい時代に適応するための関門となります。また、部下との良好な関係の築き方が重要視される近年、ノーレイティングは上司と部下が顔を合わせ、コミュニケーションを活発に行う機会を提供することにより、部下の意欲向上や業績アップにも繋がると考えられます。

その結果、過去に評価されていなかった従業員も注目されるようになることで社内全体的に従業員の士気が向上するなど、企業に多くのメリットを与える可能性もあるでしょう。

目標設定や評価に対する納得感

従来のレイティング評価では、組織内の全ての従業員が半期または年度単位で個人目標を設定し、評価の対象としていました。しかしながら、この方法では従業員自身が目標を考える際に部署目標に頼ってしまい、従業員個人としての目標が不明瞭だったり、また、期末や年度末に評価が実施されるため、評価が自分の行動ではなく何カ月も前の行動に基づいて行われるため、不満を感じる従業員も少なくありません。

一方で、ノーレイティング評価が導入され、従業員が目標設定と評価を上司と相談しながらリアルタイムに行うことができるようになりました。それにより、従業員は今の自分自身に合った目標を上司と合意形成でき、今の行動や頑張りに基づいた評価を受けることができます

以上のように、ノーレイティングによる目標設定と評価は、従業員の目標設定や評価に高い納得感を持たせることができ、また、評価が公正かつ透明性が高いとされます。

従業員のモチベーションアップ

従業員の成長には、高いモチベーションを持って仕事に取り組むことが不可欠です。しかし、従来のレイティングや評価では、その逆の効果をもたらし、従業員のモチベーションを低下させる可能性を孕んでいました。

このような状況を踏まえ、ノーレイティング制度を導入することで、従業員の納得感が高まり、モチベーションを向上させることができます。ノーレイティング制度では、目標設定や評価がリアルタイムで行われるため、従業員に適度な緊張感が生まれ、やりがいや励みとなるでしょう。

このような取り組みによって、従業員は「自分自身の能力を高めたい」「会社にもっと貢献したい」と考えるようになり、責任感やモチベーションが高まります。しかし、この取り組みはただノーレイティングにするだけでなく、従業員と密にコミュニケーションを取ることが重要です。

従業員に適切な目標を設定し、彼らが成長できるようにサポートすることで、従業員のモチベーションが向上し、生産性の向上につながります。

多様な働き方への対応

近年、労働においても多様化が進み、裁量労働制や短時間勤務および在宅勤務などの選択肢が増えています。しかしながら、従来のレイティング評価では、ある一定の基準に基づく評価によって行われており、こうした多様な働き方に十分に対応することができないという課題もありました。

そのため、近年ではノーレイティングという方法が注目を浴びています。ノーレイティングでは、上司と部下の1対1で、その人自身の状況や現場の状況などに応じた目標設定と評価ができる方法なので、柔軟性が求められる多様な働き方に適しているとされています。

ノーレイティングのデメリット

ノーレイティングには多くの利点があるものの、以下のような問題点も存在します。
・上司の負担が増えてしまう
・高いレベルのマネジメント能力が必要になる
・現場の混乱を招く可能性がある
・会社によっては合わない可能性がある

ノーレイティングは従業員にとってはメリットが多いものの上司においては負担が増えてしまう可能性もあります。ここではノーレイティングのデメリットについて解説していきます。

上司の負担が増えてしまう

従来の評価制度では、上司が部下にフィードバックや評価を行うのは決まったタイミングだけだったため、上司の負担はそれほど大きくありませんでした。それに対して、ノーレイティングでは部下と頻繁に1on1で対話をする必要があり、上司の業務の負荷も増えてしまうケースもあります。

1on1での対話の質と量がノーレイティングを有効なものにし、人材育成の上でも非常に重要な役割を担っています。

周囲のサポートを得ながら、質の良い1on1での対話を定期的に行うことを上司に意識させ、会社と部下の成長につなげることが重要です。

高いレベルのマネジメント能力が必要になる

従来のレイティングにおいては、前もって決められた明確な評価項目と基準のもと、上司が部下を評価することは他の制度と比べて簡単に行えていました。しかし現在のノーレイティングでは、明確な評価項目や基準が設定されていないため、それらの判断が上司に委ねられることとなります。

このために上司には、高いマネジメント能力が求められます。上司自身がマネジメント能力に不足のある場合、部下に与えられる評価が公正でないと感じることもあるため、上司は自身のマネジメント能力をさらに高めることが必要です。

具体的には、上司に対して360度評価を実施することで、自身が不足している能力を把握し、マネジメントに対する意識改革や、コーチング研修を行うことで、マネジメント能力の向上が期待できます。

現場の混乱を招く可能性がある

従来のレイティングは、目標を一度決めたら変更しないことが基本であり、従業員にとって「何をして良いのか」、「何を目指すべきか」がはっきりしていました。しかし、ノーレイティングでは、毎回上司と部下が1on1で対話するたびに、状況や環境の変化に応じて目標が変わっていきます

そのため、場合によっては従業員が目標や課題を見失い、現場が混乱することがあります。ここで重要なことは、部署、チーム、グループなどが常に「どのような目標を達成しようとしているか」というミッションを掲げることです。

必要に応じて、面談の機会を調整したり、目標設定に大きな影響を与える状況の変化があった場合には、すぐに部署やチームの全員に伝えることが重要です。

会社によっては合わない可能性がある

ノーレイティングとは、これまでの人事評価とは異なる人事評価制度です。従来の人事評価は、部下の行動や成果を数値化し、評価基準と照らし合わせて結果を出すため、数値化された尺度を基盤としています。

しかし、ノーレイティングは、部下の成長を支援すべく、評価者である上司と部下が双方向で対話を行い、目標設定および業務に取り組む中での成長や課題解決力を見据えて評価を行います。しかし、ノーレイティング自体の導入が難しいという面もあります。

レイティング制度が歴史のある大企業や少人数で回っている会社などにおいては、ノーレイティング制度の導入に困難が伴うことがあるでしょう。具体的には、評価制度の在り方に対する抵抗、1on1での対話に時間を割くのが困難な場合、また業務の特性上、芳しくない成果や姿勢を短期間に変えることが難しい場合などが挙げられます。

その為、まずは1つの部署にノーレイティングを試験的に導入し、その効果・反響を確かめた上で導入を検討することが大切です。

ノーレイティングを成功させるためには

ここまで見てきたように、ノーレイティングとは、従来のランク付けによる人事評価ではなくフィードバックを中心にした新たな人事評価制度です。

ノーレイティングが企業の中で機能的に運用されるためには、管理職の高度なマネジメント能力や自律性が必要とされます。また、ノーレイティングのメリット・デメリットを十分に考慮し、組織の規模や文化に合った決定を下すことが求められます。

まとめ

従業員のランク付けを行わずに、上司と部下の対話とフィードバックを重要視する新しい手法「ノーレイティング」を導入することで、仕事に関わる環境の変化に柔軟に対応できる従業員が増え、納得感やモチベーションの向上が期待されます。

しかしながら、この新たな制度はこれまでの従業員評価とは異なる点が多く、課題もあります。したがって、導入にあたっては適切な体制を整え、時間をかけて計画的に進めることが非常に重要です。

本記事が、ベンチャー・スタートアップ企業の経営者・人事担当者の方のご参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

       
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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。