株式会社設立時に必要な取締役の人数|取締役選任の手続き・メリット・デメリットについて解説

これから株式会社の設立を考えている個人事業主やフリーランスの方や、すでに会社を設立しており、事業拡大のフェーズで取締役を増やすか、取締役1人のままで会社経営を進めるか悩んでいる方もいるでしょう。

株式会社は取締役1人でも設立できますが、取締役の人数によってメリットとデメリットが異なるので、それぞれの特徴を理解した上で最適な人数を選任・配置するべきです。です。

本記事では、株式会社設立時に必要な取締役の人数、会社設立時に必要な取締役選任の手続き、設立時の取締役の人数それぞれのメリットとデメリットを解説していきます。

株式会社と取締役の人数

株式会社は取締役1人で設立できます。しかし、取締役が1人以上必要な会社と3人以上必要な会社では業務執行に関する事項で違いがあります。

取締役会を置かない会社(取締役1人以上必要)と取締役会を設置する会社(取締役3人以上必要)の違いについて、以下まとめていきます。

取締役会を置かない会社取締役会設置会社
株式会社の種類非公開会社(株式譲渡制限会社)公開会社
取締役の人数1名以上3名以上
取締役が持つ業務執行権限有(原則、代表のみ)
監査役の設置任意必要(原則)
業務執行を決める方法取締役の過半数の賛成取締役会における決議
株主総会における権限会社に関する全ての事項の決定会社法・定款に規定された事項だけの決定

会社設立時に必要な取締役選任の手続き

会社設立時には取締役を選任する手続きが必要です。この手続きは取締役会設置会社とそうでない会社で異なります。それぞれの会社形態ごとの取締役選任方法をまとめていきます。

取締役の選任代表取締役の選任
取締役会設置会社定款による取り決め定款による取り決め
発起人の選任(※複数人の場合、発起人の過半数を超える決議が必要)発起人に選任された設立時取締役による選任決議
取締役会を設置しない会社定款による取り決め定款による取り決め
定款による取り決めに従って設立時取締役の互選によって選定
定款による取り決めに従って株主総会の決議によって選定
発起人の選任(※複数人の場合、発起人の過半数を超える決議が必要)発起人の決議で定める
代表取締役を定めない(この場合は設立時取締役が代表取締役になる)

株式会社を取締役1人で設立するメリット

株式会社を取締役1人で設立することには以下の2つのメリットがあります。
・迅速な意思決定ができる
・人件費を抑えられる

これらのメリットについて解説していきます。

迅速な意思決定ができる

取締役を1人とすることによって会社の意思決定は迅速になります。取締役は会社の業務執行に関する意思決定を行う役職ですので、取締役が複数いると、経営に関わる意思決定のたびに、取締役会などで話し合わなければなりません。

しかし取締役が1人であれば、経営に関する意思決定を迅速にすることができます。予算配分や取引先の選定など自社の方向性に関わる重要な事項を素早く決めることができるのはメリットと言えるでしょう。

人件費を抑えられる

取締役の人数だけ役員報酬の支払いが必要になるので、取締役を1人とすることで役員報酬(人件費)を抑えることができます

また、役員が任期満了になり他の役員へ変更する場合には、役員変更登記が必要です。名義変更の際には登録免許税が発生します。さらに役員が退任を渋った場合には、役員退職金の支払いが必要になる可能性もあるので、役員が多ければ多いほど人件費等のコストがかかります。

役員が1人であれば、このようなコストは発生しない点もメリットです。

株式会社を取締役1人で設立するデメリット

1人の取締役で会社を設立することにはデメリットも多いので注意が必要です。
・事業承継時に問題が起こることがある
・1人に責任と権限が集中してしまう
・対外的な信用が低下するリスクがある

次に、これらのデメリットについて解説していきます。

事業承継時に問題が起こることがある

役員(代表取締役)が1人の会社において、他の取締役の選任権を有する取締役が死亡した場合、後継者へ経営を譲る事業承継ができません

また、死亡した取締役が株式の全てを保有していた場合、当該株式は相続財産になるので、相続がスムーズに進まない場合には、次の経営者へ権限移譲ができません。

事故やトラブルは、いつどこで起きるかわかりません。まさかの事態に備えて、前もって事業承継に関する手続きを考えるか、他に取締役を任命するなどして取締役を2人以上にしておくのも良いでしょう。

1人に責任と権限が集中してしまう

取締役が1人の会社は、その取締役に全ての権限が集中してしまい、ワンマン経営になってしまうリスクがあります。

経営を左右する意思決定をする取締役が1人の場合、経営判断を間違えてしまい会社に損害を与えてしまうと、損害賠償責任を負ってしまう可能性もあります。

取締役は、会社法によって任務懈怠責任が課せられているので、経営判断の間違い以外にも法令に違反したり、監督義務に違反して、会社に損害を与えた場合に損害賠償責任を負います

取締役が1人になることで、責務が重くなることも取締役が2人以上の場合に比べてデメリットと言えます。複数の部門や事業がある場合、それぞれの権限を定めて取締役を決めて管理することも考えてみましょう。

対外的な信用が低下するリスクがある

取締役が1人の会社は、外部の利害関係にある者や取引先から以下の点でネガティブに判断され、対外的な信用が低くなる傾向があります。
・規模が小さく、経営体力のない会社
・ガバナンスおよび管理体制が整備されていない

会社の信用が低いことで、金融機関からの資金調達における審査や取引先との契約にマイナスの影響を与えてしまう可能性があります。

反対に取締役が複数人存在し、取締役会を設置している会社であれば、経営体力があり、ガバナンス・管理体制が整っていると判断され、対外的な会社の信用は高くなります。

株式会社を取締役複数人で設立するメリット

複数の取締役を据えて、会社を設立することで以下のメリットがあります。
・スムーズに事業承継できる
・対外的な信用を獲得できる

それぞれについて解説していきます。

スムーズに事業承継できる

後継者もしくは後継者候補を取締役としておくことで、万が一経営者が死亡してもスムーズに事業承継できます。他の取締役の選任権を持つ取締役が1人だった場合、事業承継をすることができなくなってしまいます。

取締役が死亡するケースだけでなく、事故や法律に関わるトラブルなど何が起こるかわかりません。事業承継を視野に入れた取締役の配置、選任のタイミングなどを検討することも重要です

対外的な信用を獲得できる

先ほども触れましたが、取締役が1人よりも複数人いる方が対外的な信用力が高いと見なされます。

取締役が複数人いることで、ある程度の経営規模と体力、ガバナンスと経営管理体制の確立が期待されます

取締役1人の場合は、規模の小さな会社と判断されがちです。金融機関から資金調達を行ったり、初めての取引先との契約時に取引先である先方が自社を判断する時に、取締役が1人であることをネガティブに審査される可能性もあります。

株式会社を取締役複数人で設立するデメリット

株式会社設立の際に複数の取締役を選任すると以下のようなデメリットがあります。
・迅速な意思決定ができなくなる
・人件費が多くなる

迅速な意思決定ができなくなる

経営の意思決定に関わる取締役が複数人いると、取締役会で話し合う必要があるので1人で意思決定を行う場合に比べて時間がかかります。

経営全体に関わる大きな事案の意思決定のケースだと、関係者や取引先との調整を含め数週間から数ヶ月、契約による縛りが伴うことで数年かかることもあり得ます。

取締役1人であれば、他の役員へ相談することなく経営者が素早く意思決定できます。

取締役が複数名いる場合、それぞれの取締役の権限や関与できる範囲を定めて円滑に意思決定できるような設計にしたり、緊急時にオンラインで会議ができるように環境を整えるなど視野に入れるのも良いでしょう。

人件費が多くなる

事業も軌道に乗り、会社が拡大するフェーズでは気にならないかもしれませんが、人件費がかさむこともデメリットとなるでしょう。

従業員の給与とは異なり、取締役は役員報酬が支払われます。取締役が多くなれば、その分役員報酬も多くなります。さらに、取締役の退任の際には役員退職金の支払いも必要になることがあります。

まとめ

ここまで、株式会社設立時に必要な取締役の人数、会社設立時に必要な取締役選任の手続き、設立時の取締役の人数それぞれのメリットとデメリットを中心に解説してきました。

本記事が、これから会社設立の準備や会社設立を検討している起業家・個人事業主・独立予定の会社員の方のご参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

著 者

SOICO株式会社
共同創業者&代表取締役CEO
茅原 淳一 (かやはら じゅんいち)

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。

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