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監査難民にならないためには?IPOに先駆けて監査法人依頼前にできること

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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IPOの準備を進めていく中で、最初に決めるべきこととして監査法人の選定があります。

しかし、現在監査法人となかなか契約ができず、監査法人からの監査が受けられない「監査難民」と呼ばれる会社が増加しています。

本記事では、

・IPOに監査法人が必要な理由
・監査難民が増加している理由
・監査難民に陥らないためのポイント

について詳しく解説を行っていきます。

IPOに監査法人が必要な理由

監査法人とは、企業の財務報告に対して監査証明業務を組織的に行う、公認会計士法に基づいて設立された法人です。監査法人はあくまで企業を“監査”する立場であるため、独立した立場で依頼された企業の監査を行うことが求められます。

IPOを目指す会社は、財務的な条件が上場の審査基準を満たしているかを監査法人に審査してもらう必要があり、2期前〜直前期までの2期分の監査証明が必要になります。また、監査法人は財務諸表の監査以外にも、内部統制等IPO準備に関する助言や指導も行います。

上場時に必要となる財務諸表の監査は、直前々期(N-2)・前期(N-1)・申請期の3期にわたって行われるため、遅くとも直前々期の期首までには、依頼する監査法人を決めておきましょう。上場後も四半期レビューと期末審査を受ける必要があるので、監査法人の選定は非常に重要です。

IPOにおける監査法人の役割については以下の記事でも詳しく解説を行っておりますので、合わせてご覧ください。
IPOにおける監査法人の役割とは?監査法人を選ぶポイントも解説!

監査法人の確保の長期化が進んでいる

近年、IPOを目指す企業がなかなか監査法人を確保することができずに困っているという問題があります。この問題は「監査難民」と呼ばれています。

実際、株式会社オロが実施した「監査難民」問題に関する実態調査の結果によると、上場を目指している企業の43.2%が監査法人の確保に困ったという結果がでています。また、監査法人を確保するのにかかった時間もほとんどの企業が半年ほどかかっており、3年以上もかかった企業が7.8%にのぼるなど、監査法人の確保が長期化してきています。

監査難民が発生する理由

近年ではIPOを目指す企業が増加傾向にあります。一方で、上場企業の相次ぐ不祥事により監査法人に対する監督官庁の締付が強化され、1社にかける業務や時間も増加したことから、監査法人は徐々に人手不足の状況に陥りました。これに加えて、働き方改革や残業規制が強まったことにより、監査法人では深刻な人手不足が発生しています。そのため、IPOを目指す企業と監査法人の需要と供給のバランスが崩れてしまいました。

また、内部統制が整備途上にあるIPO準備会社は、リスクと手間がかかり監査法人としての採算も良くないことなどから敬遠され、上場企業をはじめとした、手間のかからない儲かる業務へとシフトしていきました。 その結果、今の「監査難民」と呼ばれる状況が生まれました。

実際、株式会社オロが実施した「監査難民」問題に関する実態調査の結果によると、監査法人の確保において困ったことは何かという項目に対して、22%の会社が「大監査法人に断られた」と回答しています。

監査法人が契約の際に見ている3つのポイント

監査法人が契約の際に見ているポイントとして以下の3つが挙げられます。

・スケジュール通りIPOできそうな会社か
・リスクと手間がかからない会社か
・監査工数と報酬のバランスが見合っているか

それぞれについて詳しく解説を行っていきます。

スケジュール通りIPOできそうな会社か

監査法人は限られた人手を使って、IPO実績を作る必要があります。そのため、新規契約をする際にスケジュール通りIPOを行うことができるかという点は特に重要視されます。

監査法人は、IPO準備企業がスケジュール通りIPOを行うことができるかを見るために、事業計画が合理的であり、客観的に見て実現可能性が高いかどうかという点を特に重要視しています。

そのため、監査法人と契約を締結する際に大事なのは事業計画が合理的であること、客観的に見て実現可能であるということをきちんと提示することです。ここで、客観的に見て実現可能であることを示すためには 、事業計画の数値の根拠を明確にする必要性があります。

リスクと手間がかからない会社か

監査法人は、契約時にリスクや手間がかからない会社であるかどうかという点も考慮しています。

リスクが多い会社であれば、検討しなければならない項目が多くなるため、その分監査の工数が増えるため、人手が必要になってしまいます。また、手間がかかる会社であれば、その分人手を割く必要がでてしまいます。そのため、このような会社は人手不足である監査法人からは避けられてしまいます。

監査工数と報酬のバランスが見合っているか

監査法人は、監査工数と報酬のバランスが見合っているかという点も重要視しています。

数年前までは監査法人も人手に余裕があったため積極的にIPO案件を行っていたため、採算が悪く、赤字の会社であっても、IPO後の成長に伴う監査報酬の増額を見越して契約を受ける場合もありました。 しかし、監査法人の人手不足が深刻化した現在では赤字の会社や監査工数の割りに採算が悪いと判断した場合には契約をすることが難しくなりました。

監査難民にならないためには?

「監査難民」という問題が生じている現状において、IPO準備会社が監査法人を選ぶのではなく、監査法人が対応するIPO準備会社を選ぶ状況になっているともいえます。

監査難民にならないためのポイントを以下3つ解説します。

・客観的に見て実現可能な事業計画を作成する
・会計制度や内部管理体制を早めに整備する
・最新の監査報酬の相場を把握する

客観的に見て実現可能な事業計画を作成する

監査法人と契約を締結する際に大事なのは客観的に見て実現可能な事業計画を作成することです。ここで、客観的に見て実現可能であることを示すためには 、事業計画の数値の根拠を明確にすることが必要です。

会計制度や内部管理体制を早めに整備する

会計制度や内部管理体制を早めに整備することが重要なポイントになります。

監査法人は工数や人手がかかりそうな案件を敬遠する傾向にあります。工数がかかるかどうかは、内部管理体制のレベルで判断されます。

例えば、以下のようなポイントが見られます。

・決算を自社で締められるか
・企業会計について適切なCFOや担当者がいるかどうか
・必要な情報や資料が適切に整理・保管されているかどうか
・在庫数などが適切に管理されているかどうか
・子会社やグループ間取引の実態が把握できているかどうか

手間がかかる会社と見られないようにするため、早期に会計制度、内部管理体制を整備することが重要です。

最新の監査報酬の相場を把握する

最新の監査報酬のトレンドを理解した上で監査法人と交渉を行うことも大切なポイントになります。

現在、監査法人は深刻な人手不足であり、採算が取れるかという点を重要視していることを解説しました。そのため数年前の監査報酬の金額ベースで交渉しようとしても上場会社等の他の案件と比べて採算が悪い場合、契約をすることは難しいでしょう。

そのため、今現在の最新の状況やトレンドを把握したうえで、監査法人との交渉に臨みましょう。

IPO時における監査事務所の規模別の近年の状況

以前まではIPOを目指す企業の監査法人の依頼先は大手の監査法人が8割ほどを占めており、大手に依頼するのが主流となっていました。

2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
大手 74 67 70 78 66
準大手 15 16 13 10 15
中小 3 0 6 2 4
合計 92 83 89 90 85

引用:金融庁「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会報告書」(PDF)

上場直前期以前も含めた準金商法監査の新規契約件数のデータを見ると、2018年から2019 年にかけて、大手監査法人の契約件数は229件から191件に2割程減少しているのに対して準大手監査法人の契約件数は170 件から210件へ2割程増加しており、準大手監査法人の新規契約件数が大手監査法人の新規契約件数を上回りました。

IPO を目指す企業の監査を大手監査法人が受嘱せずに準大手監査法人が受嘱する件数が横ばい傾向から増加傾向にあります。

このような流れの中で、準大手監査法人はIPO準備企業の監査を受けることができるように、限られた人員を最大限活用すべく、組織体制・人員配置の見直しが進んできています。

そのため、監査法人を選ぶ際には、大手だけでなく、準大手監査法人や、中小監査法人を利用するという選択肢も増えてきています。

IPOを目指す企業のための監査法人一覧

日本公認会計士協会が発表しているリストなどを参考に、IPO準備企業の監査を行っている監査法人を紹介していきます。

大手監査法人

大手監査法人は以下の4つです。「BIG4」とも呼ばれています。

・有限責任あずさ監査法人
・有限責任監査法人トーマツ
・EY新日本有限責任監査法人
・PwCあらた有限責任監査法人

大手監査法人のメリットは、大規模なチームを組み、専門部署による高度な業務にも対応可能な点です。一方、大手監査法人は、監査法人自体の規模が大きいため、上場準備企業に沿った具体的な指摘を受けることができないというデメリットもあります。

準大手監査法人

公認会計士・監査審査会は「大手監査法人以外で、比較的多数の上場会社を被監査会社としている監査法人」を準大手監査法人と定義しています。以下の5法人が該当します。
・仰星監査法人
・BDO三優監査法人
・太陽有限責任監査法人
・東陽監査法人
・PwC京都監査法人

準大手の監査法人も、海外の大手会計事務所と提携しているため、大手監査法人に匹敵するほどの専門性の高さがあります。その上、大手監査法人のような縦割りの専門性ではなく、公認会計士個人が手広く業務にあたるため、大手監査法人に比べて対応にスピード感があるという特徴があります。

中小監査事務所

中小監査事務所は、個人事務所や数名の公認会計士が所属している程度の小規模な事務所から300人以上の比較的大きな規模のところまでさまざまあります。

日本公認会計士協会の「IPO を目指す企業の監査の担い手となる中小監査事務所リスト」には現在67の監査事務所の記載があり、その中からいくつか抜粋して記載すると以下のような監査事務所があります。

・アーク有限責任監査法人
・RSM清和監査法人
・藍監査法人
・赤坂有限責任監査法人
・明星監査法人 など

先ほども述べたように、大手監査法人が主流である時代から、準大手監査法人や中小監査事務所に依頼をするという時代になってきています。

中小監査事務所には大手にはないスピード感や報酬がリーズナブルであるというメリットがあります。しかし、問題を抱えた企業の対応を多く受け持っていたり、IPOの実績や上場企業の監査契約数が極端に少ない監査法人の場合、証券会社から監査法人を交替するように求められる可能性があるという点は頭に入れておく必要があります。

【参考】日本公認会計士協会「IPO を目指す企業の監査の担い手となる中小監査事務所リスト」

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回はIPOにおける監査法人の役割、監査難民にならないためのポイントついて解説しました。

監査難民に陥らないためにも、計画的にIPOの準備を行っていくことが大切です。

現在スタートアップ・ベンチャー企業を経営していてIPOを目指されている方、IPOに向けた準備をされている方にとって参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。