iDeCoと退職所得控除|受取時の税金を減らす方法を解説

iDeCoと退職所得控除|受取時の税金を減らす方法を解説

iDeCoで老後資金を積み立てているけれど、受け取るときの税金がどれくらいかかるか不安に感じていませんか。

実は、iDeCoを一時金で受け取る場合は「退職所得控除」が適用され、税金を大きく減らせる可能性があります。

ただし、会社からの退職金とiDeCoを受け取る順番や時期によって、税額が数十万円から数百万円も変わることがあるんです。

この記事では、退職所得控除の仕組みから、5年・10年・19年ルールといった複雑な調整計算、2026年の税制改正による影響まで、具体的なケースを交えて分かりやすく解説します。

自分に合った最適な受取方法を選べば、手取り額を最大化できますよ。

この記事の要約
  • iDeCoを一時金で受け取ると退職所得控除が使え、税金を大幅に減らせる
  • 退職金とiDeCoの受取順序で税額が変わるため、5年・10年・19年ルールの理解が重要
  • 2026年の税制改正で5年ルールが10年ルールに変わり、影響を受ける人がいる
SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
SOICO株式会社
慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

目次

iDeCoの退職所得控除とは|受取時の税金の仕組み

iDeCoで積み立てた資産を受け取るとき、一時金として受け取る場合には「退職所得控除」という税制優遇が適用されます。

これは会社からの退職金と同じ扱いで、一定額まで非課税になる仕組みです。

退職所得控除を活用すれば、受取時の税負担を大きく減らせる可能性があります。

ただし、会社の退職金とiDeCoの両方がある場合、受け取る順番や時期によって控除額が調整されるため、事前の理解が欠かせません。

退職所得控除の計算式

退職所得控除の金額は、勤続年数(iDeCoの場合は加入期間)によって決まります。

計算式は以下のとおりです。

退職所得控除の計算式

勤続年数20年以下の場合

40万円 × 勤続年数(最低80万円)

勤続年数20年超の場合

800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)

例えば、勤続年数30年の場合、退職所得控除額は「800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円」となります。

つまり、退職金やiDeCoの一時金が1,500万円以下であれば、全額非課税で受け取れるということです。

勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げて計算します。

国税庁:退職手当等に対する源泉徴収

iDeCoを一時金で受け取ると退職所得控除が使える

iDeCoの受取方法には「一時金」「年金」「併用」の3種類がありますが、一時金で受け取る場合には退職所得として扱われ、退職所得控除が適用されます。

退職所得の課税対象額は、(一時金の額 – 退職所得控除額) × 1/2 で計算されます。

控除後の金額がさらに2分の1になるため、税負担が大幅に軽減される仕組みです。

例えば、iDeCoの一時金が500万円で、加入期間が15年の場合、退職所得控除額は「40万円 × 15年 = 600万円」となります。この場合、500万円 < 600万円なので、税金は一切かかりません。

ただし、会社からの退職金も受け取る場合は、退職所得控除が調整される可能性があるため注意が必要です。

年金で受け取る場合は公的年金等控除

iDeCoを年金形式で受け取る場合は、「公的年金等控除」が適用されます。

これは国民年金や厚生年金と同じ扱いで、年齢と年金収入額に応じて一定額が控除される仕組みです。

  • 65歳未満の場合、年金収入が60万円以下であれば全額非課税
  • 65歳以上の場合は110万円以下であれば全額非課税

ただし、公的年金とiDeCoの年金を合算した金額で控除額が計算されるため、公的年金が多い人は控除枠を使い切ってしまい、iDeCo分に課税される可能性があります。

一時金と年金、どちらが有利かは個人の状況によって異なるため、慎重な判断が必要です。

国税庁:公的年金等の課税関係

退職金とiDeCoを受け取る順番で税金はどう変わる?

会社からの退職金とiDeCoの一時金を両方受け取る場合、受け取る順番によって税額が大きく変わります。

これは、退職所得控除の「重複期間の調整」というルールがあるためです。

具体的には、先に受け取った退職金等の勤続期間と、後に受け取る退職金等の勤続期間が重なっている場合、後に受け取る方の退職所得控除額が減額されます。

このルールを理解しておかないと、想定外の税金を払うことになりかねません。

退職金を先、iDeCoを後に受け取る場合

会社の退職金を先に受け取り、その後iDeCoを受け取る場合、「19年ルール」が適用されます。

19年ルール:退職金を受け取ってから19年以内にiDeCoを受け取ると、iDeCoの退職所得控除額が調整される

具体的には、退職金とiDeCoの加入期間が重複している部分について、iDeCoの退職所得控除額から差し引かれます。

例えば、勤続30年で退職金2,000万円を受け取り、その3年後にiDeCo(加入期間15年)の一時金500万円を受け取る場合を考えてみましょう。

退職金の退職所得控除額

800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円

iDeCoの退職所得控除額(本来)

40万円 × 15年 = 600万円

19年以内に受け取るため調整

重複期間(15年)分が調整され、iDeCoの退職所得控除額は「40万円 × (15年 – 15年) = 0円」

→ iDeCoの500万円全額が課税対象

この場合、退職金とiDeCoの受取時期を19年以上空けることで、iDeCoにも満額の退職所得控除を適用できます。

国税庁:退職所得控除額の計算方法

iDeCoを先、退職金を後に受け取る場合

iDeCoを先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、「5年ルール」が適用されます(2026年以降は10年ルールに変更予定)。

5年ルール:iDeCoを受け取ってから5年以内に退職金を受け取ると、退職金の退職所得控除額が調整される

この場合、先に受け取ったiDeCoの加入期間と重複する部分について、退職金の退職所得控除額から差し引かれます。

例えば、iDeCo(加入期間15年)の一時金500万円を受け取り、その2年後に勤続30年の退職金2,000万円を受け取る場合を考えてみましょう。

iDeCoの退職所得控除額

40万円 × 15年 = 600万円(全額適用)

退職金の退職所得控除額(本来)

800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円

5年以内に受け取るため調整

重複期間(15年)分が調整され、退職金の退職所得控除額は大幅に減額

→ 退職金2,000万円の課税対象額が増加

5年以上空けて受け取れば、両方に満額の控除を適用できます。

同時に受け取る場合

退職金とiDeCoを同じ年に受け取る場合、両方を合算して1つの退職所得として計算します。

この場合、勤続年数は長い方を採用し、退職所得控除額は1回分のみ適用されます。

例えば、勤続30年の退職金2,000万円とiDeCo(加入期間15年)の一時金500万円を同時に受け取る場合、合計2,500万円に対して、勤続年数30年分の退職所得控除(1,500万円)が適用されます。

課税対象額の計算

(2,500万円 – 1,500万円) × 1/2 = 500万円

この500万円に対して所得税・住民税が課税されます

同時受取は、受取時期を調整できない場合の選択肢となりますが、控除額が1回分しか使えないため、税負担は大きくなる傾向があります。

5年・10年・19年ルールとは|控除額の調整計算を理解する

退職所得控除には、複数の退職金等を受け取る際の「調整計算ルール」があります。

これが「5年ルール」「10年ルール」「19年ルール」と呼ばれるものです。

これらのルールは、同じ退職所得控除を二重に使えないようにするための仕組みで、受取順序や時期によって適用されるルールが異なります。

正確に理解しておかないと、予想外の税負担が発生する可能性があります。

19年ルール|退職金を先に受け取った場合

退職金を先に受け取り、その後にiDeCoを受け取る場合に適用されるのが「19年ルール」です。

退職金を受け取った年から19年以内にiDeCoを受け取ると、iDeCoの退職所得控除額が減額されます。

具体的には、以下の計算式で調整されます。

調整後のiDeCo退職所得控除額 = 本来の控除額 – (退職金の勤続年数と重複する期間 × 40万円または70万円)

例えば、勤続35年で退職金を受け取り、その5年後にiDeCo(加入期間20年)を受け取る場合、重複期間は20年となります。

この場合、iDeCoの退職所得控除額は「800万円 – (20年分の控除額)」となり、大幅に減額されます。

19年ルールを避けるには、退職金とiDeCoの受取時期を19年以上空けることが必要です。

ただし、実際には19年も待つのは現実的ではないため、受取順序を逆にする(iDeCoを先に受け取る)方が有効な場合が多いです。

国税庁:退職所得の計算

5年ルール|iDeCoを先に受け取った場合

iDeCoを先に受け取り、その後に退職金を受け取る場合に適用されるのが「5年ルール」です(2026年からは10年ルールに変更)。

iDeCoを受け取った年から5年以内に退職金を受け取ると、退職金の退職所得控除額が減額されます。

調整の計算方法は以下のとおりです。

調整後の退職金の退職所得控除額 = 本来の控除額 – (iDeCoの加入期間と重複する期間分の控除額)

例えば、iDeCo(加入期間15年)を受け取り、その3年後に勤続30年の退職金を受け取る場合、重複期間15年分が退職金の控除額から差し引かれます。

本来の退職金の控除額

1,500万円(勤続30年)

調整後の控除額

1,500万円 – 600万円(15年分)= 900万円

このように、5年以内に受け取ると控除額が大幅に減るため、可能であれば5年以上空けることが推奨されます。

ただし、2026年からは10年ルールに変更されるため、影響を受ける期間が長くなる点に注意が必要です。

重複期間の計算方法と端数処理

退職所得控除の調整計算では、「重複期間」の判定が重要になります。

重複期間とは、先に受け取った退職金等の勤続期間と、後に受け取った退職金等の勤続期間が重なっている期間のことです。

重複期間の計算では、以下のルールが適用されます。

  • 勤続年数(加入期間)に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げる
  • 重複期間の判定は、退職金等を受け取った「年」単位で行う

例えば、2020年4月にiDeCo(加入期間14年6ヶ月)を受け取り、2023年10月に退職金(勤続28年3ヶ月)を受け取る場合、iDeCoの加入期間は15年、退職金の勤続年数は29年に切り上げられます。

この場合、重複期間は15年となり、退職金の退職所得控除額から15年分が差し引かれます。

端数処理によって控除額が変わるため、受取時期を調整する際には月単位での計算も確認しておくと安心です。

2026年の税制改正で何が変わる?|10年ルールへの変更と影響

2026年(令和8年)1月1日以降、退職所得控除の調整ルールが改正されます。

これまでの「5年ルール」が「10年ルール」に変更されるため、iDeCoと退職金の受取戦略に影響が出る可能性があります。

この改正は、iDeCoの普及に伴い、退職金との受取時期の調整がしやすくなるよう配慮されたものですが、一方で調整期間が延びることで、税負担が増える人も出てくる点に注意が必要です。

5年ルールから10年ルールへの変更内容

改正後の10年ルールでは、iDeCoを先に受け取った場合、その後10年以内に退職金を受け取ると、退職金の退職所得控除額が調整されるようになります。

これまでは5年以内であれば調整されていましたが、改正後は10年以内に延長されるため、影響を受ける期間が2倍になります。

改正前(2025年まで)

iDeCo → 5年以内 → 退職金:退職金の控除額が調整される

改正後(2026年以降)

iDeCo → 10年以内 → 退職金:退職金の控除額が調整される

一方、退職金を先に受け取った場合の「19年ルール」は変更されません。

つまり、退職金 → 19年以内 → iDeCoの場合は、引き続きiDeCoの控除額が調整されます。

財務省:令和7年度税制改正大綱

改正の影響を受ける人・受けない人

この改正で影響を受けるのは、iDeCoを先に受け取り、その後6~10年以内に退職金を受け取る予定の人です。

これまでは5年空けば調整を避けられましたが、改正後は10年空けないと調整されてしまうため、税負担が増える可能性があります。

影響を受ける人
・60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る予定の人(5年間隔)
・早期退職でiDeCoを受け取り、その後再就職先で退職金を受け取る人
影響を受けない人
・iDeCoと退職金の受取時期が10年以上空いている人
・退職金を先に受け取り、iDeCoを後で受け取る人(19年ルールのまま)
・2025年12月31日までにiDeCoを受け取る人(経過措置の対象)

自分がどのケースに当てはまるか、受取時期を事前にシミュレーションしておくことが大切です。

経過措置の内容と注意点

2026年の改正には経過措置が設けられており、2025年12月31日までにiDeCoを受け取った場合は、改正前の5年ルールが適用されます。

つまり、2025年中にiDeCoを受け取れば、その後5年以内(2030年まで)に退職金を受け取っても、従来どおりの調整ルールが適用されるということです。

経過措置を活用する際の注意点

  • iDeCoの受取可能年齢(原則60歳以上)に達している必要がある
  • 2025年中に受け取ると、運用期間が短くなり、資産が十分に増えていない可能性がある
  • 受取時期を早めることで、公的年金との兼ね合いで税負担が増える場合がある

経過措置を利用するかどうかは、自分の退職時期やiDeCoの資産状況、公的年金の受給開始時期などを総合的に考慮して判断する必要があります。

税理士やファイナンシャルプランナーに相談することをおすすめします。

ケース別|自分に合った受取方法を選ぶ

退職所得控除のルールを理解したら、次は自分の状況に合った受取方法を選ぶことが重要です。

勤続年数、退職金の額、iDeCoの資産額によって、最適な受取戦略は変わります。

ここでは、代表的な4つのケースを取り上げ、それぞれの税額シミュレーションと推奨される受取方法を解説します。

自分に近いケースを参考にしてください。

【ケース1】勤続30年・退職金2000万円・iDeCo500万円の場合

このケースは、標準的な会社員が定年退職する際の典型例です。

退職金とiDeCoの両方があり、どちらも比較的まとまった金額になっています。

受取パターン 退職金の控除額 iDeCoの控除額 課税対象額 推定税額
退職金→3年後iDeCo 1,500万円 0円(19年ルール適用) 退職金250万円+iDeCo500万円 約110万円
iDeCo→3年後退職金 900万円(5年ルール適用) 600万円 退職金550万円 約80万円
iDeCo→6年後退職金 1,500万円 600万円 退職金250万円 約35万円
同時受取 1,500万円(合算) 500万円 約70万円

推奨:iDeCoを60歳で受け取り、退職金を65歳以降(6年以上空けて)受け取る

このパターンでは、両方の退職所得控除を満額使えるため、税負担を最小化できます。

ただし、2026年以降は10年ルールが適用されるため、10年以上空けることが必要になります。

【ケース2】勤続20年・退職金1000万円・iDeCo300万円の場合

このケースは、中堅企業に勤める会社員や、転職経験がある人の典型例です。

退職金とiDeCoの金額が比較的少なめです。

受取パターン 退職金の控除額 iDeCoの控除額 課税対象額 推定税額
退職金→3年後iDeCo 800万円 0円(19年ルール適用) 退職金100万円+iDeCo300万円 約50万円
iDeCo→3年後退職金 400万円(5年ルール適用) 400万円 退職金300万円 約40万円
iDeCo→6年後退職金 800万円 400万円 退職金100万円 約15万円
同時受取 800万円(合算) 250万円 約35万円

推奨:iDeCoを先に受け取り、退職金を6年以上空けて受け取る(2026年以降は10年)

このケースでは、退職金1,000万円が退職所得控除800万円に収まるため、控除を満額使えば課税対象は200万円、2分の1課税で100万円となります。

iDeCoも控除内に収まるため、両方を別々に受け取ることで税負担を大幅に減らせます。

【ケース3】退職金なし・iDeCoのみ500万円の場合

このケースは、自営業者やフリーランス、退職金制度のない企業に勤める人の典型例です。

iDeCoが老後資金の中心となります。

iDeCo加入期間 退職所得控除額 課税対象額 推定税額
10年 400万円 50万円 約7万円
15年 600万円 0円 0円
20年 800万円 0円 0円
30年 1,500万円 0円 0円

推奨:iDeCoを一時金で受け取る(加入期間が15年以上あれば非課税)

退職金がない場合、iDeCoの退職所得控除を満額使えるため、加入期間が十分にあれば非課税で受け取れます。

iDeCo500万円の場合、加入期間15年(控除額600万円)以上であれば、全額非課税となります。

【ケース4】早期退職・定年延長など想定外の場合

このケースは、当初の予定と異なる退職時期になった場合の対応例です。

早期退職や定年延長、転職などで受取時期を調整できない場合の戦略を考えます。

早期退職の場合(55歳で退職、iDeCo受取は60歳以降)
55歳で退職金を受け取り、60歳でiDeCoを受け取る場合、5年間隔なので19年ルールの影響を受けません。この場合、両方の退職所得控除を満額使えるため、税負担は最小化できます。
定年延長の場合(65歳まで勤務、iDeCoは60歳で受取可能)
60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る場合、5年間隔なので5年ルール(2026年以降は10年ルール)が適用されます。この場合、退職金の退職所得控除が減額されるため、iDeCoの受取を遅らせる(65歳以降に受け取る)か、年金形式で受け取ることを検討する必要があります。
転職して複数の退職金がある場合
複数の会社から退職金を受け取る場合、それぞれの退職金に対して退職所得控除の調整ルールが適用されます。受取順序と時期を工夫することで、税負担を減らせる可能性があります。個別のケースは複雑になるため、税理士への相談をおすすめします。

一時金・年金・併用|それぞれのメリット・デメリット

iDeCoの受取方法には「一時金」「年金」「併用」の3種類があります。

それぞれ税制上の扱いが異なるため、自分の状況に合った方法を選ぶことが重要です。

ここでは、各受取方法のメリット・デメリットを詳しく解説します。

税負担だけでなく、ライフプランや資金需要も考慮して選択しましょう。

一時金で受け取るメリット・デメリット

メリット デメリット
退職所得控除が適用され、税負担が軽減される(特に加入期間が長い場合) 会社の退職金と受取時期が近いと、退職所得控除の調整により税負担が増える
まとまった資金を一度に受け取れるため、住宅ローンの完済や大きな支出に充てられる 一度に大きな金額を受け取ると、使いすぎてしまうリスクがある
受取後の資金を自分で運用できる(NISAなどで再投資も可能) 受取後の運用に失敗すると、老後資金が減ってしまう可能性がある
年金形式に比べて手続きがシンプル

一時金受取は、退職所得控除を最大限活用できる場合に最も有利です。

特に、退職金がない人や、iDeCoと退職金の受取時期を十分に空けられる人におすすめです。

厚生労働省:iDeCo公式サイト

年金で受け取るメリット・デメリット

メリット デメリット
公的年金等控除が適用され、一定額まで非課税(65歳以上は年110万円まで) 公的年金と合算されるため、公的年金が多い人は控除枠を使い切れず課税される
毎年一定額を受け取るため、計画的な資金管理がしやすい 年金受取には手数料がかかる金融機関が多い(年間数百円~数千円)
受取期間中も運用が継続されるため、資産が増える可能性がある 受取期間中に金融機関が破綻するリスクがある(ただし保護制度あり)
使いすぎを防げる まとまった資金が必要な場合に対応しにくい

年金受取は、公的年金が少ない人や、計画的に資金を使いたい人におすすめです。

ただし、公的年金と合算して控除額を超える場合は、一時金の方が有利になる可能性があります。

併用で受け取るメリット・デメリット

メリット デメリット
一時金と年金の両方の控除を活用できる 手続きが複雑になる
必要な資金は一時金で受け取り、残りを年金で受け取ることで柔軟な資金計画が可能 一時金部分と年金部分の配分を適切に決める必要がある
税負担を分散できる 金融機関によっては併用に対応していない場合がある
税額計算が複雑になり、専門家への相談が必要になることが多い

併用は、退職所得控除を使い切れない場合や、まとまった資金需要と継続的な収入の両方が必要な場合におすすめです。

ただし、最適な配分を決めるには専門的な知識が必要なため、ファイナンシャルプランナーや税理士に相談することをおすすめします。

受取時期を決める前に確認すべきこと

iDeCoと退職金の受取時期を決める前に、確認しておくべき重要なポイントがあります。

税制だけでなく、制度上の制約やライフプラン全体を考慮することが大切です。

ここでは、受取時期を決定する際のチェックリストを紹介します。

これらを確認してから、最終的な判断をしましょう。

退職金の支給時期と金額を確認する

まず、会社の退職金制度を正確に把握することが重要です。

以下の点を確認しましょう。

  • 退職金の支給時期(退職日の翌月、3ヶ月後など)
  • 退職金の支給額(勤続年数・役職・給与に基づく計算式)
  • 退職金の支給方法(一時金のみ、年金との選択制など)
  • 企業型DCがある場合の取扱い(一時金に含まれるか、別扱いか)

退職金の金額が予想より多い場合、退職所得控除を使い切れない可能性があります。

逆に少ない場合は、iDeCoと合算しても控除内に収まる可能性があります。

会社の人事部や総務部に確認し、正確な情報を入手しましょう。

iDeCoの受取可能時期を確認する

iDeCoは、原則として60歳から受け取ることができますが、加入期間によって受取可能年齢が異なります。

  • 加入期間10年以上:60歳から受取可能
  • 加入期間8年以上10年未満:61歳から受取可能
  • 加入期間6年以上8年未満:62歳から受取可能
  • 加入期間4年以上6年未満:63歳から受取可能
  • 加入期間2年以上4年未満:64歳から受取可能
  • 加入期間2年未満:65歳から受取可能

また、iDeCoは75歳までに受け取る必要があります。

受取時期を遅らせすぎると、選択肢が狭まる可能性があるため注意が必要です。

自分のiDeCo加入期間を確認し、受取可能時期を把握しておきましょう。

公的年金の受給開始時期を考慮する

iDeCoを年金形式で受け取る場合、公的年金等控除が適用されますが、公的年金と合算されるため、受給開始時期の調整が重要になります。

  • 公的年金の繰り下げ受給(66歳以降に受給開始)を検討している場合、iDeCoを先に年金で受け取ることで控除枠を有効活用できる
  • 公的年金を65歳から受け取る場合、iDeCoを年金で受け取ると控除枠を超えて課税される可能性がある
  • 公的年金が少ない人は、iDeCoを年金で受け取っても控除内に収まる可能性が高い

公的年金の受給額は、ねんきん定期便や「ねんきんネット」で確認できます。

iDeCoの受取方法を決める前に、公的年金の見込額を把握しておきましょう。

住民税も含めた実質手取り額を計算する

退職所得や年金には、所得税だけでなく住民税もかかります。

税額を正確に把握するには、両方を含めて計算する必要があります。

退職所得の税率

所得税:課税対象額に応じて5%~45%の累進税率

住民税:一律10%

復興特別所得税:所得税額の2.1%

例えば、課税対象額が200万円の場合、所得税率は10%なので、所得税20万円、復興特別所得税4,200円、住民税20万円、合計約40万円の税負担となります。

実質的な手取り額を計算する際には、これらの税金を差し引いた金額を考慮する必要があります。

金融機関のシミュレーションツールや、税理士への相談を活用して、正確な試算を行いましょう。

国税庁:所得税の税率

確定申告が必要になるケースと手続き

iDeCoや退職金を受け取った場合、確定申告が必要になるケースがあります。

特に、複数の退職金等を受け取った場合や、年金形式で受け取った場合は注意が必要です。

ここでは、確定申告が必要なケースと、具体的な手続き方法を解説します。

申告漏れがあると追徴課税の対象になる可能性があるため、しっかり確認しましょう。

確定申告が必要なケース

以下のケースでは、確定申告が必要になります。

1. 退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合

iDeCoや退職金を受け取る際、「退職所得の受給に関する申告書」を金融機関や会社に提出していない場合、一律20.42%の源泉徴収が行われます。この場合、確定申告をすることで、正しい税額との差額が還付される可能性があります。

2. 複数の退職金等を同じ年に受け取った場合

同じ年に複数の退職金やiDeCoを受け取った場合、それぞれの源泉徴収では正しい税額が計算されていない可能性があります。確定申告をすることで、正しい税額に調整されます。

3. 年金形式で受け取り、源泉徴収されていない場合

iDeCoを年金形式で受け取る場合、年間の受取額が一定額以下であれば源泉徴収されないことがあります。この場合、他の所得と合算して確定申告が必要になります。

4. 他の所得と合算して確定申告が必要な場合

給与所得や事業所得など、他の所得がある場合、年金形式で受け取ったiDeCoを合算して確定申告する必要があります。

確定申告の手続き方法と必要書類

確定申告は、受け取った年の翌年2月16日~3月15日に行います。

以下の書類を準備しましょう。

必要書類

  • 源泉徴収票(退職所得、年金所得)
  • 退職所得の源泉徴収票(会社やiDeCo運営機関から発行)
  • 公的年金等の源泉徴収票(年金形式で受け取った場合)
  • マイナンバーカード(または通知カード+本人確認書類)
  • 還付先の銀行口座情報

手続き方法

1. 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」にアクセス
2. 退職所得・年金所得の情報を入力
3. 退職所得控除の計算(複数の退職金がある場合は調整計算)
4. 源泉徴収税額と正しい税額の差額を計算
5. 還付または納税の手続き

確定申告が複雑な場合は、税理士に依頼することをおすすめします。

特に、複数の退職金がある場合や、退職所得控除の調整計算が必要な場合は、専門家のサポートを受けることで正確な申告ができます。

国税庁:確定申告書等作成コーナー

よくある質問(Q&A)

よくある質問
企業型DCとiDeCoの両方がある場合はどうなる?

企業型DCとiDeCoの両方に加入している場合、それぞれを別々に受け取ることも、同時に受け取ることもできます。税制上は、両方とも退職所得として扱われるため、受取時期によって退職所得控除の調整ルールが適用されます。企業型DCを先に受け取り、その後iDeCoを受け取る場合は19年ルール、iDeCoを先に受け取る場合は5年ルール(2026年以降は10年ルール)が適用されます。最適な受取順序は個人の状況によって異なるため、税理士に相談することをおすすめします。

受取時期を調整できない場合はどうすればいい?

会社都合の早期退職や、健康上の理由で退職時期を調整できない場合は、以下の対策を検討しましょう。1つ目は、iDeCoの受取方法を年金形式に変更することです。年金形式であれば公的年金等控除が適用され、一時金とは異なる税制になります。2つ目は、併用受取を選択し、一時金部分を退職所得控除の範囲内に抑え、残りを年金で受け取る方法です。3つ目は、確定申告で正しい税額に調整することです。源泉徴収で多く税金を払いすぎている場合、還付を受けられる可能性があります。

金融機関によって受取方法の選択肢は違う?

はい、金融機関によって受取方法の選択肢は異なります。一時金のみ、年金のみ、併用可能など、金融機関ごとに対応が異なるため、iDeCoに加入する際に確認しておくことが重要です。また、年金受取の場合、受取期間(5年、10年、15年、20年など)や受取頻度(年1回、年2回など)も金融機関によって異なります。年金受取には手数料がかかる場合が多く、金融機関によって手数料額も異なるため、受取方法を決める前に確認しましょう。

配偶者の退職金も考慮すべき?

はい、配偶者も退職金やiDeCoがある場合、世帯全体で最適化を考えることが重要です。例えば、夫婦で退職時期が近い場合、両方が同じ年に退職金を受け取ると、世帯の所得が増えて社会保険料や税負担が増える可能性があります。受取時期をずらすことで、税負担を分散できる場合があります。また、配偶者の公的年金が少ない場合、iDeCoを年金形式で受け取ることで公的年金等控除を有効活用できる可能性があります。世帯全体での最適化は複雑になるため、ファイナンシャルプランナーに相談することをおすすめします。

まとめ

iDeCoと退職金の受取時には、退職所得控除という税制優遇を活用できますが、受け取る順番や時期によって税額が大きく変わります。

特に重要なのは、5年・10年・19年ルールという調整計算の仕組みです。

退職金を先に受け取ると19年以内はiDeCoの控除が減額され、iDeCoを先に受け取ると5年以内(2026年以降は10年以内)は退職金の控除が減額されます。

最適な受取方法は、勤続年数、退職金の額、iDeCoの資産額、公的年金の受給状況によって異なります。

自分の状況に合ったシミュレーションを行い、必要に応じて税理士やファイナンシャルプランナーに相談することが大切です。

2026年の税制改正で5年ルールが10年ルールに変わるため、今後受け取る予定の人は、改正の影響を考慮して計画を立てる必要があります。

経過措置もあるため、自分が対象になるかどうかを確認しましょう。

なお、個別の税務相談は税理士にご相談ください。計算例はあくまで参考であり、実際の税額は個人の状況により異なります。最新の税制情報は国税庁など公的機関でご確認ください。投資判断はご自身の責任で行ってください。

SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
SOICO株式会社
慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

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