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人事評価制度がない会社|解決策としてのノーレイティングの導入と導入事例を解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

成長ベンチャー企業が直面する
よくある「人事問題」事例集

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評価制度は従業員の報酬や昇進を決めるために必要不可欠なものと一般的には考えられています。

しかし、企業の中には評価制度を廃止している会社も少なからず存在します。評価制度を廃止することによって、従業員の不満が解消し、企業の業務が円滑化するなどのメリットは確かにあります。

評価制度を廃止することにはデメリットも非常に多いので、評価制度の廃止はメリットとデメリットをよく理解して慎重に進めることが非常に重要です。

評価制度を廃止する理由やメリットとデメリットを人事評価制度をなくした企業の事例とともに詳しく解説していきます。

評価制度を廃止する理由

評価制度がないということは、上司や企業が従業員の評価を行わないということです。

つまり、仕事の成果や態度について上司や企業が優劣をつけることはせず、従業員は一定の人事制度のもとで決められた報酬を安定的に受け取ることができます。

企業が評価制度を廃止している理由は主に次の3つです。

・評価に不平不満を持つ従業員の人材流出を防ぐため
・従業員の数が少ないため
・会社の状況変化が激しいため

人材流出の防止や企業環境の変化に対応するため「あえて」評価制度を廃止している企業が多いのが実状です。また、会社の規模的に評価制度を行うことが適していない企業も存在します。

企業が評価制度を廃止する3つの理由について詳しく解説していきます。

評価に不平不満を持つ従業員の人材流出を防ぐため

評価制度を廃止する理由の1つが、評価によって従業員が不満を持ち、離職してしまうリスクを避けるためです。

全ての従業員が納得できる「公平な評価」を構築することは現実的には難しいのが実情です。そのため、評価制度そのものが従業員が不満を持つ要素を抱えていると言えます。

また、会社から評価されるということは従業員にとって、「報酬が下がるかもしれない」「降格させられるかもしれない」などの心理的な圧迫に繋がります。

さらに、評価制度は従業員同士の競争にも繋がります。業種によっては、このような競争が生産性向上などの良い方向に向くこともありますが、輪を大切にする会社などでは、このような競争環境が生じることは従業員にとってストレスにもなりかねません。

企業が上司や部下を評価するという行為が、従業員の個性や企業風土に合っていない企業では、あえて評価制度を無くすことによって人材流出を防ぐ目的があります

従業員の数が少ないため

雇用している従業員の数が少ない、小規模事業者の場合には、経営者や上司が部下を評価するようなことはしないこともよくあります。

数少ない従業員に対して評価を行っても、昇進などのルートはありませんし、少ない従業員に多額の報酬の差を設けることは現実的ではありません。

また、家族経営のような企業に勤務する従業員は、従業員も家族同様に扱われることも多く、そのような企業では「部下の至らない部分も理解して雇用する」ということがよくあります。

従業員の数が少ない企業においては、従業員を評価して競争させるということ自体が現実的とは言えないので評価制度を設けていないことも珍しくありません。

会社の状況変化が激しいため

近年、会社を取り巻く環境変化が激しくなっているということも企業が評価制度を無くす理由の1つです。

終身雇用・年功序列制度の廃止、人材不足など、これまで日本企業の前提となってきた評価制度を維持することが難しくなっています。

また、単に成果だけを評価していたら、従業員が不満を持ち、人材流出の原因にもなります。

さらに評価を行う上司も、評価のための業務量も膨大で、評価制度そのものが会社の生産性を引き下げてしまっている会社も少なくありません。

このように、社会の環境変化によって、これまでのような評価制度を持続することが困難になっており、この解決方法として「評価制度そのものを廃止する」という企業も増えています。

人事評価制度を廃止することで発生する可能性がある問題点

評価制度を廃止することによって、確かに従業員の不満の原因を取り除くことができ、会社の業務効率化にもつながる可能性があります。

その一方で、評価制度を廃止することには次のような多くのデメリットがあるのも事実です。

・従業員のモチベーション低下
・社内でイノベーションが起きにくい
・管理職の負担の増加
・人間関係の悪化
・優秀な人材の流出
・人材の配置や管理が難しい

人事評価制度を廃止することの6つのデメリットについて詳しく解説していきます。

従業員のモチベーション低下

評価制度を廃止したことによる最も大きなデメリットは、従業員のモチベーションが低下するということです。評価制度を廃止するということは、従業員にとって「頑張っても評価されない」ということです。

そのため、従業員は無理せず自分の力やキャパシティの範囲内でしか仕事をしないようになる可能性があります。

評価制度がないことによって、低いモチベーションの従業員がダラダラと働くような職場環境となってしまうリスクがあります。

社内でイノベーションが起きにくい

評価制度がないことによって企業で、革新的なアイデアの発見や新商品開発などのイノベーションが起きにくくなるという点にも注意しなければなりません。

「頑張っても評価されない」と従業員が感じる職場環境においては、従業員は最低限の仕事をするだけの可能性が非常に高いため、イノベーションや新しいアイデアなどのプラスアルファの仕事を期待することは難しいでしょう。

新しい商品やサービスなどを提供できないため、市場環境の変化に対応できず、企業の競争力が大きく低下してしまうリスクがあります。

管理職の負担の増加

評価制度がないことによって、むしろ管理職の負担が増加してしまう可能性があります。

評価制度があるからこそ、従業員は上司の言うことを聞く傾向にあります。多くの人が「自分を評価する人間の心象を悪くしたくない」と考えるためです。

しかし評価制度がないことによって、管理職の部下の統率を取るのが難しくなり、職場で統率を取るための負担が増加してしまう懸念があります。

管理職にとって評価制度は部下を統率するためのツールですので、評価制度を無くすということは管理職の中には負担が増えたと感じる人もいる可能性があります。

人間関係の悪化

評価制度がないことによって社内での人間関係が悪化する可能性があります。

従業員の能力は皆が均等ではないので、必ず社内には「仕事ができる従業員」と「仕事ができない従業員」が混在することになります。

評価制度があれば、「仕事ができる従業員を高評価」「仕事ができない従業員を低評価」とすることができ、評価に優劣が生まれるので仕事ができる従業員も不満を持つことはありません。

しかし、評価制度を無くすことによって、仕事をする従業員としない従業員の報酬が同じになる可能性があり、この場合は従業員間の人間関係が悪化するリスクがあります

優秀な人材の流出

評価制度がないということは「頑張っても評価されない」ということです。そのため、能力のある優秀な従業員の中には「自分の能力をもっと正当に評価してくれる会社で働きたい」という心理が働く人もいるでしょう。

優秀な従業員ほど、このような不満を抱く可能性があるので、評価制度がないと優秀な人材ほど流出してしまうリスクが高くなります

人材の配置や管理が難しい

評価制度がないと、従業員それぞれの能力や適性を客観的に判断することが難しくなります。通常、企業は評価制度の結果を基に適切な人材配置などを行いますが、評価制度がなければ従業員の適性や能力に合わせた人材配置をすることは困難です。

評価制度を無くす代わりに、企業が従業員の能力や適性を見極める制度を構築しなければ、適材適所の人員配置が難しくなるという点も把握しておきましょう。

人事評価制度を取り入れるメリット

人事評価制度を企業に取り入れることには多くのメリットがあるのも事実です。

・従業員のモチベーション向上
・優秀な人材の流出を防ぐ
・能力と業績に合わせた待遇や人材の配置が可能に

人事評価制度の3つのメリットについても詳しく解説していきます。

従業員のモチベーション向上

評価制度を取り入れることによって、能力ややる気のある従業員のモチベーションは向上します。

評価制度があるということは「頑張って成果を出せば、評価が上がり、昇進や昇給に繋がる」ということです。

従業員の「仕事の成果を評価してほしい」「頑張ったから給料を上げてほしい」という欲求に応えることができるので、やる気や能力のある従業員は、与えられた仕事以上に仕事に取り組む可能性が高いでしょう。

優秀な人材の流出を防ぐ

優秀な人材の流出を防ぐために、評価制度は非常に重要です。評価制度がなければ「自分の能力が正当に評価されていない」と感じる従業員は、正当に評価してくれる企業へ転職してしまう可能性が高いでしょう。

評価制度があれば、優秀な人材は高く評価されるので、従業員の「正当に評価されていない」という不満を解消できます

優秀な人材の流出を防ぐためにも、やる気のある従業員、能力のある従業員、成果を出した従業員を正当に評価できる評価制度は必要です。

能力と業績に合わせた待遇や人材の配置が可能に

評価制度を通じて、会社は従業員の能力や人となりを判断できるようになります。

すると会社は従業員を適材適所に配置できるようになるため、会社にとっては、生産性の向上が期待できます。

人事評価をしてみた結果、従業員が思わぬ能力を持っていたというケースは少なくありません。会社が適切な人材配置を行うためにも、人事評価にはメリットがあります。

人事評価制度を変更する際の注意点

人事評価制度を変更する場合には以下の3点に注意しながら慎重に進めなければなりません。

・企業風土と合っているか
・従業員が納得できる評価基準か
・等級制度・報酬制度と連動しているか

人事評価制度を変更する場合の3つの注意点について詳しく解説していきます。

企業風土と合っているか

導入する人事制度が企業風土と合っているかどうかも非常に重要です。

従業員の輪を重視する企業が、成果を重視する人事制度を導入した場合には、企業風土が乱れて、会社の力であるチームワークが発揮されない可能性もあります。

人事制度は会社の力に大きく影響するので、導入する人事制度が企業に合っているかどうかを確認してください。

従業員が納得できる評価基準か

人事評価は従業員が納得できるものであることも重要です。

従業員が納得できない限り、従業員は「公平に評価されている」「頑張ったら評価される」などの満足感を感じることができず、人事評価制度を導入した意味がありません。

1人でも多くの従業員が制度に納得して、「評価されたい」というモチベーションを高く持つことができるよう、従業員が納得できる評価基準を策定するとともに、従業員から理解を得られるよう努めましょう

等級制度・報酬制度と連動しているか

人事評価が等級制度と報酬制度と連動するものとしましょう。

等級制度と連動していれば「評価されれば出世できる」ことになりますし、報酬制度と連動していれば「評価されれば報酬が上がる」ことになります。

報酬や出世に繋がらないのであれば、評価制度としては意味が小さくなってしまうので、必ず昇進や報酬UPにつながるように、等級制度と報酬制度と連動した人事評価制度になるようにしてください。

等級制度・報酬制度については次の記事もご参照ください。
等級制度とは?3種類の等級制度と作成方法・導入事例について解説
報酬制度とは?役割・種類・制度設計の手順・導入時の注意点・事例について詳しく解説

評価制度の課題を解決するノーレイティング

「従業員を評価するようなことをしたくない」しかし「何も評価を行わないことによる生産性やモチベーションの低下が怖い」このような場合には、ノーレイティングという評価の導入を検討しましょう。

ノーレイティングとは、会社が従業員に対して数値や記号を使わないで評価する方法のことです。

具体的には上司と部下の1対1の面談などによって、頻繁に上司と部下が話し合い、上司からのアドバイスや部下からの相談などによって自然と評価を行う方法です。

人事評価制度をなくした企業の事例

実際に人事評価制度を無くした企業の事例をご紹介していきます。

・カルビー株式会社
・アドビシステムズ株式会社
・GE(ゼネラル・エレクトリック)

これらの企業は企業や上司が部下を一方的に評価するという評価制度を廃止して、成功している企業として知られています。

それぞれ、どんな人事制度へと変更したのか見ていきましょう。

カルビー株式会社

カルビーは数値的な評価をやめた日本企業としては珍しい会社です。年初めに1on1ミーティングを行い、そこで仕事内容や目標を記した契約書に従業員はサインをします。

目標設定は社員の意見が優先されるので、社員は自分で目標を決めることができます。年に数回上司と部下の面談を実施して、目標の達成度を確認し、フィードバックを行います

上司と部下の風通しがよくなることはもちろん、部下も自分の立てた目標に対する達成度で評価されるので、モチベーションと生産性向上に繋げることができました。

アドビシステムズ株式会社

2万人以上の従業員を抱えるアドビシステムズは上司が部下を評価する工数が多く、上司の大きな負担となっているという問題がありました。

そこで、ノーレイティングを採用し、アドビ独自のチェックインという方式を採用しました。

この方法では、3ヵ月に1度、上司と部下による面談を行い、目標に対する進捗状況の確認とフィードバックを行います

これまでの多数の項目を評価する方法と比較して上司の業務量は大幅に軽減し、さらに上司と部下のコミュニケーションの機会も増えたため、部下のモチベーション向上が実現でき、上司の負担軽減にもなりました。

GE(ゼネラル・エレクトリック)

アメリカの家電製造などを行う企業です。GEは2016年にノーレイティングを採用しています。

定期的に上司と部下の1対1のミーティングの機会を設けて社員の失敗や挫折に対してすぐに対応できる仕組みを作りました

これによってスピード感のある人材育成ができるようになりました。

報酬についても部門ごとに予算が割り振られているので、従業員間の話し合いによって決定する仕組みとなっています。

まとめ

評価制度を作らないことによって、従業員の不満を解消して人材流出を防ぐことができる効果があります。

しかし何も評価をしないと、能力のある従業員の離職に繋がりますし、結果的に企業の生産性も大きく低下してしまうリスクがあるのも事実です。

競争と変化が激しいこれから先の時代は、従業員を育成するための人事評価制度である必要があります。

人材育成を主眼に置くのであればノーレイティングなどの数値評価を行わないが、従業員の努力を評価でき、人材育成にもつながる制度を導入する方法も検討するとよいでしょう。

人事制度は自社の風土と合致して従業員から理解を得られるものであることがベストです。

自社にはどんな制度がよいのか、まずは慎重に検討するとよいでしょう。

       
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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。