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ブックビルディング方式とは?入札方式との違い・メリット・デメリット・事例について解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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株式を公開する際の公開価格の決め方として、ブックビルディング方式と入札方式という2つの方法があります。

ブックビルディング方式で公開価格を決定した方が、価格高騰などを抑えることができ、株価を安定させることができるなどのメリットがあります。

株式公開の際には、ブックビルディング方式と入札方式、それぞれの違いを理解して、最適な方法で公開するのがベストです。ブックビルディング方式の特徴や、実際にブックビルディング方式で上場した企業の実例などを解説していきます。

ブックビルディング方式とは

ブックビルディング方式とは株式を新たに発行する際の公募価格の決め方の1つで、投資家の需給状況に応じて株価を決める方式です。

専門家の意見を参考に仮条件を決定し、仮条件を投資家へ提示することで投資家の需要を把握して具体的な価格を決めていきます。そのため、需要が高い企業の株式は比較的高めでの募集になりますし、需要が少ない企業の株式は低めで募集されます

なお、ブックビルディングとは「需要申告」のことで、投資家の需要を勘案して公募価格を算定するため「需要積み上げ方式」と呼ばれることもあります。

入札方式とは

株式を新たに発行する際の公募価格の決め方にはブックビルディング方式と入札方式(一般競争入札方式)があります。

入札方式とは、投資家が一定期間内に希望価格を入札し、入札結果に基づいて公募価格が決定するというものです。具体的には、上場前の株式の50%以上の株式を一般投資家が参加する入札にかけます

投資家は一定期間内に希望価格を入札し、落札価格の加重平均額を基準として、リスクや需要などを勘案して公募価格を決定します。

投資家の目がダイレクトに反映される点が入札方式の大きな特徴です。

ブックビルディング方式と入札方式の違い

ブックビルディング方式と入札方式では次の4つの違いがあります。

・価格の決まり方
・投資家の動き方への影響
・株価への影響
・資金調達のしやすさ

ブックブルディング方式と入札方式では、メリットとデメリットが全く異なります。

それぞれの違いを理解しておかなければ最適な方法で価格決定することができません。双方の違いについて詳しく解説していきます。

ブックビルディング方式 入札方式
価格の決まり方 専門家が設定した仮条件の範囲内で公募価格が決まる 投資家の入札額がダイレクトに反映される
投資家の動き方への影響 安く価格を算定する傾向 投機的とも言えるような高値で入札する傾向
株価への影響 適正価格よりも安くなる傾向 人気企業に対して高値で入札する傾向(上場後に株価が下落する傾向)
資金調達のしやすさ 多額ではないが安定した資金調達がしやすい 公募価格の高い資金調達しやすい

価格の決まり方

ブックビルディング方式と入札方式では価格の決まり方が全く異なります。

ブックビルディング方式では、機関投資家の意見を参考に投資家の需要を勘案して価格が決定します。機関投資家が設定した仮条件の範囲内で、投資家の需要を調査するので、仮条件が2,000円〜2,500円となっていれば、公募価格の条件は2,500円となるのが基本です。

一方、入札方式においては投資家の入札額がダイレクトに反映されるので、入札額が高値になれば公募価格も高くなります。

ブックビルディング方式と入札方式では「専門家が設定した仮条件の範囲内で公募価格が決まる」と「入札額がダイレクトに反映される」という2つの違いがあります。

投資家の動き方への影響

ブックビルディング方式では、投資家は「できる限り安く買いたい」と考える傾向があるので需要を積み上げる際に投資家が安く価格を算定する傾向にあります。

一方、入札方式においては投資家は高値で入札しさえすれば希望する企業の株価を取得できます。そのため、人気企業に対して投資家は投機的とも言えるような高値で入札する傾向にあります。

ブックビルディング方式では投資家が「できる限り安く」と考えるのに対して、入札方式で人気企業が公募する際には「高値でも確実に落札したい」と考える傾向にあります。

株価への影響

ブックビルディング方式と入札方式では投資家の動きが異なるので、株価への影響も異なります。

ブックビルディング方式では、企業や引受証券会社は割安感を持たせたいと考え、投資家はできる限り安く買いたいと考えるので、公募価格は適正価格よりも安くなる傾向があります。そのため、IPOの多くのケースで初値が公開価格を上回るのが一般的です。

一方、入札方式においては投資家が確実に株価を取得するために人気企業に対して高値で入札する傾向があります。そのため公募価格が高騰し、上場後には株価が急落するケースが少なくありません。

ブックビルディング方式では公募価格が安くなるので上場後に株価が上昇する傾向がありますが、入札方式では公募価格が高くなるので上場後に株価が下落する傾向があります。

資金調達のしやすさ

ブックビルディング方式よりも入札方式の方が企業にとっては資金調達がしやすい傾向があります

入札方式の方が公募価格が高くなるので、企業はより多くのお金を集められるためです。

一方、ブックビルディング方式では公募価格は入札方式よりも安くなる傾向があるので、多くのお金を集めることはできませんが、売れ残りが少ないので企業にとっては安定した資金調達が可能です。

ブックビルディング方式で価格を決める流れ

ブックビルディング方式で価格を決定する流れは次のようになっています。

1. 株式の引受証券会社が機関投資家などの専門家から意見を収集
2. 公募価格の仮条件を設定
3. 投資家に仮条件を提示(ブックビルディング期間)
4. 投資家が希望価格、希望口数を申告
5. 投資家の申告の統計に基づき投資家の需要を把握する
6. 発行会社と証券会社が公募価格を決定

機関投資家などの意見を参考に決定した仮条件の範囲内で投資家は希望価格を申告するので、公募価格は専門家が検討した適正価格の範囲内になるのが一般的です。

ただし、投資家にとっては申込金額が公開価格を下回ってしまうと、その後の申込抽選に参加する資格がなくなるので、人気企業のIPOにおいては仮条件の上限金額を提示する投資家がほとんどです。そのため、公募価格は仮条件の上限金額となるケースが多くなっています

ブックビルディング方式のメリット

ブックビルディング方式は、入札方式と比較して次の2つのメリットがあります。

・売れ残りのリスクが小さい
・価格高騰などのリスクを軽減できる

入札方式と比較して株価が安定しているため、確実かつ安定的に資金調達が可能です。

ブックビルディング方式の2つのメリットについて詳しく解説していきます。

売れ残りのリスクが小さい

ブックビルディング方式で発行価格算定の基礎となる、機関投資家の意見を参考にして決定する仮条件では、適正価格よりも低い金額で算定されるのが一般的です。これは企業や証券会社が売れ残りをできる限り少なくしたいと考えるためです。

一方、入札方式においては公募価格が高値になる傾向があるので、売れ残ってしまう可能性があります。

公募価格が低めに抑えられるブックビルディング方式の方が売れ残りのリスクが小さくなります

価格高騰などのリスクを軽減できる

ブックビルディング方式は公募価格の高騰が起こりません。ブックビルディングの際に提示される仮条件は、基本的には適正価格よりも低いものだからです。

上場直後の初値は公募価格を上回る傾向があるので、ブックビルディング方式では、上場直後に売却するといった投機的な動きを比較的抑えることができます

入札方式では公募価格が極端に高騰することがあり、上場直後に売却するといった投機的な動きが起こりやすくなります。

ブックビルディング方式の方が公募価格の高騰や上場後の急落を抑えられるのは入札方式と比較した場合のメリットです。

ブックビルディング方式のデメリット

ブックビリディング方式には次の2つのデメリットもあるので注意しなければなりません。

・資金調達額が少なくなる
・投資家の意見が反映しにくい

実際にブックビルディング方式を選択する前に2つのデメリットについてもしっかりと理解しておきましょう。

資金調達額が少なくなる

ブックビルディング方式は入札方式と比較して資金調達額が少なくなる傾向があります。

入札方式では、確実に株価を取得するために投資家が高値で入札する傾向があり、そのため公募価格が高騰します。1株あたりの価格が高くなれば、企業は多くのお金を集められるので入札方式では企業は多くの資金を調達可能です。

一方、公募価格が低くなる傾向のあるブックビルディング方式では、入札方式よりも企業は多くのお金を集めることができません

企業の資金調達という観点であれば、入札方式の方が企業にとって有利になります。

投資家の意見が反映しにくい

ブックビルディング方式の公募価格の基準になるのは機関投資家などの専門家の意見を参考にして決定した仮条件です。

そして、仮条件には「売れ残りを出したくない」という企業や証券会社の意図も反映されています。そのため、ブックビルディング方式では投資家の意図がダイレクトに反映される入札方式と比較して、投資家の意図が反映されにくいと言えるでしょう。

また、入札方式では投資家にとって「どうしても欲しい」という株は高値で入札すれば取得できますが、ブックビルディング方式では人抽選に当選しないと取得できません。

価格面と確実に取得できるかどうかという点において、ブックビルディング方式は入札方式と比較して投資家の意見が反映されにくいのがデメリットです。

ブックビルディング方式で価格が決められた事例

実際にブックビルディング方式で価格が決められた事例として次の3社をご紹介していきます。

・スカイマーク株式会社
・株式会社トリドリ
・株式会社アシロ

スカイマーク株式会社

スカイマークはLCCの先駆け的な存在で、1996年に設立された航空会社です。大手の半額程度の料金を武器に、北海道から沖縄まで運行しています。

2022年11月10日に東京証券取引所に上場承認され、次の条件とスケジュールにてブックビルディング方式でIPOが実施されました。

仮条件提示日 2022年11月28日
仮条件 1,150円~1,170円
公募価格 1,170円
ブックビルディング期間 2022年11月28日~12月2日
公開価格決定日 2022年12月5日
購入申込期間 2022年12月6日~12月9日
払込日 2022年12月13日
上場日 2022年12月14日

株式会社トリドリ

トリドリは2016年に設立された、インフルエンサーのプラットフォームです。企業などがインフルエンサーに直接PR投稿を依頼できるインフルエンサーマーケティングプラットフォームサービス「toridori base」を運営しています。

2022年11月14日、東京証券取引所に上場承認され、次の条件とスケジュールにてブックビルディング方式でIPOが実施されました。

仮条件提示日 2022年11月30日
仮条件 1,450円 ~ 1,500円
公募価格 1,500円
ブックビルディング期間 2022年12月2日~12月8日
公開価格決定日 2022年12月9日
購入申込期間 2022年12月12日~12月15日
払込日 2022年12月16日
上場日 2022年12月19日

株式会社アシロ

アシロは2016年に設立された、インターネットと弁護士を結びつける事業を運営するIT企業です。インターネット上で法律情報や弁護士情報等を提供しています。また、弁護士の人材紹介サービスも行っています。

2021年6月16日、東京証券取引所に上場承認され、次の条件とスケジュールにてブックビルディング方式でIPOを実施しました。

仮条件提示日 2021年6月30日
仮条件 1,120円 ~ 1,160円
公募価格 1,160円
ブックビルディング期間 2021年7月2日~7月8日
公開価格決定日 2021年7月9日
購入申込期間 2021年7月12日~7月15日
払込日 2021年7月19日
上場日 2021年7月20日

 

3社の事例ともに、仮条件の上限価格が公募価格となっていることが分かります。

IPOは公募価格を下回る価格でブックビルディングしないと購入申込に進むことができません。

ブックビルディング方式では、初値が公募価格を上回ることが多いので、購入資格さえ得られれば高い確率で利益を出せるため、投資家は「確実に購入申込をしたい」と考えるので仮条件の上限価格でブックビルディングを行います。そのため、ほとんどのケースで公募価格=仮条件の上限価格となります。

ブックビルディング方式では、実質的には仮条件を提示した時点で公募価格が決定すると言っても過言ではないでしょう。

まとめ

ブックビルディング方式とは、株式の新規公開の際に、機関投資家などの専門家が決定した仮条件をもとに投資家の需要を調査して公募価格を決定する方式です。入札方式のように公募価格の高騰が起こらず、上場後の急落も起きにくいのが特徴です。

また、公募価格は適正価格よりも低くなる傾向にあるので、企業にとっては売れ残りが少なく、確実かつ安定的な資金調達ができます

その反面、入札方式よりも資金調達額が少なくなるというデメリットもあるので、入札方式との違いやメリット・デメリットをしっかりと理解して、上場の際の価格決定方式を選択しましょう。

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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。