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iDeCoで積み立てた資産を受け取る際、どの方法を選ぶかで税金が大きく変わることをご存じですか。

一時金、年金、併用の3つの受け取り方法があり、それぞれ適用される控除や税額が異なります。

特に退職金がある方は、受け取る順序を間違えると数十万円単位で税負担が増える可能性があります。

この記事では、iDeCoの受け取り方法別の税額シミュレーションから、退職所得控除・公的年金等控除の計算方法、退職金との受取順序による税額の違いまで、具体的な数値を用いて詳しく解説します。

受け取り時期の調整や職業別の節税効果、シミュレーターの使い方もご紹介しますので、ご自身に最適な受け取り戦略を見つけてください。

iDeCoの受け取り方法は3つ｜それぞれの特徴

iDeCoで積み立てた資産は、60歳から75歳までの間に受け取ることができます。

受け取り方法は一時金、年金、併用の3つから選択でき、それぞれ適用される控除制度が異なるため、税負担も変わってきます。

一時金で受け取る（退職所得控除が使える）

一時金での受け取りは、iDeCoの資産を一括で受け取る方法です。

この場合、退職所得として扱われ、退職所得控除が適用されます。

例えば30年間加入していた場合、控除額は1,500万円となり、この金額までは非課税で受け取れます。

さらに、控除額を超えた部分についても2分の1にした金額が課税対象となるため、税負担が大幅に軽減されます。

年金で受け取る（公的年金等控除が使える）

年金での受け取りは、iDeCoの資産を5年以上20年以下の期間で分割して受け取る方法です。

この場合、雑所得として扱われ、公的年金等控除が適用されます。

例えば65歳以上で年金収入が200万円の場合、控除額は110万円となり、課税対象は90万円となります。

年金受け取りのメリットは、毎年の控除枠を活用できることと、資産を長期間運用し続けられることです。

国税庁：公的年金等の課税関係

併用で受け取る（両方の控除を活用）

併用での受け取りは、一時金と年金の両方を組み合わせて受け取る方法です。

例えば、iDeCo資産の一部を一時金で受け取り、残りを年金で受け取ることができます。

例えば、退職金が少ない方や退職金がない方は、退職所得控除の枠を使い切れない可能性があるため、一部を一時金で受け取り、残りを年金で受け取ることで両方の控除を最大限活用できます。

iDeCoの受け取りシミュレーション｜3つの方法で税額を比較

ここでは、具体的な金額を用いて、一時金、年金、併用の3つの受け取り方法でどれだけ税額が変わるかをシミュレーションします。

前提条件として、iDeCo資産1,500万円、加入期間30年、退職金なしのケースで比較します。

ケース1：一時金で受け取る場合の税額

iDeCo資産1,500万円を一時金で受け取る場合、退職所得控除が適用されます。

加入期間30年の場合、退職所得控除額は「800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円」となります。

仮にiDeCo資産が2,000万円だった場合、控除額を超える500万円の2分の1である250万円が課税対象となり、所得税・住民税合わせて約50万円の税負担となります。

一時金受け取りの最大のメリットは、退職所得控除の範囲内であれば非課税で受け取れることと、2分の1課税により税負担が軽減されることです。

国税庁：退職所得の課税

ケース2：年金で受け取る場合の税額

iDeCo資産1,500万円を10年間の年金で受け取る場合、毎年150万円を受け取ることになります。

この場合、雑所得として公的年金等控除が適用されます。

65歳以上で年金収入150万円の場合、公的年金等控除額は110万円となり、課税所得は40万円となります。

この40万円に対して所得税・住民税が課税され、年間約6万円の税負担となります。

10年間で合計約60万円の税金を支払うことになります。

ケース3：併用で受け取る場合の税額

iDeCo資産1,500万円のうち、1,000万円を一時金で、500万円を年金（10年間）で受け取る場合を考えます。

一時金1,000万円に対しては、退職所得控除1,500万円が適用されるため、非課税となります。

年金部分は毎年50万円を受け取ることになり、65歳以上の場合は公的年金等控除110万円の範囲内となるため、他に年金収入がなければ非課税となります。

併用のメリットは、両方の控除を活用しながら、資産の一部を運用し続けられることです。

退職所得控除の計算方法｜ステップで分かる

退職所得控除は、iDeCoを一時金で受け取る際に適用される重要な控除制度です。

この控除を正しく理解することで、税負担を大幅に軽減できます。

退職所得控除額の計算式

退職所得控除額は、加入年数（勤続年数）に応じて以下の計算式で算出されます。

例えば、加入年数が15年の場合は「40万円×15年=600万円」、加入年数が30年の場合は「800万円+70万円×10年=1,500万円」となります。

加入年数が長いほど控除額が大きくなるため、長期間加入することで税制メリットが大きくなります。

国税庁：退職所得控除額の計算方法

勤続年数（加入年数）の数え方

iDeCoの場合、勤続年数ではなく「加入年数」が基準となります。

加入年数は、iDeCoに初めて加入した月から受け取り開始月までの期間を月単位で計算し、1年未満の端数は切り上げます。

具体例で見る退職所得控除の計算

【例1】加入年数10年、iDeCo資産500万円の場合

【例2】加入年数25年、iDeCo資産1,200万円の場合

このように、退職所得控除を適用することで、課税対象額を大幅に圧縮できます。

さらに、控除後の金額は2分の1にされるため、実質的な税負担は非常に軽くなります。

退職所得の税額計算（課税所得の算出）

退職所得控除を適用した後の課税所得に対して、所得税と住民税が課税されます。

所得税は累進課税のため、課税所得が大きいほど税率が高くなります。

【課税所得50万円の場合】

【課税所得250万円の場合】

このように、退職所得控除を最大限活用することで、税負担を大幅に軽減できます。

公的年金等控除の計算方法｜ステップで分かる

公的年金等控除は、iDeCoを年金で受け取る際に適用される控除制度です。

公的年金等控除額の計算式

公的年金等控除額は、年齢と年金収入額に応じて決まります。

65歳未満の場合：

65歳以上の場合：

国税庁：公的年金等の課税関係

年齢別・年金額別の控除額

具体的な控除額を年齢別・年金額別に見ていきましょう。

具体例で見る公的年金等控除の計算

【例1】65歳以上、公的年金200万円、iDeCo年金50万円の場合

【例2】65歳以上、公的年金150万円、iDeCo年金100万円の場合

このように、公的年金とiDeCoの年金を合算した金額から控除額を差し引いた金額が、課税対象となる雑所得となります。

雑所得の税額計算

雑所得に対する税額は、他の所得と合算して総合課税で計算されます。

基礎控除48万円を適用した場合の税額を見てみましょう。

【雑所得140万円の場合（他の所得なし）】

年金受け取りの場合、毎年この税額を支払うことになります。

10年間受け取る場合は、合計約139万円の税負担となります。

退職金とiDeCoの受取順序｜どちらを先に受け取るべき？

退職金とiDeCoの両方を受け取る場合、どちらを先に受け取るかによって税額が大きく変わります。

これは、退職所得控除が両者で共有されるためです。

退職所得控除は退職金とiDeCoで共有される

退職所得控除は、会社からの退職金とiDeCoの一時金で控除枠を共有します。

つまり、同じ年に両方を受け取ると、合算した金額から1回分の退職所得控除しか適用されません。

国税庁：退職所得控除額の計算

19年ルールとは？｜控除額が減らない条件

19年ルールとは、最初の退職金を受け取ってから19年以上経過してから次の退職金（iDeCo一時金）を受け取る場合、それぞれ独立して退職所得控除を適用できるルールです。

10年ルールとは？｜控除額の調整方法

10年ルールとは、最初の退職金を受け取ってから10年以上19年未満の間に次の退職金（iDeCo一時金）を受け取る場合、2回目の退職所得控除額が調整されるルールです。

具体的には、2回目の退職金（iDeCo一時金）の退職所得控除額から、1回目の退職金で使用した控除額のうち重複する期間分を差し引きます。

例えば、60歳で退職金（勤続年数30年、控除額1,500万円）を受け取り、70歳でiDeCo一時金（加入年数30年、本来の控除額1,500万円）を受け取る場合、重複期間は20年となります。

調整後の控除額 = 1,500万円 – 1,500万円 × (20年 ÷ 30年) = 500万円

受取順序別の税額シミュレーション

退職金1,500万円、iDeCo一時金500万円、勤続年数30年、iDeCo加入年数30年のケースで、受取順序による税額の違いを比較します。

受け取り時期の調整で税金を抑える方法

iDeCoの受け取り時期は60歳から75歳までの間で自由に選択できます。

受け取り時期を調整することで、退職所得控除や公的年金等控除を最大限活用し、税負担を軽減できる可能性があります。

受け取り開始年齢は60歳から75歳まで選べる

iDeCoの受け取り開始年齢は、加入期間に応じて決まります。

10年以上加入している場合は60歳から受け取れますが、加入期間が短い場合は受け取り開始年齢が遅くなります。

受け取り開始年齢の上限は75歳で、75歳までに受け取りを開始しなければなりません。

受取時期を1年ずらすとどう変わる？

受取時期を1年ずらすことで、税額がどう変わるかを具体的に見てみましょう。

退職金1,500万円を60歳で受け取り、iDeCo一時金500万円の受取時期を変えた場合のシミュレーションです。

公的年金の繰上げ・繰下げとの組み合わせ

公的年金は、原則65歳から受給開始ですが、60歳から64歳の間に繰上げ受給、または66歳から75歳の間に繰下げ受給を選択できます。

iDeCoの受け取り時期と公的年金の受給開始時期を組み合わせることで、税負担を最適化できます。

パターン1：公的年金を繰下げ、iDeCoを先に受け取る

パターン2：公的年金を繰上げ、iDeCoを後で受け取る

パターン3：両方を65歳以降に受け取る

職業別のiDeCo節税シミュレーション

iDeCoの掛金限度額は職業によって異なります。

ここでは、職業別の掛金限度額と節税効果を具体的にシミュレーションします。

会社員（企業年金なし）の場合

企業年金がない会社員の掛金限度額は月額2.3万円（年間27.6万円）です。

年収500万円（課税所得250万円）の場合の節税効果を見てみましょう。

30年間継続した場合、掛金総額は828万円となり、節税額の累計は約165万円となります。

さらに、運用益も非課税のため、仮に年率3%で運用できた場合、最終的な資産は約1,300万円となり、運用益約470万円も非課税となります。

会社員（企業年金あり）の場合

企業年金（企業型DCまたは確定給付企業年金）がある会社員の掛金限度額は、企業年金の種類によって異なります。

企業型DCがある場合は月額2.0万円、確定給付企業年金がある場合は月額1.2万円が上限です。

月額2.0万円（年間24万円）を拠出する場合、年収500万円（課税所得250万円）の節税効果は以下の通りです。

30年間継続した場合、掛金総額は720万円、節税額の累計は約144万円となります。

公務員の場合

公務員の掛金限度額は月額1.2万円（年間14.4万円）です。

年収600万円（課税所得300万円）の場合の節税効果を見てみましょう。

30年間継続した場合、掛金総額は432万円、節税額の累計は約87万円となります。

自営業の場合

自営業（第1号被保険者）の掛金限度額は月額6.8万円（年間81.6万円）と、最も高額です。

年収600万円（課税所得400万円）の場合の節税効果を見てみましょう。

30年間継続した場合、掛金総額は2,448万円、節税額の累計は約735万円となります。

iDeCoシミュレーターの使い方と注意点

iDeCoの受け取り時の税額を正確に把握するには、金融機関が提供するシミュレーターを活用することが有効です。

主要なiDeCoシミュレーター3つ

多くの金融機関がiDeCoのシミュレーターを提供していますが、ここでは代表的な3つをご紹介します。

1. iDeCo公式サイトのシミュレーター

2. SBI証券のiDeCoシミュレーター

3. 楽天証券のiDeCoシミュレーター

シミュレーション結果の見方

シミュレーション結果を見る際は、以下のポイントに注意してください。

1. 掛金の節税効果

年間の所得税・住民税の軽減額と、累計の節税額が表示されます。この金額は、掛金が全額所得控除される効果を示しています。

2. 運用後の資産額

3. 受け取り時の税額

一時金、年金、併用の各受け取り方法での税額が表示されます。退職金の有無や金額、受取時期によって税額が変わるため、複数のパターンを試してみることをおすすめします。

シミュレーションの限界と注意点

シミュレーターは便利なツールですが、以下の限界や注意点があります。

まとめ

iDeCoの受け取り方法は、一時金、年金、併用の3つから選択でき、それぞれ適用される控除制度が異なるため、税負担も大きく変わります。

一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除が適用され、併用することで両方の控除を活用できます。

特に重要なのは、退職金とiDeCoの受取順序です。

退職所得控除は両者で共有されるため、同じ年に受け取ると控除枠を使い切れず、税負担が増える可能性があります。

10年ルールや19年ルールを理解し、受取時期を調整することで、税負担を最小化できます。

また、受け取り時期を60歳から75歳の間で調整することで、公的年金の繰上げ・繰下げと組み合わせて控除枠を最大限活用できます。

職業別の掛金限度額や節税効果も考慮しながら、ご自身に最適な受け取り戦略を検討してください。

シミュレーターを活用して具体的な税額を試算することも有効ですが、シミュレーション結果は概算であり、実際の税額と異なる可能性があります。個別の税務相談は税理士にご確認ください。なお、投資には元本割れのリスクがあります。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。