証券会社を装った詐欺師の手口|見抜き方と対処法

証券会社を装った詐欺師の手口|見抜き方と対処法

証券会社を装った詐欺師による被害が後を絶ちません。

「必ず儲かる未公開株がある」「あなただけに特別な投資話を紹介する」といった甘い言葉で近づき、大切な資産を騙し取る手口が巧妙化しています。

金融庁によると、2023年から2024年の2年間で投資詐欺に関する相談は15,054件にのぼり、そのうち約83%が実際に被害に遭っています

この記事では、証券会社を装った詐欺師の具体的な手口と見抜き方、そして万が一被害に遭った場合の対処法まで、詐欺から身を守るために必要な知識を網羅的に解説します。

正しい知識を身につけることで、あなた自身や大切な家族を詐欺から守ることができます。

この記事の要約
  • 証券会社を装った詐欺は劇場型・未公開株・名義貸しなど複数の手口があり、被害額は年々増加している
  • 金融庁への登録確認、元本保証の謳い文句への警戒、急かす態度の見極めが詐欺を防ぐ鍵となる
  • 被害に遭った場合は証拠保全を最優先し、警察・金融庁・消費生活センターへ速やかに相談することが重要
SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
SOICO株式会社
慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

目次

証券会社を装った詐欺とは?|基本的な仕組み

証券会社を装った詐欺とは、実在する証券会社や架空の金融業者を名乗り、投資話を持ちかけて金銭を騙し取る犯罪行為です。詐欺師は正規の証券会社と見分けがつかないほど巧妙に装い、投資初心者から高齢者まで幅広い層を狙っています。

この詐欺の本質は、無価値またはほとんど価値のない金融商品を、あたかも高い価値があるかのように装って販売することにあります。「上場間近で値上がり確実」「あなただけに特別な投資機会を提供」といった魅力的な言葉で勧誘し、冷静な判断力を奪います。

詐欺師が証券会社を騙る理由

詐欺師が証券会社を装う理由は、金融機関という信頼性の高いブランドイメージを悪用することで、被害者の警戒心を解くためです。証券会社は投資のプロフェッショナルとして社会的信用が高く、その名前を聞くだけで「安心できる」と感じる人が多いのです。

特に実在する大手証券会社の名前を騙るケースが増えており、被害者は「あの有名な証券会社からの連絡なら大丈夫だろう」と信じ込んでしまいます。また、金融庁への登録を詐称したり、偽の登録番号を提示したりすることで、さらに信頼性を高めようとします。

被害の実態と統計データ

金融庁に寄せられた投資詐欺に関する相談は、2023年1月から2024年12月までの2年間で合計15,054件にのぼり、そのうち12,526件(83.2%)は何らかの被害を受けたという報告があります。

年代別に見ると、60代以上の高齢者が全体の約25%を占めており、高齢者が特に狙われやすい傾向にあります。しかし、30代以下も12.39%、40代が10.85%と、若年層も決して油断できない状況です。被害額は数百万円から数千万円に及ぶケースも珍しくなく、老後資金や相続財産を一瞬で失う被害者も少なくありません。

政府広報オンライン「投資詐欺にご注意を」

また、2025年に入ってからは証券口座の乗っ取りによる不正取引も急増しており、2025年1月から5月末までの期間における証券口座への不正アクセス件数は10,422件、不正取引件数は5,958件、不正売買額は5,240億円に達しているという状況です。これは従来の電話や訪問による詐欺とは異なる、新たな手口として注意が必要です。

どんな人が狙われやすい?

詐欺師が特に狙うのは、投資に関心はあるものの知識や経験が少ない人です。投資初心者は専門用語や仕組みを十分に理解していないため、詐欺師の巧妙な説明を見抜くことが難しく、「専門家が言うなら間違いない」と信じてしまいがちです。

高齢者も主要なターゲットです。退職金や年金などまとまった資産を持ち、「資産を増やしたい」「インフレ対策をしたい」という願望がある一方で、最新の詐欺手口に関する情報が不足していることが多いためです。また、孤独感から電話での会話を楽しんでしまい、詐欺師との関係を断ち切れなくなるケースもあります。

さらに、過去に投資詐欺の被害に遭った人も二次被害のターゲットになります。「被害を回復できる」と持ちかけられ、さらなる金銭を騙し取られる「被害回復型詐欺」が横行しています。一度被害に遭った人の個人情報は詐欺グループ間で共有され、繰り返し狙われる危険性があります。

代表的な詐欺の手口5つ|具体的な事例で解説

証券会社を装った詐欺には、いくつかの代表的な手口があります。これらの手口を事前に知っておくことで、実際に詐欺師から接触があった際に冷静に対処できます。ここでは、特に被害が多い5つの手口について、具体的な事例とともに詳しく解説します。

劇場型詐欺|複数の人物で信用させる手口

劇場型詐欺は、複数の業者が役割を分担して演技をし、被害者を信用させる巧妙な手口です。まるで演劇のように複数の「役者」が登場することから、この名前がつけられました。

劇場型詐欺の典型的な流れ

まず証券会社Aを名乗る者から「X社の未公開株を購入しませんか」と電話がある

被害者が断るか迷っていると、数日後に別の投資コンサルタント会社Bから連絡が入る

「X社の株を高値で買い取りたいが、当社には直接購入する資格がない。代わりに購入してくれれば、後日高値で買い取る」と持ちかける

実在する証券会社から「あなたのところに、A株式会社の社債に関する書類が届いていないか。書類が届いたら連絡が欲しい。当社が社債を購入した価格より高く買取りをする」との連絡があり、数日後、実在する別の証券会社からも同じ内容の連絡があったという実例もあります。複数の業者が同じ銘柄に注目していると思わせることで、「この株は本当に価値がある」と錯覚させるのです。

日本証券業協会「株や社債をかたった投資詐欺の手口」

さらに悪質なケースでは、金融庁や警察を装った者が登場し、「あなたは名義貸しという違法行為をした」と脅して、解決金名目でさらに金銭を要求してきます。被害者は「犯罪者にされてしまう」という恐怖から、言われるままに支払ってしまうのです。

未公開株詐欺|上場前の株で騙す手法

未公開株詐欺は、証券取引所に上場していない株式を「もうすぐ上場する」「上場すれば何倍にも値上がりする」と偽って販売する手口です。実際には上場の予定がない、あるいは発行会社自体が架空であるケースがほとんどです。

「必ずもうかる」、「必ず上場する」、「あなただけ特別にご紹介」、「高値で買い取る」などのセールストークが用いられるが、その株式(発行会社)は架空であるか、実在していても上場の見込みが全くない場合が多いのが実態です。

日本証券業協会「未公開株詐欺」

詐欺師は「発行会社との強いコネで入手した」「限定○名様だけの特別な投資機会」などと希少性を強調し、「今すぐ決断しないとチャンスを逃す」と急かします。被害者が購入すると、株券ではなく「預かり証」が届くことがありますが、これは法的に何の効力もありません。

未公開株は譲渡制限がついている場合が多く、仮に本物であったとしても、証券取引所に上場されない限り売却して換金することは極めて困難です。「上場したら高値で売れる」という説明自体が、実現可能性の低い甘い罠なのです。

名義貸し型詐欺|犯罪に巻き込まれるリスク

名義貸し型詐欺は、「あなたの名義を貸してほしい」と依頼し、それを了承すると「名義貸しは違法行為だ」と脅して金銭を要求する手口です。被害者は金銭を失うだけでなく、犯罪に加担したという精神的苦痛も背負わされます。

実在する証券会社から「あなたに、(有名大手飲料メーカー)B社の社債を購入する権利が当たっている。興味がないのであれば、その権利を譲ってほしい」と話を受けたが、これを断った。しかし、暫らくして、再び証券会社から連絡があり「あなたの名義を借り、500万円でB社の社債を購入した。B社から連絡があったら、あなたが購入したことにして欲しい。お礼に商品券を送付する」との話があったという事例があります。

日本証券業協会「株や社債をかたった投資詐欺の手口」

名義貸しを了承してしまうと、後日、発行会社や金融庁を装った者から「あなたは名義貸しという違法行為を行った。訴えられたくなければ、すぐに購入代金を振り込んでくれ」と脅迫されます。被害者は「自分が法律違反をしてしまった」という罪悪感から、誰にも相談できずに支払ってしまうケースが多いのです。

実際には、名義貸し自体が詐欺師の仕組んだ罠であり、被害者が法的責任を問われることはありません。しかし、詐欺師は被害者の不安を巧みに煽り、冷静な判断を妨げます。

SNS・SMS偽広告詐欺|有名企業を装う最新手口

近年急増しているのが、SNSやSMSを利用した詐欺です。有名人や実在する証券会社を装った偽広告がSNS上に掲載され、クリックするとLINEグループや詐欺サイトへ誘導されます。

日本の証券口座を狙った不正SMSの送信元は、「銀行」や「クレジットカード会社」、「政府機関」なども装っている。複数の証券会社が不正ログイン対策として「多要素認証の設定を必須化」した6月以降も、詐欺集団は日本の証券口座を狙い続けているという状況です。

トレンドマイクロ「多要素認証の必須化後も減っていない証券口座乗っ取りの現状」

詐欺メッセージの内容は「異常な取引を検出しました」「口座が一時停止されています」「セキュリティ設定が必要です」など、不安や緊急性を煽るものが中心です。被害者は焦ってリンクをクリックし、偽サイトでログイン情報を入力してしまいます。

2025年に入ってからは、証券口座乗っ取り被害の補償に便乗したフィッシングメールも確認されており、詐欺師は常に新しい手口を開発し続けています。正規のメールやSMSとの見分けがつきにくいほど精巧に作られているため、特に注意が必要です。

被害回復型詐欺|二次被害の危険性

被害回復型詐欺は、過去に投資詐欺の被害に遭った人をターゲットに、「被害金を取り戻せる」と持ちかけて、さらに金銭を騙し取る手口です。一度詐欺に遭った人の個人情報は詐欺グループ間で共有されており、繰り返し狙われる危険性があります。

以前、未公開株の詐欺に遭った被害者のもとに、C氏から「あなたの保有する未公開株の買取が実行されないままなので、返金をしたい。返金額は300万円である」との話があった。後にD社から連絡があり「返金額をあなたに振込むことになっていたが、送金できない。送金するためにはD社へ保証金を支払う必要がある」との話があったので、保証金を振り込んだという事例があります。

日本証券業協会「株や社債をかたった投資詐欺の手口」

詐欺師は弁護士や行政機関を装うこともあり、「詐欺業者が逮捕されたので被害を回復できる」「特別な救済制度がある」などと説明します。しかし、返金のためには「手数料」「保証金」「税金」「認証料」などの名目で、次々と金銭を要求してきます。

被害者は「今度こそ本当に返金されるはず」「ここまで支払ったのだから引き返せない」という心理状態に陥り、さらに深い被害に遭ってしまいます。実際には、未公開株の買取を行う正規の会社は存在せず、一度騙し取られた金銭を取り戻すことは極めて困難です。

詐欺を見抜く7つのチェックポイント

証券会社を装った詐欺を見抜くには、いくつかの明確なチェックポイントがあります。これらのポイントを知っておくことで、怪しい勧誘を受けた際に冷静に判断できます。一つでも当てはまる場合は、詐欺の可能性が高いと考えてください。

  • 金融庁への登録を確認する
  • 元本保証・高利回り保証の謳い文句に注意
  • 急かす態度や限定感の演出
  • 振込先が個人名義・海外口座
  • 契約書類が不十分・曖昧
  • 実在する証券会社名を悪用
  • SNS・SMS経由の勧誘

金融庁への登録を確認する

証券会社として営業するには、金融庁への登録が法律で義務付けられています。勧誘を受けたら、まず金融庁のウェブサイトで「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」を確認しましょう。

金融商品取引業の登録を受けていなければ、業者として有価証券の売買等を行うことができません。金融庁では、無登録で金融商品取引業を行っているとして、警告書の発出を行った者の名称等を、同庁ホームページに掲載しています。

日本証券業協会「株や社債をかたった投資詐欺の手口」

確認する際は、業者から教えられた電話番号やウェブサイトを使わず、必ず自分でインターネット検索などを行って公式情報にアクセスしてください。詐欺師は偽の登録番号を提示したり、実在する証券会社の名前を騙ったりすることがあります。

また、日本証券業協会の「協会員一覧」も確認しましょう。協会に加入している業者には、未公開株の投資勧誘が原則禁止されているなど、投資家保護のための自主規制がかかっています。

元本保証・高利回り保証の謳い文句に注意

投資商品に「元本保証」や「必ず儲かる」という言葉が使われていたら、それは詐欺です。金融商品取引法では、金融商品取引業者が「虚偽のことを告げる行為」や「不確実な事項について断定的判断を提供して勧誘をする行為」は明確に禁止されています。

株式や債券、投資信託などの金融商品は、経済状況や企業業績により価格が変動するため、元本が保証されることはありません(預金保険対象の銀行預金を除く)。「年利○○%確実」「絶対に損はしない」といった表現は、正規の証券会社では絶対に使われません。

特に「上場間近で値上がり確実」「限定○名様だけの特別な投資機会」といった希少性や緊急性を強調する言葉には要注意です。詐欺師は被害者の冷静な判断を妨げるために、このような表現を多用します。

急かす態度や限定感の演出

「今日中に決めてほしい」「あと○名で締め切り」など、即断即決を迫る勧誘は詐欺の典型的な手口です。正規の証券会社は、投資家が十分に検討する時間を確保し、リスクを理解した上で投資判断をすることを重視します。

詐欺師が急かす理由は、被害者に考える時間を与えないためです。冷静に考えれば不自然な点に気づくはずですが、「今を逃すとチャンスがなくなる」と焦らされると、判断力が鈍ってしまいます。

「家族に相談してから決めたい」と言うと、「この話は秘密にしてほしい」「家族に話すと権利が無効になる」などと言って、相談を妨げようとするのも詐欺の特徴です。正規の投資話であれば、家族や専門家に相談することを妨げる理由はありません。

振込先が個人名義・海外口座

正規の証券会社への入金は、必ず法人名義の口座に行われます。振込先が個人名義だったり、海外の銀行口座だったりする場合は、詐欺の可能性が極めて高いと判断してください。

また、「現金を郵便や宅配便で送ってほしい」「レターパックで送付してほしい」といった要求も、詐欺の典型的な手口です。これは銀行口座の凍結を避けるための手段であり、正規の金融取引では絶対にあり得ません。

振込先の口座名義が業者名と一致しているか、必ず確認しましょう。詐欺師は「手続き上の都合」「税金対策」などと理由をつけて、個人名義への振込を求めてきますが、これに応じてはいけません。

契約書類が不十分・曖昧

正規の証券会社と取引する際には、契約書、目論見書、リスク説明書などの書面が必ず交付されます。これは金融商品取引法で義務付けられており、書面による説明なしに取引を行うことは違法です。

詐欺の場合、契約書が存在しなかったり、あっても内容が曖昧で具体性に欠けたりします。「書類は後で送る」「口頭での説明で十分」などと言われた場合は、取引を見合わせるべきです。

また、契約書が届いても、リスクに関する記載が不十分だったり、解約条件が不明確だったりする場合も要注意です。正規の証券会社の契約書には、投資商品のリスク、手数料、解約方法などが明確に記載されています。

実在する証券会社名を悪用

詐欺師は、被害者の信頼を得るために、実在する大手証券会社の名前を騙ることがあります。「野村證券」「SBI証券」「楽天証券」など、誰もが知っている証券会社を名乗られると、つい信用してしまいがちです。

しかし、名前を名乗られただけで安心してはいけません。電話番号やメールアドレスが本物かどうか、必ず公式ウェブサイトで確認してください。詐欺師は本物に似せた偽の番号やアドレスを使用することがあります。

不審な勧誘を受けた場合は、その証券会社の正規の窓口に直接問い合わせて、「このような勧誘を実際に行っているか」を確認しましょう。多くの証券会社は、飛び込みでの電話営業や訪問営業を行っていません。

SNS・SMS経由の勧誘

正規の証券会社が、SNSやSMSを通じて突然投資商品を勧誘することはほとんどありません。特に、知らない番号からのSMSや、SNS上の広告経由で投資話を持ちかけられた場合は、詐欺を疑うべきです。

「セキュリティ強化のため」「不正ログインを検知したため」などの理由でリンクをクリックさせ、偽サイトに誘導するフィッシング詐欺が急増しています。メールやSMSに記載されたリンクは安易にクリックせず、必ず公式アプリや事前にブックマークした正規のウェブサイトからアクセスしてください。

また、マッチングアプリやSNSで知り合った人から投資話を持ちかけられるケースも増えています。「投資で成功した」「良い投資先を紹介する」といった話には、絶対に乗らないようにしましょう。

正規の証券会社と詐欺師の違い|比較表で確認

正規の証券会社と詐欺師の違いを理解することは、詐欺被害を防ぐ上で非常に重要です。一見すると見分けがつきにくい場合もありますが、営業方法や提供される書類、言葉遣いなどに明確な違いがあります。以下の比較を参考に、怪しい勧誘を見極めましょう。

営業方法の違い

正規の証券会社と詐欺師では、営業のアプローチ方法に大きな違いがあります。

項目 正規の証券会社 詐欺師
初回接触 既存顧客への案内が中心。飛び込み営業はほとんどない 突然の電話・訪問・SMS。面識のない相手に積極的に接触
勧誘の態度 投資判断は顧客に委ねる。検討時間を十分に確保 「今日中に決めて」「限定○名」など即断を迫る
リスク説明 元本割れのリスクを必ず説明。書面でも明示 「必ず儲かる」「元本保証」など断定的表現を使用
相談の推奨 家族や専門家への相談を推奨 「秘密にして」「家族に話すな」と相談を妨げる

正規の証券会社は、投資家保護の観点から、顧客が十分に理解し納得した上で投資判断をすることを重視します。そのため、急かすような態度は取らず、リスクについても包み隠さず説明します。

一方、詐欺師は被害者に考える時間を与えないよう、緊急性や限定感を演出します。また、家族や専門家に相談されると詐欺だと見破られる可能性があるため、相談を妨げようとします。

提供される書類の違い

取引に際して提供される書類にも、明確な違いがあります。

項目 正規の証券会社 詐欺師
契約書類 契約書・目論見書・リスク説明書を必ず交付(法律で義務化) 書類がない、または内容が曖昧。「後で送る」と言って送らない
登録情報 金融庁の登録番号を明示。公式サイトで確認可能 偽の登録番号を提示、または登録情報を曖昧にする
振込先 必ず法人名義の口座。証券会社名と一致 個人名義・海外口座。レターパック等での現金送付を要求
株券・証書 正規の株券または電子化された保管証明 「預かり証」など法的効力のない書類。株券が届かない

金融商品取引法では、証券会社に対して書面による情報提供を義務付けています。契約書や目論見書がない、または内容が不十分な場合は、法令違反の可能性が高く、詐欺を疑うべきです。

また、未公開株を購入した場合、正規の取引であれば株券または電子化された保管証明が発行されます。「預かり証」は法的に何の効力もなく、詐欺師がよく使う手口です。

勧誘の言葉遣いの違い

勧誘の際に使われる言葉にも、特徴的な違いがあります。

項目 正規の証券会社 詐欺師
利益の表現 「〜の可能性があります」「過去の実績では〜」など慎重な表現 「必ず儲かる」「絶対に値上がりする」など断定的表現
リスクの説明 「元本割れのリスクがあります」と必ず明示 リスクに触れない、または「リスクはない」と虚偽の説明
特別感の演出 「ご検討ください」など客観的な案内 「あなただけに特別に」「限定○名様」など過度な特別感
権威の利用 自社の実績や信頼性を客観的に説明 「金融庁推奨」「政府公認」など虚偽の権威付け

正規の証券会社は、金融商品取引法により「断定的判断の提供」が禁止されています。そのため、「必ず儲かる」「絶対に値上がりする」といった表現は絶対に使いません。

詐欺師は被害者の欲望を刺激するために、過度に魅力的な言葉を使います。また、金融庁や政府機関の名前を勝手に使って権威付けをすることもありますが、これらの機関が特定の投資商品を推奨することはありません。

アフターフォローの違い

契約後のフォロー体制にも、大きな違いがあります。

項目 正規の証券会社 詐欺師
連絡手段 固定電話・公式メールアドレス・店舗窓口など複数の連絡手段 携帯電話のみ。入金後は連絡が取れなくなる
取引報告 定期的な取引報告書・残高報告書を送付(法律で義務化) 報告書がない、または曖昧な内容
解約・売却 顧客の意思で売却・解約が可能(市場価格による) 「売却できない」「解約には手数料が必要」と妨げる
苦情対応 苦情受付窓口が明確。業界団体への相談も可能 苦情を言うと逆ギレ、または連絡が取れなくなる

正規の証券会社は、法律に基づいて定期的な取引報告書を送付し、顧客の資産状況を透明に報告します。また、顧客からの問い合わせや苦情に対応する体制が整っています。

詐欺師は、入金を受けた後は連絡が取れなくなるか、追加の入金を要求し続けます。「売却したい」と申し出ると、「手数料が必要」「税金を先に払う必要がある」などと理由をつけて、さらに金銭を要求してきます。

信頼できる証券会社の確認方法3ステップ

詐欺を避け、安全に投資を始めるには、信頼できる証券会社を選ぶことが重要です。ここでは、証券会社が正規の業者であるかを確認するための具体的な3ステップを紹介します。これらの手順を踏むことで、詐欺に遭うリスクを大幅に減らすことができます。

金融庁の登録業者一覧で検索

証券会社として営業するには、金融庁への登録が法律で義務付けられています。まず最初に確認すべきは、金融庁のウェブサイトにある「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」です。

1. 金融庁のウェブサイトにアクセス
2. 「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」のページを開く
3. 「金融商品取引業者」の項目から業者名を検索

重要なのは、業者から教えられた電話番号やウェブサイトを使わず、必ず自分で公式情報にアクセスすることです。詐欺師は偽の登録番号を提示したり、実在する証券会社の名前を騙ったりすることがあります。

また、金融庁は「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」というページで、警告書を発出した業者のリストも公開しています。こちらも併せて確認し、該当する業者がないかチェックしましょう。

金融庁「詐欺的な投資勧誘等にご注意ください」

日本証券業協会の会員一覧で確認

金融庁への登録に加えて、日本証券業協会への加入状況も確認しましょう。協会に加入している証券会社には、投資家保護のための自主規制が適用されており、より高い信頼性があります。

日本証券業協会のウェブサイト(https://www.jsda.or.jp/)にアクセスし、「協会員一覧」のページを開きます。証券会社名で検索すると、加入の有無が確認できます。協会に加入している業者には、未公開株の投資勧誘が原則禁止されているなど、厳しい自主規制がかかっています。

特に未公開株の勧誘を受けた場合は、必ず協会への加入状況を確認してください。協会に加入している証券会社が未公開株を勧誘することは、ごく限られた例外を除いてあり得ません。

公式ホームページの確認ポイント

金融庁と日本証券業協会での確認が取れたら、最後に証券会社の公式ホームページを直接確認しましょう。ただし、詐欺師は本物そっくりの偽サイトを作成することがあるため、注意が必要です。

公式サイトの確認ポイント

URLが正しいか確認(詐欺師は似たドメイン名を使用)

会社情報(所在地、代表者名、登録番号)が金融庁のデータと一致

固定電話番号やメールアドレスが複数記載されている

リスク情報や手数料の詳細が掲載されている

不審な勧誘を受けた場合は、その証券会社の正規の窓口に直接電話して、「このような勧誘を実際に行っているか」を確認することをおすすめします。多くの証券会社は、詐欺被害防止のための相談窓口を設けています。

詐欺師の心理と手口が巧妙化する理由

証券会社を装った詐欺は、年々巧妙化しています。単純な電話勧誘から、複数の業者が登場する劇場型、さらにはAI技術を悪用した最新手口まで、詐欺師は常に新しい方法を開発し続けています。なぜ詐欺の手口は進化し続けるのか、その背景を理解することで、より効果的な予防策を講じることができます。

被害者の心理につけ込む手法

詐欺師は、人間の心理的な弱点を巧みに突いてきます。特に利用されるのが、「権威への服従」「希少性の原理」「社会的証明」「返報性の原理」といった心理学的なテクニックです。

権威への服従
金融庁や有名証券会社など、権威ある組織の名前を出すことで、被害者の警戒心を解く手法
希少性の原理
「限定○名様」「今日中に決めないと権利がなくなる」など、機会が限られていると思わせることで、冷静な判断を妨げる手法
社会的証明
「多くの人が投資している」「有名人も購入した」などと言って、他者の行動を引き合いに出す手法
返報性の原理
「あなただけに特別な情報を教える」「無料で投資アドバイスをする」など、先に何かを与えることで、お返しをしなければという心理を生み出す手法

テクノロジーの悪用|AI・ディープフェイク詐欺

近年、AI技術やディープフェイク技術を悪用した詐欺が急増しています。有名人や金融機関の幹部の声や映像を偽造し、投資商品を宣伝する偽広告がSNS上に掲載されるケースが報告されています。

ディープフェイクとは、AIを使って本物そっくりの偽動画や音声を作成する技術です。例えば、著名な投資家や経済評論家が「この投資商品は素晴らしい」と語る偽動画を作成し、SNS広告として配信します。映像や音声が本物と見分けがつかないため、多くの人が騙されてしまいます。

また、情報の窃取に特化したマルウェア「インフォスティーラー」(infostealer)の存在があります。端末がインフォスティーラーに感染すると、Webブラウザに保存されたID・パスワードやクレジットカード情報、Cookieなどが窃取されるという報告もあります。

NTTドコモビジネス「2025年に入り、口座乗っ取りが多発」

フィッシングサイトも高度化しており、正規の証券会社のウェブサイトと見分けがつかないほど精巧に作られています。URLも一見すると本物に似ており、SSL証明書(httpsの鍵マーク)も偽装されているケースがあります。

さらに、リアルタイムフィッシングという新しい手口も登場しています。これは、被害者が偽サイトに入力した情報を詐欺師がリアルタイムで受け取り、即座に正規サイトにログインして操作を行う手法です。二段階認証を設定していても、被害を防げない場合があります。

詐欺グループの組織構造

現代の投資詐欺は、個人ではなく組織的なグループによって行われることがほとんどです。詐欺グループは役割分担が明確で、まるで企業のような組織構造を持っています。

詐欺グループの典型的な組織構造

リスト屋:詐欺のターゲットとなる個人情報を収集

架け子:電話やメールで勧誘を行う実行犯

受け子:被害者から現金を受け取る役割

技術担当:偽サイトの作成やシステム管理

カスタマーサポート役:被害者からの問い合わせに対応

出し子:資金を海外に送金する役割

組織のトップは海外に拠点を置いていることが多く、摘発が困難です。また、末端の実行犯が逮捕されても、組織全体の解明には至らず、別の人員を補充して詐欺を続けるケースが多いのが現状です。

家族を詐欺から守る方法|高齢者への対策

投資詐欺の被害者の約25%は60代以上の高齢者です。高齢の家族を詐欺から守るには、家族全体で予防策を講じることが重要です。「自分は大丈夫」と思っている高齢者ほど危険であり、家族が積極的に関わることで被害を防ぐことができます。

高齢者が狙われやすい理由

高齢者が狙われやすい理由

退職金や年金など、まとまった資産を持っている

投資に関する知識や経験が不足している

最新の詐欺手口に関する情報が不足している

孤独感から電話での会話を楽しんでしまう

「騙されたことを認めたくない」「家族に心配をかけたくない」という心理

家族ができる具体的な予防策

高齢の家族を詐欺から守るために、家族ができる具体的な予防策があります。

1. 日常的なコミュニケーションを大切にする
2. 投資詐欺に関する情報を共有する
3. 電話機に迷惑電話対策機能を設定する
4. 「投資をする前には必ず相談する」というルールを作る
5. 金融機関との連携をお願いする

電話機に迷惑電話対策機能を設定することも効果的です。最近の電話機には、知らない番号からの着信を自動で拒否したり、通話内容を録音したりする機能があります。「録音されている」と分かると、詐欺師は電話を切ることが多いため、予防効果が高いです。

詐欺に遭いかけた時の介入方法

もし高齢の家族が詐欺に遭いかけていることに気づいたら、冷静かつ迅速に介入することが重要です。ただし、頭ごなしに否定すると、本人が意固地になってしまう可能性があるため、慎重なアプローチが必要です。

1. 本人の話をじっくり聞く(批判せずに聞き出す)
2. 客観的な情報を一緒に確認する(金融庁のウェブサイト等)
3. すでに振込をしてしまった場合は、すぐに銀行に連絡
4. まだ振込前であれば、時間を稼ぐ
5. 本人を責めない(「早く気づいて良かった」と前向きに)

詐欺被害に遭った場合の対処法|相談窓口一覧

万が一、詐欺被害に遭ってしまった場合でも、適切な対処をすることで被害を最小限に抑えられる可能性があります。また、二次被害を防ぐためにも、正しい相談先を知っておくことが重要です。ここでは、被害に遭った直後にすべきことと、相談できる窓口を詳しく紹介します。

すぐにすべきこと|証拠の保全

詐欺被害に気づいたら、まず証拠を保全することが最優先です。証拠がなければ、警察への被害届や、民事での損害賠償請求が困難になります。

保全すべき証拠

電話の録音データや通話履歴

メールやSMS、LINEなどのメッセージ(スクリーンショット)

契約書、パンフレット、「預かり証」などの書類

振込明細書や通帳の記録

詐欺師の名刺や会社案内、ウェブサイトのURL

警察への相談方法

詐欺は犯罪ですので、必ず警察に相談してください。最寄りの警察署の生活安全課、または警察相談専用電話「#9110」に連絡しましょう。

警察に相談する際は、保全した証拠をすべて持参してください。電話の録音データ、メッセージのスクリーンショット、契約書類、振込明細書などを整理して持っていくと、スムーズに対応してもらえます。

被害届を提出すると、警察が捜査を開始します。ただし、詐欺事件は犯人の特定が難しく、被害金の回収も困難なケースが多いのが現実です。それでも、被害届を出すことで、同様の被害を防ぐ手がかりになったり、詐欺グループの摘発につながったりする可能性があります。

消費生活センター・金融庁への相談

警察への相談と並行して、消費生活センターや金融庁にも相談しましょう。これらの機関は、被害回復のためのアドバイスや、二次被害を防ぐための情報提供を行っています。

主な相談窓口

消費生活センター:全国共通電話番号「188(いやや)」

金融庁 金融サービス利用者相談室:0570-016811(IP電話からは03-5251-6811)

金融庁「詐欺的な投資勧誘等にご注意ください」

弁護士への相談と被害回復の現実

詐欺被害の返金を求める場合は、弁護士に相談することも選択肢の一つです。各地の弁護士会では、法律相談を受け付けており、初回30分は無料または低額で相談できる場合があります。

弁護士に依頼すると、詐欺師や詐欺グループに対して損害賠償請求を行うことができます。また、振込先の銀行口座の凍結や、詐欺師の資産の差し押さえなど、法的手続きを進めることができます。

ただし、投資詐欺の被害回復は、現実的には非常に困難です。詐欺師は偽名や他人名義を使っていることが多く、身元の特定が難しいためです。また、騙し取られた金銭はすでに使われていたり、海外に送金されていたりして、回収できないケースがほとんどです。

一般的には、こうした詐欺によって一旦送金してしまうと、被害の回復はかなり難しいといわれているのが実態です。

金融庁「投資詐欺等に関する利用者からの相談事例等」

また、「被害を回復できる」と持ちかけてくる業者にも注意が必要です。これは二次被害を狙った詐欺である可能性が高く、さらなる被害につながります。弁護士を装った詐欺師もいるため、弁護士に依頼する場合は、必ず弁護士会に登録されているかを確認してください。

まとめ

証券会社を装った詐欺は、劇場型詐欺、未公開株詐欺、名義貸し型詐欺、SNS・SMS偽広告詐欺、被害回復型詐欺など、多様な手口で私たちの大切な資産を狙っています。詐欺師は人間の心理的な弱点を巧みに突き、最新のテクノロジーを悪用して、年々手口を巧妙化させています。

詐欺を見抜くためには、金融庁への登録確認、元本保証などの謳い文句への警戒、急かす態度の見極め、振込先の確認、契約書類の確認、実在する証券会社名の悪用への注意、SNS・SMS経由の勧誘への警戒という7つのチェックポイントが重要です。これらのポイントを日頃から意識することで、詐欺被害を大幅に減らすことができます。

正規の証券会社と詐欺師では、営業方法、提供される書類、言葉遣い、アフターフォローに明確な違いがあります。正規の証券会社は投資家保護を重視し、リスクを包み隠さず説明しますが、詐欺師は「必ず儲かる」と断定的な表現を使い、即断を迫ります。

高齢の家族を詐欺から守るには、日常的なコミュニケーション、情報共有、電話機の対策、家族ルールの設定、金融機関との連携が効果的です。詐欺に遭いかけた場合は、冷静に介入し、客観的な情報を一緒に確認することが大切です。

万が一被害に遭ってしまった場合は、すぐに証拠を保全し、警察、消費生活センター、金融庁に相談してください。ただし、一度騙し取られた金銭を取り戻すことは極めて困難であり、予防が最も重要です。

投資を始める際は、金融庁に登録された正規の証券会社をご利用ください。少しでも不審な勧誘を受けた場合は、契約前に必ず公的機関に相談し、家族や専門家にも相談することをおすすめします。詐欺被害に遭った場合、返金が難しいケースが多いため、予防が最も重要です。投資は自己責任であり、元本割れのリスクがあります。ご自身の投資目的やリスク許容度に合わせて、慎重にご検討ください。

SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
SOICO株式会社
慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

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