iDeCoの移管手続きを解説|手数料と注意点まとめ

iDeCoの移管手続きを解説|手数料と注意点まとめ

iDeCoの金融機関を変更したいけれど、手続きが複雑そうで不安に感じていませんか。

運営管理手数料が毎月かかっている、商品ラインナップが物足りない、そんな悩みを抱えている方も多いでしょう。

iDeCoの移管(運営管理機関変更)は、適切な手順を踏めば誰でも完了できる手続きです。

この記事では、移管の基本から具体的な手続き方法、かかる手数料、注意すべきリスクまで、初心者の方にも分かりやすく解説します。

移管すべきケースと避けるべきケースも明確にお伝えしますので、ご自身の状況に合った判断ができるようになります。

この記事の要約
  • iDeCoの移管は運営管理機関変更のことで、手続きには1~3ヶ月かかり資産は一旦現金化される
  • 運営管理手数料が有料の場合や商品ラインナップが不十分な場合は移管を検討する価値がある
  • 移換手数料(4,400円)がかかり手続き期間中は運用できないため、長期的なコスト削減効果を試算して判断する
SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
SOICO株式会社
慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

目次

iDeCoの移管とは?|金融機関変更の基本を知ろう

iDeCoの移管とは、現在加入している金融機関から別の金融機関へ、iDeCo資産を移す手続きのことです。正式には「運営管理機関変更」と呼ばれています。

金融機関を変更することで、より低コストな運用や充実した商品ラインナップを選べるようになります。ただし、移管には手数料がかかり、手続き期間中は運用ができないため、慎重な判断が必要です。

運営管理機関変更とは

運営管理機関変更とは、iDeCoの口座を管理する金融機関を変更する手続きです。銀行や証券会社など、iDeCoを取り扱う金融機関を「運営管理機関」と呼びます。

変更手続きを行うと、現在の金融機関で保有している資産はすべて現金化され、新しい金融機関の口座に移されます。移管後は、新しい金融機関が提供する商品ラインナップの中から運用商品を選び直すことになります。

手続き自体は書類の記入と返送だけで完了しますが、資産の移換には1~3ヶ月程度かかります。この期間中は運用ができないため、市場環境によっては機会損失が生じる可能性もあります。

国民年金基金連合会:iDeCo公式サイト

企業型DCからの移換との違い

企業型DCからの移換とiDeCoの運営管理機関変更は、まったく異なる手続きです。企業型DCからの移換は、転職や退職により企業型確定拠出年金の資格を喪失した際に、その資産を個人型iDeCoへ移す手続きを指します。

一方、運営管理機関変更は、すでにiDeCoに加入している方が金融機関を変更する手続きです。企業型DCからの移換は6ヶ月以内に手続きしないと自動移換されてしまい、高額な手数料が発生するリスクがあります。

企業型DCからの移換では、移換先の金融機関を自由に選べるため、最初から手数料が安く商品ラインナップが充実した金融機関を選ぶことが重要です。

すでにiDeCoに加入している場合は、同じ金融機関に移換することも、別の金融機関に移換してから運営管理機関変更を行うこともできます。

自動移換とは何が違う?

自動移換は、企業型DCの資格喪失後6ヶ月以内に移換手続きをしなかった場合に、国民年金基金連合会が強制的に資産を移す制度です。運営管理機関変更とは根本的に異なります。

自動移換されると、毎月52円の管理手数料がかかり続け、運用もできないため資産が目減りしていきます。さらに、自動移換中の期間は老齢給付金の受給要件である通算加入者等期間に算入されないため、受給開始年齢が遅れる可能性もあります。

自動移換を解除するには、改めてiDeCoに加入する手続きが必要で、その際にも手数料がかかります。企業型DCから移換する際は、必ず6ヶ月以内に手続きを完了させることが大切です。

国民年金基金連合会:自動移換について

iDeCoを移管すべき3つのケース|変更の判断基準

iDeCoの移管を検討すべきケースは明確に存在します。現在の金融機関で不利な条件で運用している場合、長期的に見ると大きな損失につながる可能性があります。

以下の3つのケースに当てはまる場合は、移管を真剣に検討する価値があります。移管には手数料と手間がかかりますが、長期的なコスト削減効果を考えれば十分に元が取れる可能性が高いでしょう。

運営管理手数料が有料の場合

運営管理手数料が毎月かかっている場合は、移管を最優先で検討すべきです。現在、多くの主要ネット証券では運営管理手数料を無料にしていますが、一部の金融機関では月額200~600円程度の手数料を徴収しています。

たとえば、月額300円の運営管理手数料を払っている場合、年間で3,600円、10年間で36,000円もの負担になります。移換手数料は4,400円程度なので、わずか1年強で元が取れる計算です。

60歳まで20年以上運用する場合、運営管理手数料の差は数十万円規模の差になることもあります。手数料は確実に発生するコストなので、無料の金融機関への移管は最も効果的なコスト削減策と言えます。

商品ラインナップが不十分な場合

現在の金融機関で提供されている運用商品が少ない、または希望する商品がない場合も移管を検討すべきです。iDeCoでは金融機関ごとに取り扱う商品が異なり、その数や種類には大きな差があります。

特に、低コストのインデックスファンドが充実していない金融機関では、長期的に不利な運用を強いられる可能性があります。主要ネット証券では、eMAXIS SlimシリーズやSBIシリーズなど、信託報酬が年0.1%前後の低コスト商品を多数取り扱っています。

商品ラインナップが豊富な金融機関に移管すれば、国内株式、先進国株式、新興国株式、国内債券、外国債券など、幅広い資産クラスから自分のリスク許容度に合った商品を選べるようになります。

分散投資の選択肢が広がることで、より効率的なポートフォリオを構築できるでしょう。

信託報酬が高い商品しかない場合

現在の金融機関で提供されている商品の信託報酬が全体的に高い場合も、移管を検討する十分な理由になります。信託報酬は運用期間中ずっとかかり続けるコストで、年0.5%と年0.1%では長期的に大きな差が生まれます。

たとえば、100万円を年率5%で20年間運用する場合、信託報酬が年0.5%なら最終的な資産は約239万円、年0.1%なら約258万円になります。その差は約19万円にもなります。

特にアクティブファンドばかりで信託報酬が年1%を超える商品しかない金融機関では、長期的なコスト負担が非常に大きくなります。低コストのインデックスファンドを豊富に取り扱う金融機関への移管を検討する価値は十分にあるでしょう。

iDeCo移管のデメリットと注意点|知っておきたいリスク

iDeCoの移管にはメリットだけでなく、デメリットやリスクも存在します。移管を決断する前に、これらのデメリットを十分に理解しておくことが重要です。

特に、資産の強制売却や手続き期間中の運用停止は、タイミングによっては大きな損失につながる可能性があります。以下のデメリットを確認し、ご自身の状況に照らして慎重に判断してください。

移換手数料がかかる

iDeCoの移管には、移換手数料として4,400円(税込)がかかります。この手数料は、現在加入している金融機関に支払うもので、どの金融機関でもほぼ同額です。

移換手数料は一度きりの支払いですが、運用資産が少ない場合や移管後の手数料削減効果が小さい場合は、元を取るまでに時間がかかります。たとえば、運営管理手数料が月額200円の差であれば、約22ヶ月(約2年)で元が取れる計算になります。

移管を検討する際は、移換手数料と長期的なコスト削減効果を比較して、十分にメリットがあるかを確認することが大切です。60歳までの残り運用期間が短い場合は、移管しない方が得策な場合もあります。

資産が強制的に売却される

移管手続きを行うと、現在保有しているすべての運用商品が強制的に売却され、現金化されます。これは、移管先の金融機関では同じ商品を取り扱っていない可能性があるためです。

強制売却により、保有商品が値上がりしている場合は利益が確定しますが、値下がりしている場合は損失が確定してしまいます。特に市場が大きく下落しているタイミングで移管すると、損失を確定させることになるため注意が必要です。

また、長期保有していた商品を売却することで、今後の値上がり益を得る機会を失う可能性もあります。移管のタイミングは、現在の保有商品の評価損益や市場環境を考慮して慎重に判断することが重要です。

国民年金基金連合会:運営管理機関の変更

手続き期間中は運用できない

移管手続きを開始してから完了するまでの1~3ヶ月間は、資産が現金化された状態のまま運用できません。この期間中は市場の値動きから完全に切り離されるため、機会損失が生じる可能性があります。

特に市場が大きく上昇するタイミングと重なった場合、運用していれば得られたはずの利益を逃してしまいます。逆に市場が下落するタイミングであれば、現金化されていることでリスクを回避できる可能性もあります。

手続き期間中の運用機会損失をどう考えるかは難しい問題ですが、長期投資の観点からは、短期的な市場の変動よりも長期的なコスト削減や商品選択の自由度を優先すべきでしょう。

タイミングを気にしすぎて移管を先延ばしにするよりも、早めに決断して手続きを進める方が結果的に有利になることが多いです。

通算運用利回りデータが消える

移管を行うと、これまでの運用履歴や通算運用利回りのデータが新しい金融機関には引き継がれません。新しい金融機関では、移管時点の資産額からスタートする形になります。

過去の運用実績を参照したい場合は、移管前に現在の金融機関のサイトから運用履歴をダウンロードしたり、スクリーンショットを保存したりしておくことをおすすめします。特に、年間の損益や累計の拠出額などは、確定申告や将来の資産計画に役立つ情報です。

ただし、通算運用利回りデータが消えることは、実質的な資産額には影響しません。あくまで記録上の問題なので、このデメリットだけで移管を見送る必要はないでしょう。

iDeCo移管の手続き方法|5つのステップで完了

iDeCoの移管手続きは、書類の取り寄せから資産の移換完了まで、5つのステップで進みます。各ステップでやるべきことと注意点を理解しておけば、スムーズに手続きを完了できます。

手続き全体には1~3ヶ月程度かかりますが、ご自身で行う作業は書類の記入と返送だけです。以下、各ステップの詳細を順番に解説していきます。

STEP1:変更先の金融機関から書類を取り寄せる

まず、移管先として選んだ金融機関の公式サイトにアクセスし、運営管理機関変更の申込書類を請求します。多くの金融機関では、Webサイトから必要事項を入力するだけで書類を郵送してもらえます。

書類請求から到着までは、通常3~7営業日程度かかります。この段階では、現在加入している金融機関に連絡する必要はありません。まずは移管先の金融機関から書類を取り寄せることからスタートします。

STEP2:加入者等運営管理機関変更届を記入する

届いた書類の中に「加入者等運営管理機関変更届」という書類があります。これが移管手続きの中心となる書類です。記入項目は、氏名、生年月日、住所、基礎年金番号、現在加入している金融機関名などです。

特に重要なのは、現在加入している金融機関名と支店名を正確に記入することです。間違えると手続きが遅れる原因になります。また、基礎年金番号は年金手帳や基礎年金番号通知書で確認できます。

本人確認書類のコピーも必要です。運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証などのコピーを用意してください。マイナンバーの記載は不要です。記入漏れや記入ミスがあると書類が返送されて手続きが遅れるため、記入後は必ず見直しましょう。

STEP3:書類を返送する

記入した書類と本人確認書類のコピーを、移管先の金融機関に返送します。返送用封筒が同封されている場合がほとんどなので、それを使って郵送してください。

書類を返送すると、移管先の金融機関が内容を確認し、国民年金基金連合会に変更手続きを申請します。この段階で書類に不備があると、再提出が必要になり手続きが1~2週間遅れます。返送前に記入漏れがないか必ず確認しましょう。

STEP4:資産が現金化され移換される

国民年金基金連合会が変更手続きを受理すると、現在の金融機関で保有している運用商品がすべて売却され、現金化されます。その後、現金化された資産から移換手数料4,400円が差し引かれ、残りの金額が新しい金融機関の口座に移されます。

この過程には1~2ヶ月程度かかることが多く、その間は運用ができません。資産の移換が完了すると、新しい金融機関から「移換完了のお知らせ」が届きます。このお知らせには、移換された資産額や今後の手続きについての案内が記載されています。

STEP5:配分指定をして運用を再開する

資産の移換が完了したら、新しい金融機関で運用商品を選び直す必要があります。これを「配分指定」と呼びます。配分指定を行わないと、資産は定期預金などの元本確保型商品に自動的に配分される場合が多いため、早めに手続きを行いましょう。

配分指定は、新しい金融機関のWebサイトやアプリから行えます。今後の掛金をどの商品で運用するか(掛金配分)と、移換された資産をどの商品で運用するか(資産配分)の両方を指定します。

配分指定が完了すれば、移管手続きはすべて終了です。以降は新しい金融機関で通常どおりiDeCoの運用を続けることができます。

国民年金基金連合会:運営管理機関の変更手続き

書類記入で失敗しないコツ|よくあるミスと対策

iDeCoの移管手続きで最も多いトラブルが、書類の記入ミスによる手続きの遅延です。書類に不備があると再提出が必要になり、1~2週間余計に時間がかかってしまいます。

特に、現在加入している金融機関名や基礎年金番号の記入ミスが多く見られます。以下のポイントを押さえて、一発で手続きを完了させましょう。

記入時の注意点

書類記入で最も重要なのは、現在加入している金融機関名を正確に記入することです。金融機関名は正式名称で記入する必要があり、略称や旧称では受け付けてもらえません。たとえば「SBI」ではなく「SBI証券株式会社」と記入します。

基礎年金番号も慎重に記入してください。基礎年金番号は10桁の数字で、年金手帳や基礎年金番号通知書に記載されています。数字を間違えると本人確認ができず、書類が返送されてしまいます。記入後は必ず見直して、数字が正しいか確認しましょう。

住所の記入も重要です。住所は住民票に記載されているとおりに正確に記入してください。マンション名や部屋番号の省略、番地の「ー」と「-」の違いなど、細かい点にも注意が必要です。本人確認書類の住所と一致していないと、手続きが進まない場合があります。

本人確認書類の準備

本人確認書類として使えるのは、運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証、パスポート、住民票の写しなどです。いずれも有効期限内のもので、氏名・住所・生年月日が確認できる必要があります。

コピーを取る際は、書類全体が鮮明に写るように注意してください。文字がぼやけていたり、一部が切れていたりすると、再提出を求められることがあります。両面コピーが必要な書類(運転免許証など)は、必ず両面をコピーしてください。

マイナンバーカードを本人確認書類として使う場合、表面のみをコピーし、裏面(マイナンバーが記載されている面)はコピーしないでください。iDeCoの移管手続きにマイナンバーは不要です。

書類不備で遅れるケース

最も多い書類不備は、記入漏れです。氏名、住所、生年月日、基礎年金番号など、すべての必須項目を記入したか、提出前に必ずチェックしてください。特に、押印が必要な欄に印鑑を押し忘れるケースが多いので注意しましょう。

現在加入している金融機関名の記入ミスも頻繁に起こります。正式名称が分からない場合は、現在の金融機関から届いている書類や、Webサイトで確認してください。支店名まで記入が必要な場合もあるので、記入例をよく確認しましょう。

本人確認書類のコピーが不鮮明だったり、有効期限が切れていたりするケースもあります。提出前にコピーの状態を確認し、文字がはっきり読めるか、有効期限内かをチェックしてください。これらの不備を事前に防ぐことで、スムーズに手続きを完了できます。

iDeCo移管の手数料を比較|金融機関ごとの違い

iDeCoの移管にかかる手数料は、移換手数料と運営管理手数料の2種類があります。移換手数料は一度きりの支払いですが、運営管理手数料は毎月かかり続けるコストです。

長期的なコスト削減効果を考える上で、運営管理手数料の差が最も重要になります。以下、各手数料の詳細と金融機関ごとの違いを解説します。

移換手数料の相場

移換手数料は、現在加入している金融機関に支払う手数料で、金額は4,400円(税込)がほぼ全金融機関で共通です。これは国民年金基金連合会への手数料と金融機関の事務手数料を合わせた金額になります。

移換手数料は、資産が現金化された後に差し引かれます。たとえば、移管時の資産が100万円の場合、移換手数料4,400円が差し引かれ、99万5,600円が新しい金融機関に移されることになります。

この手数料は移管のたびに発生するため、頻繁に金融機関を変更するのは得策ではありません。移管は慎重に検討し、一度決めたら長期間その金融機関で運用を続けることが、コスト面では有利です。

運営管理手数料の比較

運営管理手数料は、iDeCo口座の管理・運営にかかる手数料で、金融機関ごとに大きく異なります。主要ネット証券の多くは運営管理手数料を無料にしていますが、一部の金融機関では月額200~600円程度の手数料を徴収しています。

SBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券などの主要ネット証券は、運営管理手数料が無料です。一方、一部の地方銀行や信用金庫では、月額300~500円程度の手数料がかかる場合があります。

運営管理手数料が月額300円の場合、年間で3,600円、10年間で36,000円、20年間で72,000円もの負担になります。移換手数料4,400円を考慮しても、1年強で元が取れる計算です。運営管理手数料が有料の金融機関から無料の金融機関への移管は、ほとんどのケースで長期的にメリットがあると言えるでしょう。

長期的なコスト削減効果の試算

運営管理手数料の差が長期的にどれだけの違いを生むか、具体的に試算してみましょう。現在の金融機関で月額300円の運営管理手数料を払っており、無料の金融機関に移管する場合を考えます。

移換手数料4,400円を支払っても、月額300円×15ヶ月=4,500円で元が取れます。つまり、60歳まで15ヶ月(約1年3ヶ月)以上ある場合は、移管した方が得になります。

仮に60歳まで20年間運用を続ける場合、運営管理手数料の総額は月額300円×240ヶ月=72,000円になります。移換手数料4,400円を差し引いても、67,600円のコスト削減効果があります。この金額を年率5%で運用できたと仮定すると、さらに大きな差が生まれます。

運営管理手数料が月額500円の場合は、さらに削減効果が大きくなります。月額500円×240ヶ月=120,000円で、移換手数料を差し引いても115,600円の削減です。このように、運営管理手数料の差は長期的に見ると非常に大きな影響を及ぼします。

移管のタイミングはいつがいい?|市場環境との関係

iDeCoの移管を決めたとき、多くの方が悩むのが「いつ手続きを始めるべきか」というタイミングの問題です。移管時には資産が強制的に売却されるため、市場環境によっては損失を確定させてしまう可能性があります。

ただし、タイミングを気にしすぎて移管を先延ばしにすると、その間も高い手数料を払い続けることになります。以下、市場環境ごとの考え方を解説します。

市場が下落しているとき

市場が大きく下落しているときに移管すると、保有商品が値下がりした状態で売却され、損失が確定してしまいます。これは心理的に受け入れがたく、移管を躊躇する大きな理由になります。

しかし、長期投資の観点から考えると、一時的な損失確定よりも長期的なコスト削減の方が重要です。市場は長期的には上昇傾向にあり、移管後に新しい金融機関で運用を再開すれば、損失を取り戻せる可能性は十分にあります。

むしろ、市場が下落しているときは、移管後に低い価格で商品を買い直すチャンスとも言えます。移管を先延ばしにして高い手数料を払い続けるよりも、早めに決断して長期的なコスト削減を優先する方が、結果的に有利になることが多いでしょう。

市場が上昇しているとき

市場が上昇しているときに移管すると、保有商品が値上がりした状態で売却され、利益が確定します。これは一見好ましいように思えますが、その後さらに市場が上昇した場合、機会損失が生じる可能性があります。

ただし、移管後に新しい金融機関で運用を再開すれば、その後の上昇局面にも参加できます。手続き期間の1~3ヶ月間は運用できませんが、長期投資においては短期的な市場の変動よりも、長期的なコスト削減や商品選択の自由度の方が重要です。

市場が上昇しているときは、利益を確定させるタイミングとしては悪くありません。移管を検討しているなら、市場環境にかかわらず早めに決断することをおすすめします。

タイミングを気にしすぎない考え方

結論として、移管のタイミングを市場環境に合わせて完璧に選ぶことは、プロの投資家でも困難です。市場の先行きを正確に予測することは誰にもできず、タイミングを待っている間にも手数料は発生し続けます。

iDeCoは60歳まで運用を続ける長期投資です。移管時の一時的な損益よりも、今後数十年にわたるコスト削減効果の方がはるかに大きな影響を及ぼします。移管を決めたら、市場環境を気にせず早めに手続きを進めることが、長期的には最も合理的な選択と言えるでしょう。

どうしても市場環境が気になる場合は、ドルコスト平均法の考え方を応用して、移管後の配分指定を段階的に行うことも一つの方法です。ただし、iDeCoでは頻繁に配分変更を行うことは現実的ではないため、基本的にはタイミングを気にせず、決断したら速やかに手続きを進めることをおすすめします。

移管後の運用戦略|配分指定のポイント

iDeCoの移管が完了したら、新しい金融機関で運用商品を選び直す必要があります。これが配分指定です。移管前とは異なる商品ラインナップの中から、ご自身のリスク許容度や運用目標に合った商品を選ぶことが重要です。

特に、低コストのインデックスファンドを中心に、分散投資を意識した配分を行うことが長期的な資産形成の鍵になります。以下、配分指定の基本と具体例を解説します。

配分指定とは

配分指定とは、iDeCoで運用する商品とその割合を決める手続きです。配分指定には、今後の掛金をどの商品で運用するかを決める「掛金配分」と、現在保有している資産をどの商品で運用するかを決める「資産配分(スイッチング)」の2種類があります。

移管後は、移換された資産がいったん定期預金などの元本確保型商品に配分される場合が多いため、早めに配分指定を行う必要があります。配分指定を行わないと、資産が運用されずに放置されてしまい、インフレによって実質的な価値が目減りする可能性があります。

配分指定は、新しい金融機関のWebサイトやアプリから簡単に行えます。商品を選び、それぞれの配分割合を入力するだけです。配分割合は1%単位で指定でき、合計が100%になるように設定します。

リスク許容度に応じた配分例

配分指定の基本は、ご自身のリスク許容度に応じて株式と債券の比率を調整することです。一般的に、若い方や積極的に運用したい方は株式の比率を高くし、年齢が高い方や安定運用を望む方は債券の比率を高くします。

積極型(30代以下・リスク許容度高)
国内株式30%、先進国株式50%、新興国株式20%。株式100%の配分で、値動きは大きくなりますが、長期的には高いリターンが期待できます。60歳まで時間があるため、短期的な下落も長期的には回復する可能性が高いでしょう。
バランス型(40代・リスク許容度中)
国内株式20%、先進国株式40%、国内債券20%、先進国債券20%。株式60%、債券40%のバランス型配分で、リスクとリターンのバランスが取れています。債券を組み入れることで、株式市場の下落時の損失を緩和できます。
安定型(50代以上・リスク許容度低)
国内株式10%、先進国株式20%、国内債券40%、先進国債券30%。株式30%、債券70%の安定型配分で、値動きを抑えつつ、インフレに対応できる程度のリターンを目指します。60歳が近い場合は、資産の保全を優先した配分が適しています。

低コストインデックスファンドの選び方

iDeCoで選ぶべき商品の基本は、信託報酬が低いインデックスファンドです。インデックスファンドは市場平均に連動することを目指す商品で、アクティブファンドに比べて信託報酬が低く、長期的には有利な運用成績を残すことが多いとされています。

主要ネット証券では、eMAXIS Slimシリーズ、SBI・Vシリーズ、楽天・バンガードシリーズなど、信託報酬が年0.1%前後の低コスト商品を多数取り扱っています。これらの商品を中心に配分を組むことで、長期的なコスト負担を最小限に抑えられます。

具体的には、国内株式は「eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)」や「SBI・V・全世界株式インデックス・ファンド」、先進国株式は「eMAXIS Slim 先進国株式インデックス」、全世界株式は「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」などが代表的な低コスト商品です。

商品を選ぶ際は、信託報酬だけでなく、純資産総額や運用実績も確認しましょう。純資産総額が大きい商品は、多くの投資家に選ばれている証拠であり、安定した運用が期待できます。また、運用実績が指数(ベンチマーク)にしっかり連動しているかも重要なチェックポイントです。

まとめ

iDeCoの移管(運営管理機関変更)は、運営管理手数料が有料の場合や商品ラインナップが不十分な場合に検討すべき手続きです。移換手数料として4,400円がかかり、手続きには1~3ヶ月程度の期間が必要ですが、長期的なコスト削減効果を考えれば十分にメリットがあります。

移管時には資産が強制的に売却され、手続き期間中は運用ができないというデメリットもあります。しかし、長期投資の観点からは、短期的な損益やタイミングよりも、長期的なコスト削減や商品選択の自由度を優先すべきでしょう。移管を決めたら、市場環境を気にせず早めに手続きを進めることをおすすめします。

移管後は、低コストのインデックスファンドを中心に、ご自身のリスク許容度に応じた配分指定を行ってください。主要ネット証券では、信託報酬が年0.1%前後の優良な商品を多数取り扱っており、効率的な資産形成が可能です。

なお、投資には元本割れのリスクがあります。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。詳しくは各金融機関の公式サイトや、専門家にご相談ください。

SOICO株式会社 共同創業者・取締役COO 土岐彩花
共同創業者&取締役COO 土岐 彩花(どきあやか)
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慶應義塾大学在学中に19歳で起業し、2社のベンチャー創業を経験。大学在学中に米国UCバークレー校(Haas School of Business, University of California, Berkeley)に留学し、経営学、マーケティング、会計、コンピュータ・サイエンスを履修。新卒でゴールドマン・サックス証券の投資銀行本部に就職し、IPO含む事業会社の資金調達アドバイザリー業務・引受業務に従事。2018年よりSOICO株式会社の取締役COOに就任。

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