iDeCo改悪は本当?2026年改正の影響と対策を解説

iDeCo改悪は本当?2026年改正の影響と対策を解説

「iDeCo改悪」という言葉を目にして、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

2026年1月から、iDeCoの退職所得控除に関する税制が変更されます。

この改正により、退職金とiDeCoを同時期に受け取る場合、税負担が増える可能性があります

ただし、すべての人が影響を受けるわけではなく、むしろ掛金上限の引き上げなど改善点もあります。

本記事では、2026年改正の具体的な内容と、影響を受ける人・受けない人の違い、そして今からできる対策まで詳しく解説します。

冷静に制度を理解して、ご自身に最適な資産形成プランを立てましょう。

この記事の要約
  • 2026年から退職所得控除の5年ルールが10年ルールに変更され、税負担が増える可能性がある
  • 影響を受けるのは退職金とiDeCoを近い時期に受け取る会社員、影響を受けないのは退職金がない人や受取時期を十分に離せる人
  • 改正前の駆け込み対策や、受取タイミングの調整、年金形式での受取など、税負担を減らす方法がある
SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
SOICO株式会社
慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

目次

iDeCo改悪とは?|2026年からの変更点

2026年1月から、iDeCoの受取時に適用される退職所得控除の計算ルールが変更されます。これが「iDeCo改悪」と呼ばれる理由です。

具体的には、企業の退職金とiDeCoを受け取る際の「5年ルール」が「10年ルール」に延長されることで、一部の人の税負担が増える可能性があります。

ただし、この改正はすべての人に影響するわけではありません。退職金がない人や、受取時期を十分に離せる人は影響を受けません。まずは改正内容を正確に理解することが大切です。

5年ルールから10年ルールへの変更

現行の制度では、退職金とiDeCoの受取時期が5年以上離れていれば、それぞれ独立して退職所得控除を計算できます。これを「5年ルール」と呼びます。

たとえば、60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る場合、それぞれに退職所得控除が適用されるため、税負担が軽減されていました。

しかし2026年1月からは、この期間が「10年」に延長されます。つまり、退職金とiDeCoの受取時期が10年以内の場合、退職所得控除が重複適用されず、控除額が減少する可能性があります。

60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る場合、これまでは問題なかったケースでも、改正後は税負担が増えることになります。

退職所得控除の仕組みをおさらい

退職所得控除とは、退職金やiDeCoを一時金で受け取る際に適用される税制優遇制度です。退職金は長年の勤労の対価であるため、通常の所得よりも税負担が軽くなるよう配慮されています。

控除額の計算方法は、勤続年数(iDeCoの場合は加入期間)によって決まります。

  • 勤続年数20年以下の場合:40万円×勤続年数
  • 20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

たとえば勤続30年の場合、退職所得控除額は1,500万円(800万円+70万円×10年)です。

退職金やiDeCoの受取額から、この控除額を差し引いた金額の2分の1が課税対象となります。つまり、退職所得控除の範囲内であれば税金がかからず、超えた部分も半分しか課税されないという、非常に優遇された制度なんですね。

この控除が適切に使えるかどうかで、手取り額が大きく変わってきます。2026年の改正は、この控除の適用ルールが変わるため、「改悪」と呼ばれているわけです。

国税庁「株式等の譲渡所得等の課税」

改正で影響を受ける人・受けない人

2026年の改正は、すべてのiDeCo加入者に影響するわけではありません。影響を受けるかどうかは、主に「退職金の有無」と「受取時期」によって決まります。

ご自身がどちらに該当するかを確認することで、今後の対策が見えてきます。

影響を受けるのはこんな人

最も影響を受けるのは、退職金制度がある企業に勤める会社員で、退職金とiDeCoの受取時期が10年以内になる人です。

典型的なケースとしては、60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る予定の方が該当します。

具体的には、40代〜50代で既にiDeCoに加入しており、退職金が1,000万円以上見込まれる方は要注意です。

現行制度では5年離れていれば問題なかったのが、10年離さないと控除が減額されるため、税負担が増える可能性があります。

また、企業型DCとiDeCoの両方に加入している方も影響を受けやすいです。企業型DCも退職所得控除の対象となるため、受取時期の調整がより複雑になります。転職経験があり、複数の退職金を受け取る予定の方も、それぞれの受取時期を慎重に検討する必要があります。

影響を受けないのはこんな人

退職金制度がない企業に勤める方や、自営業・フリーランスの方は、基本的に影響を受けません。

iDeCoのみを受け取る場合、他の退職金との調整が不要なため、従来どおりの控除が受けられます。

また、退職金とiDeCoの受取時期を10年以上離すことができる方も影響を受けません。たとえば、55歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る場合や、逆に65歳で退職金を受け取った後、75歳でiDeCoを受け取る場合は、それぞれ独立して控除が適用されます。

さらに、iDeCoの残高が少ない方(数百万円程度)も、退職所得控除の範囲内に収まる可能性が高いため、実質的な影響は小さいでしょう。20代〜30代でこれからiDeCoを始める方は、受取時期の調整がしやすいため、計画的に対応できます。

自分はどちらか判断するポイント

ご自身が影響を受けるかどうかを判断するには、以下のポイントをチェックしてください。

  • 勤務先に退職金制度があるか(退職金規程を確認)
  • 退職金の見込み額はいくらか(人事部に確認または退職金シミュレーション)
  • iDeCoの受取予定時期はいつか(60歳〜75歳の間で選択可能)
  • 退職予定時期はいつか(定年退職または早期退職の予定)
  • 企業型DCにも加入しているか
  • 転職経験があり、複数の退職金があるか

これらの情報を整理することで、受取時期の調整が必要かどうかが見えてきます。

特に退職金とiDeCoの受取時期が5年〜10年の間に収まりそうな方は、早めに対策を検討することをおすすめします。

判断が難しい場合は、税理士やファイナンシャルプランナーに相談することで、より正確なシミュレーションができます。

具体的にどれくらい税負担が増える?|シミュレーション

「改正で税負担が増える」と言われても、具体的にいくら増えるのか分からないと不安ですよね。

ここでは、年収や退職金額、iDeCo残高の違いによって、税負担がどのように変わるのかを具体的にシミュレーションします。

退職金2,000万円・iDeCo500万円のケース

まずは、大企業の会社員で退職金が比較的多いケースを見てみましょう。勤続30年で退職金2,000万円、iDeCo加入15年で残高500万円の場合を想定します。

現行制度(5年ルール適用)の場合:60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取ると、それぞれ独立して退職所得控除が適用されます。

iDeCoの控除額は600万円(40万円×15年)、退職金の控除額は1,500万円(800万円+70万円×10年)となり、どちらも控除の範囲内に収まるため、税負担はほぼゼロです。

改正後(10年ルール適用)の場合:同じ受取方法では、退職所得控除が重複適用されず、退職金2,000万円から控除額1,500万円を引いた500万円の半分、つまり250万円が課税対象となります。

所得税・住民税を合わせて約50万円の税負担が発生する可能性があります。

この場合、受取時期を10年以上離すか、年金形式での受取を検討することで、税負担を軽減できます。具体的な対策は後ほど詳しく解説します。

退職金1,000万円・iDeCo800万円のケース

次に、中小企業の会社員で、退職金は少なめだがiDeCoをしっかり積み立ててきたケースです。勤続25年で退職金1,000万円、iDeCo加入20年で残高800万円を想定します。

現行制度の場合:iDeCoの控除額は800万円(40万円×20年)、退職金の控除額は1,150万円(800万円+70万円×5年)となり、iDeCoはちょうど控除の範囲内、退職金も控除内に収まるため、税負担はほぼゼロです。

改正後の場合:10年ルールが適用されると、退職金とiDeCoの合計1,800万円から、控除額1,150万円を引いた650万円の半分、325万円が課税対象となります。

所得税・住民税を合わせて約65万円の税負担が発生する可能性があります。

このケースでは、iDeCoの残高が大きいため、一時金ではなく年金形式で受け取ることで、公的年金等控除を活用し、税負担を分散させる方法が有効です。

退職金なし・iDeCoのみのケース

最後に、退職金制度がない企業に勤める方や、自営業・フリーランスの方のケースです。iDeCo加入25年で残高1,000万円を想定します。

現行制度でも改正後でも:退職金がないため、iDeCoのみの退職所得控除が適用されます。

控除額は1,150万円(800万円+70万円×5年)となり、iDeCo残高1,000万円は全額控除の範囲内に収まります。したがって、税負担はゼロです。

このように、退職金がない方は今回の改正の影響を受けません。むしろ、2026年からの掛金上限引き上げなど、改善点の恩恵を受けられる可能性があります。

改正前にできる対策|2025年12月までの駆け込みプラン

2026年1月の改正施行まで、まだ時間があります。この期間を活用して、税負担を最小限に抑える対策を立てることができます。

ここでは、改正前の限られた期間でできる具体的な駆け込みプランをご紹介します。

受取時期を前倒しできるか確認する

最も効果的な対策の一つが、iDeCoの受取時期を前倒しすることです。iDeCoは60歳から受取可能ですが、現在の年齢によっては、2025年12月までに受け取ることで、現行の5年ルールを適用できます。

たとえば、現在59歳で2025年中に60歳になる方は、60歳到達後すぐに受取手続きを開始すれば、改正前のルールが適用されます。その後、65歳で退職金を受け取る場合、5年ルールにより、それぞれ独立した控除が受けられます。

ただし、前倒し受取には注意点もあります。iDeCoは老後資金のための制度なので、早期に受け取ることで、その後の生活資金が不足する可能性があります。また、一度受け取ると再度積み立てることはできません。

前倒しを検討する際は、他の資産状況や今後のライフプランを総合的に考慮してください。

掛金の増額・減額を検討する

改正後の税負担を軽減するために、掛金の調整を検討するのも一つの方法です。現在の掛金が少ない場合、2025年12月までに増額することで、iDeCoの残高を増やし、退職所得控除を最大限活用できます。

逆に、iDeCoの残高が既に十分にある場合は、掛金を減額または停止し、退職金との合計額が控除の範囲内に収まるよう調整することも考えられます。

ただし、iDeCoは所得控除のメリットがあるため、減額する場合は税制メリットを手放すことになります。

掛金の変更は、加入している金融機関に申請することで可能です。変更手続きには時間がかかる場合があるので、早めに確認しておきましょう。

金融機関の受取オプションを確認する

iDeCoの受取方法は、金融機関によって選択肢が異なります。一時金のみ、年金のみ、または一時金と年金の併用など、複数のオプションがある場合があります。

ご自身が加入している金融機関の受取オプションを確認し、最も有利な方法を選択できるようにしておきましょう。

また、受取手続きの開始時期や必要書類についても、事前に確認しておくことをおすすめします。60歳到達の数ヶ月前から手続きを開始できる金融機関もあるので、スムーズに受け取るための準備を進めてください。

金融機関によっては、受取方法の相談窓口やシミュレーションツールを提供している場合もあります。これらを活用して、ご自身に最適な受取プランを立てましょう。

改正後の受取戦略|税負担を減らす3つの方法

2026年の改正後も、適切な受取戦略を立てることで、税負担を最小限に抑えることができます。ここでは、改正後に有効な3つの受取方法をご紹介します。

受取タイミングを調整する

最も基本的な対策は、退職金とiDeCoの受取時期を10年以上離すことです。

これにより、それぞれ独立した退職所得控除が適用され、税負担を大幅に軽減できます。

具体的には、60歳でiDeCoを受け取る場合、退職金の受取は70歳以降にする、または逆に65歳で退職金を受け取った後、75歳でiDeCoを受け取るといった方法があります。iDeCoは75歳まで受取を繰り延べることができるため、柔軟な計画が可能です。

ただし、受取時期を遅らせる場合は、その間の生活資金を確保しておく必要があります。公的年金や他の資産でカバーできるか、事前にシミュレーションしておきましょう。

年金形式での受取を検討する

一時金ではなく、年金形式でiDeCoを受け取ることで、公的年金等控除を活用できます。年金形式の場合、毎年受け取る金額に対して控除が適用されるため、一時金で受け取るよりも税負担が分散されます。

公的年金等控除は、65歳未満で最低60万円、65歳以上で最低110万円が控除されます。

たとえば、iDeCoを10年間の年金形式で受け取る場合、毎年の受取額が控除の範囲内に収まれば、税負担をゼロにすることも可能です。

ただし、年金形式での受取には注意点もあります。公的年金と合算した金額が控除を超えると、所得税だけでなく住民税や国民健康保険料も増える可能性があります。詳しくは後ほど解説します。

一時金と年金の併用を活用する

多くの金融機関では、iDeCoの一部を一時金で受け取り、残りを年金形式で受け取る「併用」が可能です。この方法を活用することで、退職所得控除と公的年金等控除の両方を利用でき、税負担を最適化できます。

たとえば、iDeCo残高800万円のうち、400万円を一時金で受け取り、残り400万円を年金形式で受け取る方法があります。一時金部分は退職所得控除の範囲内に収め、年金部分は公的年金等控除を活用することで、全体の税負担を抑えられます。

併用の比率は、ご自身の退職金額やiDeCo残高、公的年金の見込み額によって最適な配分が異なります。税理士やファイナンシャルプランナーに相談して、シミュレーションすることをおすすめします。

企業型DCとiDeCoを併用している場合の注意点

企業型DCとiDeCoの両方に加入している方は、受取戦略がより複雑になります。それぞれの受取時期や方法を適切に調整することで、税負担を最小限に抑えることができます。

企業型DCとiDeCoの受取順序を考える

企業型DCとiDeCoは、それぞれ異なる時期に受け取ることができます。一般的には、企業型DCは退職時、iDeCoは60歳以降に受け取ることが多いですが、受取順序を工夫することで、退職所得控除を有効活用できます。

たとえば、60歳で退職し、企業型DCとiDeCoの両方を受け取る場合、同時に受け取ると控除が重複適用されません。しかし、企業型DCを60歳で受け取り、iDeCoを70歳で受け取る(10年離す)ことで、それぞれ独立した控除が適用されます。

また、企業型DCを一時金で受け取り、iDeCoを年金形式で受け取るといった組み合わせも有効です。ご自身の状況に合わせて、最適な順序を検討してください。

19年ルールとの組み合わせパターン

退職所得控除には「19年ルール」という別の規定もあります。これは、前回の退職金受取から19年以上経過していれば、再度フルに退職所得控除が使えるというルールです。

たとえば、40歳で一度転職して退職金を受け取り、60歳で再度退職金を受け取る場合、20年経過しているため、60歳時点で再度フルに控除が適用されます。この場合、iDeCoの受取時期を調整することで、さらに控除を最大化できます。

19年ルールと10年ルールの組み合わせは複雑なので、転職経験がある方は、税理士に相談して正確なシミュレーションを行うことをおすすめします。

マッチング拠出との比較

企業型DCに加入している方は、iDeCoではなく「マッチング拠出」を選択することもできます。マッチング拠出とは、企業が拠出する掛金に加えて、従業員自身も掛金を上乗せする制度です。

マッチング拠出とiDeCoのどちらが有利かは、企業の制度内容や個人の状況によって異なります。マッチング拠出は企業型DCと一体で管理されるため、受取時の手続きがシンプルになるメリットがあります。一方、iDeCoは金融機関や運用商品を自由に選べるメリットがあります。

2026年の改正後は、受取時の税制も考慮して、どちらが有利か再検討する価値があります。勤務先の人事部やファイナンシャルプランナーに相談して、最適な選択をしてください。

改悪だけじゃない!改正で良くなる3つのポイント

ここまで「改悪」と呼ばれる部分を中心に解説してきましたが、実は2026年の改正には改善点もあります。

退職所得控除のルール変更ばかりが注目されがちですが、掛金上限の引き上げや加入可能年齢の拡大など、プラスの変更も含まれています。

掛金の上限が大幅に引き上げ

2024年12月から、iDeCoの掛金上限が大幅に引き上げられました。

これまで企業型DCに加入している会社員は、月額2万円までしか拠出できませんでしたが、改正後は企業型DCの拠出額との合計で月額5.5万円まで拠出できるようになります。

たとえば、企業型DCで月額2万円拠出している場合、iDeCoで月額3.5万円まで拠出できるようになります。これにより、所得控除の額が増え、税制メリットを最大限活用できます。

加入可能年齢が拡大

従来、iDeCoは60歳までしか加入できませんでしたが、2022年の改正で65歳まで加入可能になりました。さらに、受取開始年齢も70歳から75歳に引き上げられています。

これにより、60歳以降も働き続ける方は、より長くiDeCoで資産形成を続けられます。また、受取時期を遅らせることで、退職金との受取時期を10年以上離すことも容易になります。

人生100年時代と言われる中、長く働き、長く資産形成できる制度設計は、多くの人にとってメリットとなるでしょう。

企業型DCとの併用がしやすくなる

これまで、企業型DCとiDeCoを併用するには、企業の規約変更が必要でした。しかし、2022年の改正により、企業の規約変更なしで併用できるようになりました。

これにより、企業型DCに加入している会社員でも、iDeCoを気軽に始められるようになりました。企業型DCだけでは掛金が少ないと感じている方は、iDeCoを追加することで、より多くの資産を形成できます。

ただし、企業型DCとiDeCoの併用には、前述のとおり受取時の税制に注意が必要です。メリットとデメリットを理解した上で、活用してください。

NISAとの使い分け|iDeCoを続けるべき?

2024年から新NISA制度が始まり、「iDeCoとNISAのどちらを優先すべきか」という疑問を持つ方も多いでしょう。

2026年の改正を受けて、iDeCoを続けるべきか、それともNISAに切り替えるべきか、判断のポイントを解説します。

iDeCoのメリット・デメリット

項目 メリット デメリット
税制優遇 掛金が全額所得控除、運用益非課税、受取時も退職所得控除または公的年金等控除 受取時に10年ルールの影響を受ける可能性
運用 定期預金など元本確保型商品も選択可能 運用商品の選択肢が限定的
引出し 老後資金として確実に残せる 60歳まで原則引き出し不可
手数料 所得控除のメリットが大きい 口座管理手数料がかかる

iDeCoの最大のメリットは、掛金が全額所得控除される点です。年収が高い方ほど、節税効果が大きくなります。ただし、60歳まで引き出せない点と、受取時の税制が複雑になる点がデメリットです。

NISAのメリット・デメリット

項目 メリット デメリット
税制優遇 運用益が非課税(最大1,800万円まで) 掛金の所得控除なし
運用 投資信託、個別株など選択肢が豊富 元本確保型商品はなし
引出し いつでも自由に引き出し可能 引き出しの誘惑に負けやすい
手数料 口座管理手数料なし 特になし

NISAのメリットは、いつでも引き出せる柔軟性と、運用商品の選択肢の広さです。老後資金だけでなく、住宅購入や教育資金など、さまざまな目的に使えます。ただし、掛金の所得控除がないため、節税効果はiDeCoより劣ります。

金融庁「NISA(少額投資非課税制度)の概要」

どちらを優先すべきか判断する基準

基本的には、iDeCoとNISAの両方を活用するのが理想です。

ただし、資金に限りがある場合は、以下の基準で優先順位を決めてください。

iDeCoを優先すべき人
年収が高く所得控除のメリットが大きい人、60歳まで確実に引き出さない自信がある人、老後資金を確実に準備したい人
NISAを優先すべき人
年収が低く所得控除のメリットが小さい人、近い将来に資金が必要になる可能性がある人、柔軟に資産を活用したい人

また、2026年の改正で退職金との調整が複雑になる方は、iDeCoの掛金を減らし、その分をNISAに振り向けることも検討する価値があります。ご自身のライフプランや税制メリットを総合的に考慮して、最適なバランスを見つけてください。

年金形式で受け取る場合の注意点

iDeCoを年金形式で受け取ることで、税負担を分散できるメリットがありますが、いくつか注意すべき点もあります。特に、公的年金との合算による影響を理解しておくことが重要です。

公的年金等控除の仕組み

年金形式でiDeCoを受け取る場合、公的年金等控除が適用されます。この控除額は、年齢と年金収入の合計額によって決まります。

65歳未満の場合、最低60万円の控除があり、65歳以上の場合は最低110万円の控除があります。

たとえば、65歳以上で公的年金が年間150万円、iDeCoの年金受取が年間50万円の場合、合計200万円から控除額110万円を引いた90万円が課税対象となります。この金額に所得税と住民税が課税されます。

公的年金の受取額が多い方は、iDeCoを年金形式で受け取ると、控除を超える部分が増え、税負担が大きくなる可能性があります。公的年金の見込み額を確認した上で、受取方法を検討してください。

住民税・国民健康保険料への影響

年金形式での受取で見落としがちなのが、住民税や国民健康保険料への影響です。

公的年金とiDeCoの年金を合算した所得が増えると、住民税だけでなく、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料も増える可能性があります。

特に、所得が一定額を超えると、国民健康保険料の軽減措置が受けられなくなることがあります。また、後期高齢者医療保険料の負担割合(1割または3割)も所得によって変わります。

年金形式での受取を検討する際は、所得税だけでなく、住民税や社会保険料も含めた総合的な負担を試算することをおすすめします。お住まいの自治体の窓口や、ファイナンシャルプランナーに相談すると良いでしょう。

年金形式が向いている人・向いていない人

年金形式が向いているのは、公的年金の受取額が少なく、公的年金等控除の範囲内に収まる人です。また、一時金で受け取ると退職所得控除を超えてしまう人も、年金形式を検討する価値があります。

一方、年金形式が向いていないのは、公的年金の受取額が既に多く、控除を大きく超えている人です。この場合、iDeCoを年金形式で受け取ると、さらに課税所得が増え、税負担や社会保険料が増える可能性があります。

ご自身の公的年金の見込み額、iDeCoの残高、退職金の有無などを総合的に考慮して、最適な受取方法を選択してください。

よくある質問|iDeCo改正Q&A

よくある質問
改正はいつから適用される?

改正は2026年1月1日から適用されます。2025年12月31日までに受け取りを開始した分については、現行の5年ルールが適用されます。

すでに積み立てている資産も影響を受ける?

はい、既に積み立てている資産も、受取時期が2026年1月1日以降であれば、新しい10年ルールが適用されます。ただし、2025年12月31日までに受取を開始すれば、現行ルールが適用されます。

今から新規加入しても遅くない?

遅くありません。特に退職金がない方や、受取時期を柔軟に調整できる方は、改正後も十分にメリットがあります。また、掛金上限の引き上げなど、改善点もあるため、今から始めても遅くはありません。

金融機関を変更する必要はある?

必ずしも変更する必要はありませんが、受取方法のオプション(一時金・年金・併用)が充実している金融機関を選ぶことで、税負担を最適化しやすくなります。現在の金融機関の受取オプションを確認し、必要に応じて変更を検討してください。

配偶者のiDeCoとの合算受取は可能?

iDeCoは個人単位の制度なので、配偶者のiDeCoと合算して受け取ることはできません。それぞれ独立して受取方法を選択します。ただし、世帯全体で見た場合、夫婦の受取時期をずらすことで、世帯の税負担を最適化することは可能です。

受取前に死亡した場合はどうなる?

iDeCoの加入者が受取前に死亡した場合、遺族が死亡一時金として受け取ります。この場合、退職所得控除ではなく、相続税の対象となります。ただし、「500万円×法定相続人の数」まで非課税となる控除があります。

税理士やFPに相談すべき?

受取戦略が複雑な場合や、退職金・企業型DC・iDeCoの組み合わせがある場合は、税理士やファイナンシャルプランナーに相談することをおすすめします。個別の状況に応じた最適なシミュレーションができます。

シミュレーションツールはある?

多くの金融機関や証券会社が、iDeCoの受取シミュレーションツールを提供しています。また、国税庁のウェブサイトでも、退職所得の計算ツールが利用できます。これらを活用して、ご自身の状況に合わせた試算をしてみてください。

まとめ

2026年1月からのiDeCo改正では、退職所得控除の5年ルールが10年ルールに変更されます。これにより、退職金とiDeCoを近い時期に受け取る会社員の方は、税負担が増える可能性があります。

ただし、すべての人が影響を受けるわけではありません。退職金がない方や、受取時期を10年以上離せる方は影響を受けません。また、掛金上限の引き上げや加入可能年齢の拡大など、改善点もあります。

改正前の2025年12月までに受取を開始する、受取時期を調整する、年金形式で受け取る、一時金と年金を併用するなど、さまざまな対策があります。

ご自身の退職金の有無、iDeCoの残高、公的年金の見込み額などを総合的に考慮して、最適な受取戦略を立ててください。

複雑な判断が必要な場合は、税理士やファイナンシャルプランナーに相談することで、より正確なシミュレーションができます。冷静に制度を理解し、長期的な視点で資産形成を続けていきましょう。

なお、投資には元本割れのリスクがあります。iDeCoの運用商品を選択する際は、ご自身のリスク許容度に合わせて慎重にご検討ください。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。詳しい税制や制度については、税理士や各金融機関にご確認ください。

SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
SOICO株式会社
慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

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