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【経営者・CFO向け】上場廃止の基準とは?廃止のメリット・デメリットも解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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企業が上場した後に、外部環境の変化や組織力の低下によって上場を維持することが難しくなってしまい上場廃止するケースもあります。

上場廃止は虚偽記載や経営破綻などネガティブな理由であることが多い印象を受けますが、実際は子会社を親会社の傘下に入れる目的であったり、自社を敵対的買収から守る目的など経営戦略の一環として企業は上場を廃止します。

そこで、本記事では上場廃止の基準を中心に上場廃止のメリットとデメリットについて解説していきます。

上場廃止とは

上場廃止とは、取引所において自社株の売買取引ができなくなることをいいます。証券取引所の定める上場廃止基準への該当や上場会社による自主的な上場廃止申請によって上場廃止は行われます。

上場廃止が決定し、該当企業の株式が整理銘柄に指定された後、一定期間(原則1ヶ月)取引が行われ上場廃止となります。

上場廃止の基準は、証券取引所によって決められています。日本国内には、札幌・東京・名古屋・福岡の4箇所に証券取引所があります。それぞれの取引所において、上場廃止の基準が設定されています。この記事では、金額と取引量ともに多い東京証券取引所について紹介していきます。

上場廃止については、こちらの記事もご参照ください。
上場廃止とは?上場廃止の要因・上場廃止のメリット・デメリットを解説!

上場廃止後に株式はどのように取り扱われるか

上場廃止となった場合、取引所における取引が直ちに終了するわけではないことに注意が必要です。上場廃止後1ヶ月間は、該当の株式は整理銘柄と呼ばれ、引き続き取引所で取引されます

整理銘柄に指定されてから1ヶ月後に、取引が終了し、株式などの売買はできなくなります。ただし、株主の権利(議決権・配当請求権)は依然として残ります。この1ヶ月の猶予期間を終えた後でも、自ら売却先を見つけて株式を売ることはできます。

企業が債務超過に陥っている場合、株式の価値はほとんどなくなっているため、売却先を見つけることは非常に難しいことが予想されます。

上場廃止の6つの基準

上場廃止の基準として、証券取引所は上場廃止基準を定めています。東京証券取引所の場合、以下6つの基準が設けられています。

・上場維持基準への不適合
・有価証券報告書等の提出遅延
・虚偽記載又は不適正意見等
・特設注意市場銘柄等
・上場契約違反等
・その他

1.上場維持基準への不適合

証券取引所では株主数や時価総額、流通株式数などの上場維持基準が定められています。

東京証券取引所にはプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場があり、各市場ごとに上場維持基準が異なります。各市場の基準に関しては以下の表をご覧ください。

項目 プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
株主数 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式数 2万単位以上 2千単位以上 1千単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上
売買代金 平均0.2億円/日以上
売買高 平均10単位/月以上 平均10単位/月以上
時価総額 40億円以上
(上場10年経過後から適用)
純資産の額 正であること 正であること 正であること

上場維持基準を下回った場合、原則1年以内に基準を満たさないと上場廃止となります。また、基準を満たしていないことが発覚した場合、3ヶ月以内に改善へ向けた取り組みや実施計画の提出をしなければなりません

上場基準・グロース市場については、こちらの記事もご参照ください。
上場の条件とは?上場基準・上場までの流れ・上場のポイントを徹底解説!
グロース市場とは?市場区分の再編による変化を徹底解説!

2.有価証券報告書等の提出遅延

株式を発行する上場企業が、企業の概況、事業の状況、財務諸表等の情報を開示する書類を有価証券報告書といいます。有価証券報告書は投資家に企業の情報を開示することで、投資判断が適切に行えるようにするために作成されます。

有価証券報告書は、事業の年度が終了した後3ヶ月以内に提出することが義務付けられています。締切から1ヶ月経過しても提出が間に合わない場合は提出遅延となり、上場廃止の基準に該当してしまいます。そのため有価証券報告書の提出期限には十分注意する必要があります。

2022年に上場廃止となった企業のうち、有価証券報告書等の提出遅延により上場廃止となった企業はグレイステクノロジー株式会社になります。
参考:上場廃止銘柄一覧

グレイステクノロジーは上場後、不正会計や粉飾決算、元代表取締役によるパワハラ等が発覚したことで問題になりました。下記の記事で詳細を解説を行っています。
IPOの失敗を防ぐには?IPO失敗理由・失敗事例・失敗の回避方法を解説

3.虚偽記載又は不適正意見等

有価証券報告書等に虚偽記載が行われたり、監査報告書又は四半期レビュー報告書に不適正意見または意見の表明をしない旨等の記載が行われたりする場合に、東京証券取引所が上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかだと判断すると上場廃止になります

例えば、実際には商品を販売していないにもかかわらず売れたと偽り、架空の売上を計上し有価証券報告書に記載するといった場合などが本要件にあたります。

4.特設注意市場銘柄等

特設注意市場銘柄に指定され、内部管理体制が改善される見込みがないとみなされた場合にも、上場廃止の基準に該当します。

証券取引所は内部管理体制を改善する必要性が高いと判断した会社を、投資家に注意を促すために特設注意市場銘柄等に指定します。このとき、該当の会社が法令を遵守して事業を行っているか、売上や利益に虚偽がないかという点が重視されます。

5.上場契約違反等

・上場会社が上場契約に関する重大な違反を行った場合
・新規上場申請等に関する宣誓事項についての重大な違反を行った場合
・上場契約の当事者でなくなることになった場合
・上場会社が新規上場の申請時に宣誓した事項について違反を行い、新規上場における基準に適合していなかったと東京証券取引所が認めた場合
新規上場審査に準じた上場適格性の審査に1年以内に適合しないとき上場廃止になります。

6.その他

これまでに述べてきたもの以外にも、以下のような場合に該当してしまうと、上場廃止となります。

・銀行取引の停止
・破産手続・再生手続・更生手続
・事業活動の停止
・不適当な合弁等
・株式の譲渡制限
・完全子会社化
・株主の権利の不当な制限
・株式等売渡請求による取得
・株式併合
・反社会的勢力の関与

上場廃止のほとんどの事例は、このケースに該当する場合となっています。2022年の現時点で上場廃止が決定している企業は67社ありますが、先ほど紹介したグレイステクノロジー以外の66社はこの要件に該当するとして上場廃止になっています。

該当ケースの内訳は以下の通りです。

完全子会社化 24社
株式等売渡請求による取得 22社
株式併合 19社
破産手続 1社

参考:上場廃止銘柄一覧

ここで、会社法第179条によると、株式売渡請求とは、会社の議決権の90%以上を保有する株主(特定支配株主)が、少数株主の保有する株式を全て強制的に取得する手続きのことをいいます。株式売渡請求が行われると特定支配株主にすべての株式が取得されることになります。そのため上場基準に定められる株主数や流通株式の確保が困難となります。

株式売渡請求や株式併合、完全子会社化はM&Aの一種であり、経営権の集中等を目的として行われます。経営悪化により債務超過した結果として上場廃止に至ったケースは2022年も現時点で1社のみになります。このことから、上場廃止はその言葉からイメージされるような経営悪化などの理由で行われる場合は少ないということには注意が必要になります。

上場廃止の主な原因

上場廃止になる要因としては、主に以下2つがあげられます。

・上場廃止基準に該当
・自主的な上場廃止

一見するとネガティブなイメージを持たれがちな上場廃止ですが、外部環境から自社を守る目的で企業の経営戦略の一環として自主的に上場廃止する場合もあります。

上場廃止の基準に該当

前述した基準に当たる場合に上場は廃止されます。上場維持基準への不適合や虚偽記載、経営破綻などが多い印象がありますが実際はそのような事例は少ないです。とりわけ、親会社の傘下に入れる子会社化や株式の併合が主な上場廃止の理由になります。

主な上場廃止の理由である以下2つについて、説明していきます。
・親会社の完全子会社化
・株式の併合

親会社の完全子会社化

親会社の子会社になる背景として、社会が求めるコーポレートガバナンスの水準が高まったことや東京証券取引所が市場区分を見直したことがきっかけで、企業グループの現状の見直しを行うケースがあります。この結果として、上場子会社を親会社の完全子会社化する企業が増加しています。

有名な例として次のようなものがあります。2020年12月、子会社であるNTTドコモが親会社のNTTによるTOB(Take-Over Bid:テイクオーバー・ビッド)されたことによって上場廃止になりました。NTTドコモを完全子会社化することで、この利益を配当として外部に流出させずにNTTグループにて海外展開を筆頭にした事業戦略を進めていきました。過去最大級のTOB案件として、NTTは株式の買い集めるのに4兆3000億円もの資金を投じました。

コーポレートガバナンスについては、こちらの記事もご参照ください。
コーポレートガバナンス(企業統治)とは?目的・強化方法・歴史的背景について解説!
コーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則|特徴・制定の背景・適用範囲と拘束力について解説
【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例

株式の併合

株式の併合は、経営を立て直すために財政状況の悪化や企業の経営方針の転換時に行われます。その目的として、少数の株主を締め出す、株価の持ち直し、株式監理コストを下げることが挙げられます。

2021年2月によみうりランドは、臨時株主総会を開き、よみうりランド株を併合する議案を承認しました。この株式併合は、親会社である読売新聞グループの完全子会社化に向けた施策として進められ、翌月によみうりランドは上場廃止となりました。

自主的に上場廃止を申請

経営戦略として自主的に上場廃止という手段を選択する企業もあります。

例えば、MBO(Management Buyout:マネジメント・バイアウト)によって、敵対的買収の防衛のために、経営陣が株主から自社株を買い上げて、自社の経営権を強化する目的で上場廃止を行うことがあります。

上場廃止の流れ

上場廃止基準に抵触する可能性のある企業が出た場合、まず、監理銘柄(※)に指定され一般銘柄から切り離しが行われます。監理銘柄に指定されると、上場廃止基準に抵触しているかどうか調査を受け、上場廃止基準に抵触しているかどうか判断が下されます。抵触していなかった場合は通常の取引に戻されますが、抵触していると判断をされた場合、整理銘柄に指定されます。整理銘柄に指定されると原則1ヶ月の間株式の売買が行われた後に、上場廃止が実施され株式の売買ができなくなります。

※監理銘柄:上場銘柄が上場廃止基準に該当する恐れがある場合に、投資家にその事実を周知するため、証券取引所により指定された銘柄

上場廃止のメリット

上場廃止のメリットには以下の3つが挙げられます。

・上場を維持するコストの削減につながる
・経営の自由度が高まる
・敵対的な買収を回避できる

各項目について詳しく解説をしていきます。

上場を維持するコストの削減につながる

上場廃止することで上場維持にかかるコストを削減することができるというメリットがあります。上場を維持するためには、取引所に対して上場維持費の支払いや、公認会計士や監査法人による監査費用といった費用などの様々な費用が発生します。そのため、上場を廃止することで年間に1000万から数千万の費用の削減ができます。また、株主に公開する財務状況の整理などの上場維持にかかる事務手続きのコストの削減をすることもできます。

監査については、こちらの記事もご参照ください。
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経営の自由度が高まる

上場廃止によって経営の自由度を高めることも可能になります。上場をしていると、株主の意向を無視することはできません。つまり、経営の意思決定においてどうしても株主の意向を伺う必要が出てくるというわけです。そのため、上場を廃止することで経営の意思決定における自由度が高まり、迅速な経営判断を行うことができます

また、株主からは株価の上昇を期待されるために、利益向上を目的として短期的な経営戦略をとってしまうことがあります。そのため上場を廃止することによって、短期的な利益ではなく、中長期的な成長のための経営に集中することが可能になるというメリットもあります。

敵対的な買収を回避できる

上場を廃止することで、株式を自由に売買することができなくなります。そのため、敵対的な買収をされるリスクがなくなり、外部から経営へ関与されるようなことが基本的に起きなくなるというメリットがあります

上場廃止のデメリット

上場廃止を行うことによるデメリットには以下の3つが挙げられます。

・資金調達の手段が減る
・株主の信用を損なう可能性がある
・会社のブランドイメージに影響を与える

各項目について詳しく解説をしていきます。

資金調達の手段が減る

上場廃止により、株式の売買による資金調達が行えなくなるというデメリットがあります。株式の売買による資金調達は、短期間で多額の資金調達ができるという性質があります。そのため、上場廃止をすることで、多額の資金を迅速に調達することが難しくなる可能性があります。仮に上場廃止をする際には、事業を継続していくための資金調達の手段を確保しておくことが大切になります。

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株主の信用を損なう可能性がある

上場廃止を行うと、株式が整理銘柄に指定され証券取引所に公開されます。理銘柄に指定され1ヶ月が経つと株式が売買できなくなるため株式の価値は下落して行きます。そのため、株主は損失を被ることになり、その結果株主からの会社への信用を損なうことに繋がる可能性があります

会社のブランドイメージに影響を与える

上場廃止と聞くと、経営状況が悪いのではないか、会社が倒産してしまうのではないかといった後ろ向きなイメージを取引先や消費者に与えてしまい、自社サービスの売上に影響を及ぼしてしまう可能性があります。そのため、上場廃止を行う際には、取引先や消費者に対して上場廃止を行う理由を説明して明らかにすると良いでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか。

本記事では、上場廃止基準の概要とメリット・デメリットについて解説をしました。

一見するとネガティブに見える上場廃止ですが、自社の経営権の強化や組織の拡大を目的にした経営戦略の打ち手として行われる場合もあります。

上場廃止には、会社のブランドイメージに影響を与えたり、株主からの信用を損なう可能性があるというデメリットもありますが、上場維持のコスト削減および敵対的な買収の回避や経営の自由度の向上というメリットもあります。自社の現状と目指すべき方向を慎重に検討する際に、上場廃止も選択肢の一つとして考えてみるのもよいかもしれません。

本記事が上場後の方策を検討しているスタートアップ・ベンチャー企業の経営者の方の参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。