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IPOに向けた労務監査とは?労務管理のポイントについて解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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IPOを目指すには、バックオフィス体制を整えることも重要になってきます。その中の1つに労務管理があります。労務監査を受けることは必須ではありませんが、上場審査の要件に関わってくるので労務管理について経営者・役員・管理職・従業員のそれぞれが意識をする必要があります

そこで本記事では、IPOにおいて労務監査が必要な理由と、労務監査のポイントについて解説を行っていきます。

上場審査については、こちらの記事もご参照ください。
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労務監査とは?

労務監査は、企業が労働関係法を中心とした法令が社内で守られているかを調査することです。

労務監査で行うことは具体的には、ヒアリングやアンケートを行うことにより、労務帳票・規定類等書面が整備されているか、就業規則等で決められたルールで運用されているかを調査し、監査結果を評価します。

就業規則については、こちらの記事もご参照ください。
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労務監査の流れ

労務監査は以下のような流れで実施されます。

①実施準備

・労務監査の範囲および期間
・監査項目の策定
・監査対象となる書類の確認
・事前打ち合わせ

②労務監査

・ヒアリングおよびアンケート
・労務監査の実施
・労務監査報告書の作成

③労務監査報告

・監査報告書の提出(監査報告会の実施)
・改善策の検討(提案)

専門家による労務監査が必要な理由

IPOにあたっては労務監査は必須ではありません。しかし、主幹事証券会社から社労士等の専門家による労務監査を受けるように言われることがあります。

第三者による客観的な監査を受けて、自社の現状を正確に把握し、組織が抱える労務上の課題を明らかにすることで将来起こりうるリスクを回避することができます。このリスクがIPO時に足枷になってしまう可能性もあるので、上場審査の前に解消しておくことが望ましいと言えます。

主幹事証券会社については、次の記事もご参照ください。
主幹事証券会社とは?役割・選び方・変更について解説
IPOにおける主幹事証券会社の選び方|主幹事選択の事例と証券会社について解説
IPOにおける主幹事証券会社の役割|引受審査や選び方についても解説

上場審査における実質審査基準の重視傾向

上場審査には、形式要件と実質審査基準の二つがあります。
上場審査とは?審査基準・審査の流れ・審査通過のポイントを徹底解説!

以前までの上場審査では、株主数や時価総額や利益の額などの形式要件を重視する傾向にありました。しかし、近年では上場を目指す企業が形式要件を満たして上場申請しても審査に通らないというケースが増えてきています。

その理由は、近年の上場審査では、実質審査基準が重視されている傾向にあるからであり、時価総額や利益基準といった形式要件を満たしていても、企業の継続性や健全性、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性などの実質審査基準を満たしていなければ上場することはできません。

さらに、最近の上場審査はコンプライアンスを重視する傾向にあります。コンプライアンスの中でも労働基準法の遵守しているかという部分が厳しく審査されます。

労働基準法が守られていない企業や適切な労務管理が行われていない企業は、仮に労務訴訟や未払い残業代などの問題が表に現れていなくても、今後そのような問題が発生するリスクがあるために、将来的に財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。

上場審査では、企業の継続性や健全性を重要視するため、このような法令違反が起きない体制が構築できているかを重視する傾向があります。そのため、適切な労務管理体制が確立されているかということは上場審査において重要な要素になります。

コーポレートガバナンス・内部管理体制については、こちらの記事もご参照ください。
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客観的評価の必要性

労務監査を行う際には客観的な評価をしてもらうことが重要です。また、労務リスクは多岐に渡るため、IPO準備企業が自社のリソースだけでそれらを把握し改善することは非常に困難なものになります。そのため、社労士などの外部の専門家による労務監査を行うことが大切になります

労務監査を実施するタイミング

IPO準備企業が労務監査を受けるべきタイミングは「直前々々期(N-3期)」と「直前期(N-1期)」の2回になります。

直前々期(N-3期)には監査法人によるショートレビューを受ける必要があります。近年、監査法人においても深刻な人手不足の問題や働き方改革の推進が行われてきていることから、経営課題の少ないIPO準備企業の方が監査法人からは好まれます

そのため、監査法人によるショートレビュー前に労務監査を実施することによって、労務コンプライアンスを遵守している企業であることが明確になるため、監査法人を選ぶときに有利になります。

さらに、労務監査は直前期でも実施することが推奨されます。毎年のように労働諸法令は改正が行われます。そのため、直前々々期(N-3期)に労務監査を行ったときには発生していなかった問題がこのタイミングで見つかるかもしれません。したがって、直前期(N-1期)のタイミングでも労務監査を実施し、最新の法改正内容に適応できているかを確認することが推奨されます。

【経営者・役員向け】IPOの準備スケジュール|直前前々期から申請期まで解説
【経営者・役員向け】上場スケジュール:直前期|直前期(N-1期)の過程について解説
【経営者・役員向け】上場スケジュール:申請期|申請期の過程について解説

上場審査に向けた労務管理のポイント

就業規則・規定の整備

就業規則・規定が形だけのものになっていないかということがポイントの1つになります。ベンチャー企業の中には、上場審査に向けて整備した就業規則や規程と勤務実態が乖離している場合が多くあります。勤務実態と乖離した就業規則では内部管理体制が整備されていないと判定され、上場審査に通過することが難しくなります。そのため、勤務実態に即した就業規則・規定を整備する必要があります

労働契約の締結

労働契約の締結は就業規則・規定と同じく重要なポイントになります。労働契約は雇用契約書を締結して初めて契約が成立すると考えられていますが、口頭による労働条件でも労働者と使用者の双方が契約内容に同意していれば、雇用契約を結ぶことができます。しかし、口頭による契約では双方の認識の相違によるトラブルが発生してしまうリスクがあるため、労働条件を明記した雇用契約書を作成し、雇用契約書による契約の締結を行うようにしましょう

社会保険への適切な加入

上場審査における労務監査においては、社会保険へ適切に加入しているかということも重要なポイントになります。正社員ではないパートタイマーやアルバイトなどの時短勤務労働者の場合も、一定の条件を満たしている者に対しては社会保険に加入させる義務があります。しかし、企業側の認識不足やちょっとしたミスにより、社会保険に加入させるべき従業員を加入させていないケースも少なくありません。当然、社会保険未加入の労働者がいることは法令違反となることから、コンプライアンスが守られていないと判断され、上場審査を通過することはできなくなります。

労働時間の適切な管理

労働基準監督署は過重労働対策を重点的に実施しているため、どんなに上場準備で忙しくても時間外労働は1ヶ月あたり80時間に抑えるようにしてください。過重労働防止のための取り組みはIPO審査でもよく聞かれる事項です。

特に労働時間の把握では、客観的かつ適正な記録が重視されており、労務監査では「タイムカードの記録が実態と合致しているのか」という点を重要視しています。

36協定の締結

上場準備企業は過重労働に対する対策を見直さなければなりません。過重労働対策の前提として、労使間での残業時間の取り決めをする時間外・休日労働協定(36協定)があります。この36協定を締結・届出をすることが必要になります。しかし、中小企業では36協定届自体を提出していないことも多く、36協定の是正勧告を受ける企業が多くあります。

しかし、是正勧告を受けたからといってIPOの準備スケジュールに直ちに影響が出るということはありません。是正勧告を受けたら、速やかに労働環境を改善し、労働環境が改善されたという是正報告を提出するようにしましょう

未払い残業代の有無

上場における労務監査において、未払い残業代について指摘される場合が数多くあります。未払い残業代があることで、労務管理が不十分であると判断されるため、未払い残業代の問題を解決しないと上場審査を通過するのは難しくなります

未払い残業代を防ぐためには、従業員の労働時間を適切に管理することが大切です。そもそも労働時間が管理されていない場合や就業規則や給与規程と給与計算方法に乖離が見られる場合には、ただちに適切な労務管理を行うための仕組みを構築する必要があります

管理監督者の扱い

IPO審査において、社内の安全衛生管理体制の整備・運用状況も審査項目となっています。したがって、企業の組織力を高め、安全衛生管理体制を構築することも重要です。

労働安全衛生法を根拠として、「常時50人以上」の従業員を使用する事業所では、健康管理体制に関して次の項目に取り組まなければなりません。
・衛生管理者や産業医の選任義務
・月1回の衛生委員会の開催義務
・ストレスチェックの実施

近年は、過重労働を原因とした従業員のメンタルヘルスの不調などが目立ちますが、これが業務上の災害として認定されることで、企業は安全配慮義務違反に問われるケースもあります。

IPO審査を通過するために、企業は従業員に対して十分な安全衛生管理対策をとっていく必要があります。

有給休暇の取得状況

労働基準法が改正されたことで2019年4月以降、使用者は年に10日以上の有給休暇が付与されている従業員に対して必ず5日以上の有給休暇の取得が義務化されました。これに伴い、従業員の有給休暇の取得状況もIPO審査に関わってくると思われます。

IPO審査における労務監査では、コンプライアンスを遵守した労務管理体制の運用状況などについて確認されます。労働基準法に反する状態が続くと、行政指導や刑事・民事訴訟などのリスクがあり、そうなってしまうとIPO審査において不利になります。

したがって、IPO審査を視野に入れながら労務に関するコンプライアンスの強化をしていく必要もあるでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか。

本記事では、IPOにおいて労務監査が必要な理由と、労務監査のポイントについて解説を行いました。

本記事が上場を目指しているスタートアップ・ベンチャー企業の経営者の方の参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。