CBDCとは?中央銀行デジタル通貨の仕組みと日本への影響【2026年最新】

CBDCとは?中央銀行デジタル通貨の仕組みと日本への影響【2026年最新】
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この記事の要約
  • CBDCは中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨で、3つの要件を満たす
  • 中国のデジタル人民元が2026年1月から利息付与を開始し、世界初の利息付きCBDCに
  • 日本銀行は実証実験を進めているが、現時点で発行計画はない

最近ニュースで「CBDC」や「デジタル人民元」という言葉を耳にすることが増えていませんか。

「中央銀行が発行するデジタル通貨」と聞いても、電子マネーやビットコインとどう違うのか、よく分からない方も多いでしょう。

実は、CBDCは単なる新しい決済手段ではありません。

国際的な金融秩序を変える可能性を秘めた、各国が戦略的に開発を進める重要な通貨システムなのです。

この記事では、CBDCの基本的な仕組みから各国の最新動向、日本への影響まで、2026年時点の最新情報をもとに分かりやすく解説します。

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SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
SOICO株式会社
慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

目次

CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは|3つの要件で理解する

CBDCとは「Central Bank Digital Currency」の略で、中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨のことです。現在私たちが使っている紙幣や硬貨をデジタル化したもので、国の信用に裏付けられた「電子的な現金」と考えるとイメージしやすいでしょう。

CBDCの定義|中央銀行が発行するデジタル通貨

日本銀行は、CBDCを次の3つの要件を満たすものと定義しています。第一に「デジタル化されていること」、第二に「円などの法定通貨建てであること」、第三に「中央銀行の債務として発行されること」です。

出典:日本銀行「中央銀行デジタル通貨とは何ですか?」

中央銀行が直接発行・管理する点が最重要ポイント

この定義の最も重要なポイントは、中央銀行が直接発行・管理する点にあります。民間企業が運営する電子マネーや、ビットコインのような暗号資産とは根本的に異なる性質を持つのです。

CBDCの3つの要件

CBDCが満たすべき3つの要件について、もう少し詳しく見ていきましょう。

1.デジタル化されていること:物理的な紙幣や硬貨ではなく、電子データとして存在します。スマートフォンやICカードなどのデバイスを通じて利用できる形式です。
2.法定通貨建てであること:日本なら「円」、アメリカなら「ドル」といった、各国の法定通貨単位で価値が表示されます。ビットコインのように独自の通貨単位を持つわけではありません。
3.中央銀行の債務として発行されること:中央銀行が直接発行し、その価値を保証します。これにより、現金と同じ法的地位を持ち、強制通用力が認められる可能性があります。

この3つの要件により、CBDCは既存の現金と同等の信頼性を持ちながら、デジタルの利便性を兼ね備えた通貨として機能することが期待されています。

CBDCの分類|ホールセール型とリテール型

CBDCは利用者や目的によって、大きく2つの型に分類されます。「ホールセール型CBDC」は、金融機関同士や中央銀行と民間銀行の間での大規模決済に使用されるもので、一般の人は直接利用できません。

一方、「リテール型CBDC」は、企業や個人が日常的な買い物や送金に使用することを想定したものです。現在、世界各国で議論の中心となっているのは、このリテール型CBDCです。日本で「デジタル円」と呼ばれているのも、このリテール型を指します。

CBDCと電子マネー・暗号資産の違い|比較表でわかりやすく解説

CBDCは「デジタル通貨」という点で電子マネーや暗号資産と似ていますが、発行主体や法的位置づけが大きく異なります。これらの違いを正確に理解することが、CBDCの本質を掴む鍵となります。

CBDCと電子マネーの違い

電子マネーとCBDCの最大の違いは、発行主体にあります。SuicaやPayPayなどの電子マネーは民間企業が発行・管理するのに対し、CBDCは国の機関である中央銀行が発行します。

CBDCは法定通貨として誰に対しても使用可能

この違いにより、電子マネーは契約を結んだ店舗でしか使えませんが、CBDCは法定通貨として誰に対しても使用できる「強制通用力」を持つ可能性があります。また、電子マネーでは店舗に2〜5%程度の決済手数料がかかりますが、公共財であるCBDCは手数料無料で使用できる可能性が高いとされています。

CBDCと暗号資産の違い

CBDCと暗号資産(ビットコインやイーサリアムなど)の違いは、さらに根本的です。暗号資産は民間が発行する「プライベートデジタル通貨」であり、国家による価値の裏付けがありません。そのため、価格変動が激しいという特徴があります。

暗号資産は価格変動リスクが大きい

一方、CBDCは国家の信用力に裏付けられているため、価値が安定しています。また、CBDCは中央銀行が中央集権的に管理するのに対し、暗号資産の多くは分散型のブロックチェーン技術により、特定の管理者を持たない仕組みで運営されています。この「中央集権vs分散型」という思想的な違いが、両者の本質的な差異を生んでいます。

3者の比較表

項目CBDC電子マネー暗号資産
発行主体中央銀行民間企業民間・分散型
価値の裏付け国家の信用企業の信用なし(市場の需給)
価格変動安定(法定通貨と同じ)安定(法定通貨に連動)大きい
利用範囲原則すべての取引契約店舗のみ対応する事業者のみ
法的地位法定通貨前払式支払手段暗号資産
手数料無料の可能性店舗負担ありネットワーク手数料あり

この表から分かるように、CBDCは電子マネーの利便性と現金の信頼性を兼ね備えた、新しい形態の通貨と言えるでしょう。

中国のデジタル人民元|世界最先端のCBDC実用化事例

世界で最も実用化が進んでいるCBDCが、中国の「デジタル人民元(e-CNY)」です。2026年1月には世界初となる利息付与制度を開始し、CBDCの新たな段階に突入しました。

出典:Wikipedia「中央銀行発行デジタル通貨」

デジタル人民元の開発背景と戦略的意図

中国がデジタル人民元の開発を本格化させたのは2014年からです。その背景には、国内の資金の流れを把握したいという目的に加え、人民元の国際化や米ドル基軸通貨体制への対抗という戦略的な狙いがあるとされています。

キャッシュレス決済比率7割超の社会基盤

中国では既にAlipay(アリペイ)やWeChat Payといった民間のモバイル決済が普及しており、キャッシュレス決済比率は7割を超えています。こうした社会的背景と、5Gなどの技術インフラの整備が、デジタル人民元の実用化を後押ししました。

実証実験と普及状況(2026年最新)

2020年10月に深圳市で初の公開実験が行われて以降、デジタル人民元の利用は着実に拡大しています。2025年11月末時点で、取引件数は累計約34億8000万件、取引金額は累計約16兆7000億元(約2.37兆ドル)に達しました。

出典:国立印刷局「中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関するレポート(令和6年度)」

2026年1月から世界初の利息付与制度を開始

2026年1月からは、商業銀行がデジタル人民元のウォレット残高に対して利息を支払う制度が開始されました。これは世界の中央銀行デジタル通貨で初めての試みであり、デジタル人民元が「デジタル現金」から「デジタル預金通貨」へと性格を変える重要な転換点となっています。この制度変更により、利用者は保有するだけで利息を得られるようになり、預金保険の対象にもなる予定です。

出典:日本銀行「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み 2026年2月2日」

国際金融秩序への影響|ドル基軸通貨体制への挑戦

デジタル人民元の真の狙いは、国際決済における影響力の拡大にあります。2024年9月には「デジタル人民元国際運営センター」が上海で本格稼働を開始し、クロスボーダー決済の効率化に向けたインフラ整備が進んでいます。

国際金融秩序への影響に注意が必要

特に注目されるのが、マルチCBDCプラットフォーム「mBridge」における活用です。このプラットフォームでの越境決済業務において、デジタル人民元の取引額は全体の約95.3%を占めており、国際決済における存在感を急速に高めています。中国はデジタル人民元を通じて、米ドル中心の国際金融システムに挑戦し、「非ドル決済網」の構築を目指していると見られています。

出典:国立印刷局「中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関するレポート(令和6年度)」

各国のCBDC導入状況|実用化から研究段階まで

世界各国でCBDCの研究・開発が進んでおり、2025年時点で世界98%のGDPを占める137カ国が何らかの形でCBDCに取り組んでいます。ただし、導入状況は国によって大きく異なります。

実用化済みの国|バハマ・ナイジェリア・ジャマイカ

世界で初めてCBDCを正式発行したのは、バハマです。2020年10月に「サンドダラー」という名称で、バハマドルのデジタル版を発行しました。島国であるバハマでは、銀行口座を持たない国民への金融サービス提供(金融包摂)が課題となっており、CBDCがその解決策として期待されています。

ナイジェリアは2021年に「eNaira」を発行し、アフリカで初めてCBDCを導入した国となりました。ジャマイカも2022年に「JAM-DEX」を発行しています。これらの新興国では、既存の銀行システムが未発達な地域への金融サービス提供や、自国通貨の主権確保が主な導入目的となっています。

出典:国立印刷局「中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関するレポート(令和6年度)」

実証実験中の主要国|欧州・米国・韓国

欧州中央銀行(ECB)は「デジタルユーロ」の発行に向けて、2021年から本格的なプロジェクトを開始しました。2023年11月から2年間の準備フェーズに入っており、2029年の発行を目指しています。デジタルユーロは、EUの戦略的自律性の強化と、民間ステーブルコインに対抗する決済システムの強靭性向上を目的としています。

出典:欧州中央銀行「デジタルユーロ」プロジェクト報告書

米国は2025年1月にCBDC開発を禁止

一方、米国では2025年1月にトランプ大統領がCBDCの開発を禁止する大統領令に署名し、方針を大きく転換しました。代わりに米ドル建てステーブルコインの発行促進を進める方針で、民間主導のデジタル通貨を支援する姿勢を明確にしています。この決定は、政府による市民監視の強化への懸念と、民間のイノベーションを重視する考えに基づいています。

出典:国立印刷局「中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関するレポート(令和6年度)」

研究段階の国と国際協力の枠組み

日本を含む多くの国は、まだ研究・実証実験の段階にあります。国際決済銀行(BIS)の2022年調査によると、調査対象となった86の中央銀行のうち約9割が、何らかの形でCBDCの調査・研究を行っています。

国際的な協力も進んでおり、日本銀行、ECB、米連邦準備制度理事会(FRB)を含む主要中央銀行7行がグループを形成し、定期的に共同報告書を公表しています。また、BISが主導する「Project Agorá」では、中央銀行マネーと商業銀行預金をトークン化し、同一プラットフォーム上で即時決済を完了させる仕組みの開発が進められています。

各国の導入状況マップ

国・地域CBDC名称状況主な特徴
中国デジタル人民元(e-CNY)実用化(拡大中)2026年1月から利息付与開始
バハマサンドダラー正式発行済み世界初のCBDC(2020年)
ナイジェリアeNaira正式発行済みアフリカ初のCBDC(2021年)
ジャマイカJAM-DEX正式発行済み2022年発行
欧州デジタルユーロ準備フェーズ2029年発行目標
米国デジタルドル開発中止2025年1月に方針転換
英国デジタルポンド設計フェーズ数年間の検討継続
日本デジタル円実証実験中発行計画なし(準備は継続)

日本のCBDC実証実験|日本銀行の取り組みと最新状況

日本銀行は2020年10月に「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を公表し、段階的に実証実験を進めています。ただし、現時点では「CBDCを発行する計画はない」という慎重な姿勢を維持しています。

概念実証フェーズ1|基本機能の検証(2021-2022年)

日本銀行は2021年4月から2022年3月まで、「概念実証フェーズ1」を実施しました。この段階では、CBDCシステムの基盤となる「CBDC台帳」の基本機能に関する実証実験が行われました。

出典:Coincheck「CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは?暗号資産との違いやメリットを解説」

具体的には、デジタル通貨の発行、流通、還収といった基本的な機能が技術的に実現可能かどうかを検証しました。実験用のシステム環境を構築し、取引履歴を記録する台帳の作成や、デジタル通貨の移転処理などが実際に動作することを確認しました。

概念実証フェーズ2|周辺機能の検証(2022-2023年)

2022年4月から2023年3月までの「概念実証フェーズ2」では、フェーズ1で構築した実験環境に追加機能を付加した検証が行われました。保有額制限(個人が保有できるCBDCの上限設定)、送金指図の予約、オフライン決済機能など、より実用的な機能の技術的実現可能性が検証されました。

この段階では、処理性能の確認も重要なテーマとなりました。日本全体で使用される決済システムとして機能するには、膨大な取引量をリアルタイムで処理できる能力が必要だからです。

パイロット実験と今後のロードマップ(2024年以降)

2023年4月からは「パイロット実験」のフェーズに移行しました。この段階では、実験用システムの構築・検証に加えて、民間事業者が参加する「CBDCフォーラム」を設置し、実務的な議論を進めています。

CBDCフォーラムでは、複数のワーキンググループが設置され、「CBDCシステムと外部インフラとの接続」「追加サービスとCBDCエコシステム」「KYC(本人確認)とユーザー認証」「新技術の活用」「ユニバーサルアクセスとUI/UX」といったテーマで、制度設計の詳細を検討しています。2024年4月以降は、APIサンドボックスプロジェクトも開始され、CBDCの機能拡張性について「手を動かしながら」研究する取り組みが行われています。

出典:日本銀行「中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「パイロット実験」の進捗状況(2025年5月)」

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日本銀行の慎重姿勢|発行計画はない理由

日本銀行は一貫して「現時点でCBDCを発行する計画はない」という姿勢を示しています。その理由は、日本ではまだ現金への信頼が高く、キャッシュレス化も他の先進国ほど進んでいないため、CBDCの必要性が他国ほど高くないと判断されているからです。

現時点で発行計画はないが準備は継続中

ただし、「将来の環境変化に備えて、しっかり準備しておくことが重要」という考えのもと、実証実験は着実に進められています。2025年5月に公表された「第2次中間整理」では、制度設計の大枠について議論が深まっていることが示されており、発行の実現可能性を検討するための準備は着々と進んでいると言えるでしょう。

出典:財務省「CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する関係府省庁・日本銀行連絡会議 第2次中間整理」

CBDCの技術基盤|ブロックチェーンと分散型台帳技術

CBDCの開発において、技術的な基盤として注目されているのが、分散型台帳技術(DLT)です。ブロックチェーンはこのDLTの代表的な技術の一つですが、CBDCには必ずしもブロックチェーンが使われるわけではありません。

ブロックチェーン技術とは

ブロックチェーンは、2008年にビットコインの中核技術として誕生しました。取引データを「ブロック」という単位でまとめ、それらを鎖(チェーン)のように連結していく仕組みです。

ブロックチェーンの最大の特徴は「非中央集権性」にあります。特定の管理者を持たず、ネットワークの参加者が同じデータを共有・検証することで、データの改ざんを極めて困難にしています。マイニングなどを通じてノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)により、管理者を介在せずにデータが共有できる仕組みを構築しています。

分散型台帳技術(DLT)との違い

分散型台帳技術(DLT)は、ネットワークの参加者が同じ台帳を管理・共有することができる技術の総称です。ブロックチェーンはDLTの一種ですが、DLTにはブロックチェーン以外の技術も含まれます。

CBDCには必ずしもブロックチェーンは不要

重要なのは、CBDCには必ずしもブロックチェーンが必要というわけではない点です。国際決済銀行(BIS)は「中央銀行デジタル通貨は、たとえそれが分散データベース上にあったとしても中央管理型であり、ブロックチェーンやその他の分散型元帳は必要とされない」と指摘しています。実際、中国のデジタル人民元はブロックチェーンを使用していないとされています。

CBDCに求められる技術要件

CBDCのシステムに求められる技術要件は、以下のようなものです。

  • 高い処理能力:国全体の決済を支えるため、1秒間に数万〜数十万件の取引を処理できる能力が必要です。
  • 強固なセキュリティ:サイバー攻撃や不正アクセスに対する高度な防御機能が不可欠です。
  • システムの強靭性:災害時やシステム障害時でも、決済機能を維持できる仕組みが求められます。
  • プライバシー保護:利用者の取引情報を適切に保護しつつ、マネーロンダリング対策も両立させる技術が必要です。
  • オフライン決済機能:インターネットに接続できない環境でも使用できる機能が検討されています。
  • 既存システムとの連携:銀行の勘定系システムや決済インフラとスムーズに接続できる設計が重要です。

日本銀行のパイロット実験では、これらの技術要件を満たすシステムの実現可能性について、様々な角度から検証が進められています。

CBDCのメリット|社会にもたらす5つの利点

CBDCの導入は、決済の効率化だけでなく、金融システム全体や社会経済活動に多くのメリットをもたらすと期待されています。

決済の効率化とコスト削減

CBDCを導入することで、日常の買い物の決済が効率化されるだけでなく、国際送金の手順が簡略化されたり、納税の手続きが楽になるなどの効果が期待できます。従来の国際送金は複数の銀行を経由するコルレス銀行ネットワークを通じて行われるため、処理に数日を要し、高額な手数料がかかっていました。CBDCを活用した新しい決済システムでは、これらの非効率性を大幅に改善できる可能性があります。

金融包摂の促進|銀行口座を持たない層へのアクセス

決済システムが未整備である一部の発展途上国では、CBDCを導入することでスマートフォンを使ったデジタル決済を普及させようとする動きが起こっています。バハマやナイジェリアが世界に先駆けてCBDCを導入したのも、銀行口座を持たない国民への金融サービス提供(金融包摂)を期待してのことでした。

先進国においても、現金流通の減少により現金を入手しにくくなった高齢者などに対して、CBDCが代替手段を提供できる可能性があります。

CBDCは金融サービスへのアクセスを広げる

現金管理コストの削減

現在使用されている硬貨や紙幣を発行する際には、製造、輸送、保管などさまざまな面でコストがかかります。財務省の発表によると、令和4年度における貨幣の製造に必要な予算は約170億円でした。

出典:Coincheck「CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは?暗号資産との違いやメリットを解説」

銀行や企業などの民間部門にとっても、ATM網の維持、店舗での現金管理・売上管理に要する人件費、警備の費用など、様々なコストがかかっています。CBDCの発行により、これら現金の発行・輸送・保管にかかるコストの削減が期待されます。

現金管理コストの大幅な削減が可能

マネーロンダリング対策の強化

現金は匿名性を持つため、麻薬取引、誘拐、人身売買、脱税、マネーロンダリングなどの犯罪行為に用いられる恐れがあります。CBDCは取引情報(いつ、誰から、誰に、いくらの金額が移動したか)を記録できるため、一定額以上の決済にCBDCの利用を義務付けることで、このような犯罪の抑止につなげることができます。

中国人民銀行は、デジタル人民元の導入目的の1つに脱税防止を挙げています。ただし、この機能はプライバシー侵害の懸念とも表裏一体であり、適切なバランスを取ることが課題となっています。

取引の透明性向上により犯罪抑止効果が期待される

金融政策の有効性向上

民間発行の電子マネーや暗号資産が取引に占める割合が増えると、中央銀行が発行する通貨の発行量を通じた金融政策が利きにくくなる可能性があります。CBDCの発行により民間発行マネーの拡大を抑えることで、金融政策の有効性を確保しようとする狙いがあります。

また、CBDCには「プログラマビリティ」という特徴があり、お金そのものに特定の条件や機能を持たせることが技術的に可能です。例えば、政府が給付金を支給する際に「特定の期間内のみ使用可能」「特定の地域でのみ利用できる」といった条件を設定することで、政策の効果をより迅速かつ的確に行き渡らせることが期待されています。

プログラマビリティで政策効果を最大化

CBDCのデメリットと課題|導入前に考えるべき5つの問題

CBDCには多くのメリットがある一方で、導入に向けては解決すべき重要な課題も存在します。これらの課題について慎重な議論を重ねることが、CBDCが社会に広く受け入れられるために不可欠です。

プライバシーの問題|取引履歴の追跡可能性

CBDCの最大の懸念事項は、プライバシーの問題です。個人による少額決済も含めCBDCを用いたあらゆる取引の情報(いつ、誰から、誰に、いくらの金額が移動したか)を中央銀行や民間銀行が保有するような制度設計とした場合、国民のプライバシー権の侵害につながりかねません。

この問題に対処するため、CBDCの取引情報がなるべく一元管理されないようにすること、各機関が取引情報にアクセスできる条件を厳密に定めること、またCBDCに現金と同様な匿名性をある程度まで保証することが、重要な課題となっています。日本銀行の実証実験でも、プライバシーに配慮する観点から、顧客管理部分と決済を扱う部分を分離して構築する設計が検討されています。

プライバシー保護と透明性のバランスが重要

民間銀行への影響|預金流出リスク

CBDCが広く普及すると、個人や企業が銀行預金をCBDCに移し替える可能性があります。特に、中央銀行が直接発行するCBDCは、民間銀行の預金よりも安全性が高いと認識されるため、金融危機時などには銀行預金からCBDCへの大規模な資金移動が起こる可能性があります。

これが現実になると、民間銀行の資金調達能力が低下し、企業への融資などの金融仲介機能が損なわれる恐れがあります。この問題を回避するため、CBDCの保有額に上限を設けるなどの制限が検討されています。

銀行預金からの資金流出に注意が必要

デジタル取付けのリスク|金融危機時の資金移動

前述の預金流出リスクに関連して、金融危機時に銀行預金からCBDCへの急激な資金移動(デジタル取付け)が発生するリスクがあります。従来の銀行取付けは、物理的にATMや窓口に行く必要があったため、ある程度の時間的余裕がありました。

しかし、CBDCではスマートフォンで瞬時に資金を移動できるため、金融システム全体の不安定化が従来よりも急速に進行する可能性があります。このリスクに対しては、保有額制限や、危機時の一時的な移転制限などの対策が議論されています。

瞬時の資金移動が金融システムを不安定化

サイバーセキュリティの課題

CBDCの運用システムがサイバー攻撃や不正アクセスを受けた場合、金融取引の停止や資産流出といった深刻な被害が発生しかねません。国全体の決済システムを支えるインフラとして、最高水準のセキュリティ対策が不可欠です。

暗号化技術、多要素認証、リアルタイム監視システムなど、複数のセキュリティ層を組み合わせた防御体制の構築が求められます。また、量子コンピュータの発展に備えた、将来的な暗号技術の更新も視野に入れる必要があります。

最高水準のセキュリティ対策が必須

デジタル弱者への配慮|高齢者・障害者の利用

CBDCがデジタル技術を前提とする以上、スマートフォンやインターネットの利用に不慣れな高齢者や、障害を持つ方々が取り残される可能性があります。金融包摂を推進するはずのCBDCが、かえって新たな格差を生み出すことになりかねません。

この課題に対しては、シンプルで分かりやすいユーザーインターフェースの設計、オフライン決済機能の提供、従来の現金との併用を維持するなど、誰でも使える設計(ユニバーサルデザイン)が重要となります。日本銀行のCBDCフォーラムでも、ユニバーサルアクセスとUI/UXについて専門のワーキンググループが設置され、議論が進められています。

ユニバーサルデザインで誰でも使える設計を

CBDCと暗号資産市場の関係|投資家が知っておくべきこと

CBDCの普及は、暗号資産市場にどのような影響を与えるのでしょうか。投資家の視点から、両者の関係性を考えてみましょう。

中央集権型CBDCと分散型暗号資産の本質的な違い

CBDCと暗号資産は、どちらもデジタル通貨ですが、その思想は正反対です。CBDCは中央銀行が中央集権的に発行・管理する「国家統制型」のデジタル通貨であり、取引情報の追跡が可能です。一方、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、特定の管理者を持たない「分散型」の仕組みで運営され、金融システムの民主化を目指しています。

この本質的な違いは、両者の存在意義を決定づけています。CBDCは既存の法定通貨システムをデジタル化し、効率化するものです。一方、暗号資産は既存の金融システムそのものに挑戦し、新しい価値交換の仕組みを提案するものと言えるでしょう。

CBDCが暗号資産市場に与える影響|脅威か機会か

CBDCの普及は、暗号資産市場にとって脅威なのでしょうか、それとも機会なのでしょうか。短期的には、CBDCの導入により、決済手段としての暗号資産の需要が減少する可能性があります。特に、ステーブルコイン(法定通貨に連動する暗号資産)は、CBDCと直接競合する可能性が高いでしょう。

しかし、長期的には、CBDCの普及がかえって暗号資産の価値を高める可能性もあります。CBDCが「国家による監視可能な通貨」として認識されれば、プライバシーを重視する人々が、匿名性の高い暗号資産を選好する動きが強まる可能性があるからです。中央集権型CBDCの拡大が、分散型暗号資産の存在意義を逆に際立たせる結果になるかもしれません。

民間ステーブルコイン(USDT・USDC)との競争関係

CBDCが最も直接的に影響を与えるのは、民間発行のステーブルコインです。USDT(テザー)やUSDC(USDコイン)などの米ドル建てステーブルコインは、暗号資産取引の待機資産や国際送金の手段として広く利用されています。

米国がCBDCの開発を中止し、代わりに民間ステーブルコインの規制枠組みを整備する方針を示したことは、この競争関係に大きな影響を与えています。2025年にはGENIUS法が制定され、米ドル建てステーブルコインの発行促進が進められています。一方、欧州ではデジタルユーロの開発を進めており、民間ステーブルコインに対抗する姿勢を示しています。

暗号資産投資家にとっては、CBDCとステーブルコインの競争・共存関係が、今後の市場動向を左右する重要な要素となるでしょう。

CBDCとステーブルコインの競争に注目

CBDC時代の暗号資産投資戦略

CBDC時代において、暗号資産投資家はどのような戦略を取るべきでしょうか。まず重要なのは、CBDCと暗号資産は競合するだけでなく、補完的な関係にもなり得るという認識です。

決済手段としては、利便性と信頼性の高いCBDCが主流になる可能性が高いでしょう。一方、価値の保存手段や投機的な投資対象としては、ビットコインなどの暗号資産が引き続き重要な役割を果たすと考えられます。また、分散型金融(DeFi)やNFTなど、ブロックチェーン技術を活用した新しいサービスは、CBDCとは異なる価値を提供し続けるでしょう。

投資家としては、CBDCの普及状況を注視しつつ、暗号資産市場の中でも「決済特化型」と「価値保存・投機型」を区別して投資戦略を立てることが重要になります。CBDCの導入は暗号資産市場の終わりではなく、新たな棲み分けと進化のきっかけになる可能性が高いと言えるでしょう。

CBDCと暗号資産の補完的な関係を理解する

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CBDCのよくある質問(Q&A)

CBDCはいつ発行されますか?

発行時期は国によって大きく異なります。中国のデジタル人民元は既に実用化段階にあり、バハマ、ナイジェリア、ジャマイカでは正式発行済みです。欧州は2029年のデジタルユーロ発行を目指しています。日本については、現時点で発行計画はなく、実証実験を継続している段階です。専門家の予測では、欧州の動きが契機となり、2030年前後に日本でも導入される可能性があるとされています。

CBDCで何が買えますか?

CBDCは法定通貨のデジタル版なので、理論的には現金で買えるものはすべて購入できます。日常の買い物、公共料金の支払い、税金の納付、個人間の送金など、現金と同じように使えることが想定されています。ただし、実際の利用範囲は各国の制度設計によって異なる可能性があります。

CBDCは現金を完全に置き換えますか?

いいえ、現金が完全になくなることは想定されていません。国際決済銀行や各国中央銀行は、CBDCと現金の共存を基本原則としています。現金を使いたい人は引き続き使えるようにしつつ、デジタル決済を好む人にはCBDCという選択肢を提供する、という考え方です。特に日本のように現金への信頼が高い国では、現金との併用が長期間続くと予想されます。

CBDCの利息はつきますか?

これは各国の制度設計によります。2026年1月、中国のデジタル人民元が世界で初めて利息付与を開始しました。商業銀行がウォレット残高に対して利息を支払う仕組みで、デジタル人民元が「デジタル現金」から「デジタル預金通貨」へと性格を変えています。他の国でも同様の制度を導入するかどうかは、今後の議論次第です。日本については、まだ具体的な制度設計の段階に至っていません。

CBDCは暗号資産取引所で買えますか?

いいえ、CBDCは暗号資産取引所では取り扱われません。CBDCは法定通貨そのものなので、銀行口座や専用のウォレットアプリを通じて入手することになります。ビットコインのように「購入する」ものではなく、銀行預金を引き出すように「交換する」ものと考えてください。暗号資産取引所は民間の暗号資産を扱う場所であり、国が発行するCBDCとは流通経路が異なります。

CBDCで税金はかかりますか?

CBDCは法定通貨なので、CBDCを保有したり使用したりすること自体に税金はかかりません。これは現金と同じです。ただし、CBDCで商品を購入すれば消費税がかかりますし、CBDCで給与を受け取れば所得税がかかります。暗号資産のように、取引自体が課税対象になることはありません。

オフライン決済は可能ですか?

オフライン決済機能は、多くの国で重要な検討課題となっています。災害時や通信障害時でも決済ができるよう、インターネットに接続せずに使える機能の開発が進められています。日本銀行のパイロット実験でも、オフライン決済に関する検証が行われています。ただし、セキュリティの確保と利便性のバランスを取ることが技術的な課題となっています。

CBDCのセキュリティは安全ですか?

CBDCは中央銀行が発行・管理するため、暗号化技術、多要素認証、リアルタイム監視システムなど、最高水準のセキュリティ対策が施されます。ただし、システム全体がデジタル化されるため、サイバー攻撃のリスクは完全には排除できません。各国の中央銀行は、セキュリティ対策を最重要課題として、継続的な技術開発と監視体制の強化を進めています。利用者側も、パスワード管理や二段階認証の設定など、基本的なセキュリティ対策を実践することが重要です。

CBDCに関して、初心者が抱きやすい疑問に答えます。

まとめ

CBDCは、中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨であり、「デジタル化」「法定通貨建て」「中央銀行の債務」という3つの要件を満たすものです。電子マネーや暗号資産とは発行主体や法的地位が異なり、国家の信用に裏付けられた新しい形態の通貨として注目されています。

2026年2月現在、世界では中国のデジタル人民元が最も実用化が進んでおり、2026年1月からは世界初となる利息付与制度を開始しました。バハマ、ナイジェリア、ジャマイカなどでは既に正式発行されており、欧州は2029年のデジタルユーロ発行を目指しています。一方、米国は2025年1月にCBDC開発を中止し、民間ステーブルコインの促進に方針転換しました。

日本銀行は2021年から段階的に実証実験を進めていますが、現時点では発行計画はありません。ただし、将来の環境変化に備えて、技術面・制度面の準備は着実に進められています。CBDCフォーラムでは民間企業も参加し、システム設計やエコシステムについて実務的な議論が行われています。

CBDCのメリットとしては、決済の効率化、金融包摂の促進、現金管理コストの削減、マネーロンダリング対策の強化、金融政策の有効性向上などが期待されています。一方で、プライバシーの問題、民間銀行への影響、デジタル取付けのリスク、サイバーセキュリティの課題、デジタル弱者への配慮など、解決すべき課題も多く存在します。

暗号資産市場との関係では、CBDCは中央集権型、暗号資産は分散型という本質的な違いがあります。短期的にはCBDCが決済手段としての暗号資産需要を減少させる可能性がありますが、長期的には両者が補完的な関係を築く可能性もあります。特に民間ステーブルコインとCBDCの競争・共存関係は、今後の金融システムの形を左右する重要な要素となるでしょう。

CBDCは単なる新しい決済手段ではなく、国際金融秩序や各国の通貨主権に関わる戦略的なテーマです。今後の動向を注視しつつ、自分自身の生活や投資にどのような影響があるかを考えることが重要です。

なお、暗号資産への投資を検討される場合は、価格変動リスクが大きいことを十分に理解し、余裕資金の範囲内で行うようにしましょう。CBDCと暗号資産は異なる性質を持つものであり、それぞれの特性を理解したうえで、ご自身の投資判断の参考にしてください。

投資は余裕資金の範囲内で慎重に

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SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
SOICO株式会社
慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

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