役員報酬の決め方で失敗しないポイントは?決め方のルールについて解説

役員報酬の決め方で失敗しないポイントは?決め方のルールについて解説

役員報酬とは、その名の通り会社の役員に対する報酬ですが、簡単に言うと会社員の給料と同じです。個人事業主であれば、売り上げから支出(経費)を引いた手残り額が実質的な給料となります。

しかし会社の場合、売り上げはあくまで会社の収入であって、役員の収入ではありません。仮に、完全オーナー企業で役員が社長一人というケースでも、会社と個人とは切り離された存在です。このように役員報酬として支払う場合には、別途取り決めをする必要があるので、取り扱いはやや難しいです。

そこで今回は、特に中小企業での役員報酬の決め方にフォーカスを当て、報酬を決める手順や変更の仕方、節税ポイントについて解説していきます。

◆役員報酬を決める手順は?

役員報酬は社長の一存で決められると思っている方が多いのではないでしょうか。実はそうではありません。役員報酬の決め方は会社法(商法)でルールが決められていますので、その内容に従って決定しなくてはなりません。法人格である以上、法人が守るべき法律に従った経営を求められます。どれだけ社長が力を持っていようとも、ワンマン経営の会社であろうとも、個人の独断で決定を下したり、会社のお金を好き勝手にしたりはできないようになっているのです。

まずは、役員報酬を決める手順から理解していきましょう。

役員報酬を決めるには、次の【1】~【3】の手順が必要になります。

【1】役員報酬のルールについて理解する

【2】株主総会で報酬額を決定する

【3】役員賞与を支給する場合は事前に税務署に届け出をする

◆役員報酬を決める際のルールとは?

役員報酬は役員へ支払われる給与で、本質的には会社員の給与と変わりません。

税務の観点から言い換えると、役員報酬は給与所得に該当し、役員報酬額に応じて所得税と住民税が課せられます。

ただし役員報酬の場合は、社長の一存で役員報酬を自由に変え、納税額を操作できてしまうことも考えられるため、以下のようなルールが定められています。

・役員給与は原則、事業年度を通じて一定であること。

・役員賞与を支給する場合は事前に税務署へ届け出をすること。

この2点を守らない場合、役員報酬を支給したとしても、それを会社の経費として計上できなくなる可能性があります。

※例外的に、事業年度開始から3カ月以内は役員給与を変更することができます

では仮に、上記のルールを無視して支払い続けたとしたらどうなるのでしょうか?

結論、役員への支払い自体は、特に問題なく行えます。

しかし経費に計上することができないので、その分の税額控除を受けることができません。つまり法人税がその分課税されることになります。さらに報酬は支払われているため、所得税を納めなくてはなりません。

つまり、ルールを無視して報酬を払い続けても会社にとってメリットはなく、むしろデメリットばかりです。

こういった不利益を被らないためにも、役員報酬のルールを理解すること、そしてルールに沿った報酬の支払いを徹底することが大切です。

◆中小企業の役員報酬の考え方と相場

ルールを理解したところで次に気になるのが「役員報酬をどれくらいにするか」という点ではないでしょうか。

ここでは、中小企業における役員報酬を決めるポイントと、金額の相場を確認していきましょう。

  • 役員報酬額は会社の規模や業種を基準に考える

「役員報酬」といっても、大企業と中小企業では金額も変わってきますよね。役員報酬額を考える場合は、会社の規模、業種を基準にするのが一般的とされています。同規模・同業種の会社の役員報酬を参考に、役員報酬額を検討しましょう。その基準を大きく上回るような高額を設定していると、税務署が損金としての計上を認めない場合もあるので注意が必要です。役員報酬額を損金として計上できないと、法人税・個人の所得税が二重に課され、結果的に会社の支出が増えてしまう可能性があります。

  • 中小企業の役員報酬額の相場は?

国税庁の民間給与実態統計(平成30年度)の調査結果によると、資本金別に役員報酬額を算出した際の金額は下記の通りです。

・資本金2,000万円未満の民間企業:平均605万円

・資本金2,000万円以上の民間企業:平均851万円

・資本金5000万円以上の民間企業:平均1,094万円

また、書籍「役員報酬・賞与・退職金」中小企業の支給相場 【2021年版】に掲載されている中小企業の支給相場(2019年版)によると、従業員の規模や業種別の役員報酬の相場にも違いがあるようです。

【従業員規模別の役員報酬月額】

・20人以下の民間企業:平均80.1万円

・21~50人の民間企業:平均112.4万円

・51~100人の民間企業:平均130.4万円

・101~300人の民間企業:平均188.9万円

【業種別の役員報酬月額】

・製造業:平均131.9万円

・建設業:平均85.9万円

・卸業および小売業:平均120万円

・サービス業:平均114万円

参考:「役員報酬・賞与・退職金」中小企業の支給相場.日本実業出版社.2021

◆税負担を軽くする役員報酬の決め方

役員報酬を決める際には、報酬金額の相場だけではなく、税金の負担について意識することも大切です。

少しでも税負担を軽くしたい経営者さんは多いと思います。ここでは節税を意識した役員報酬について解説いたします。

まず、節税を意識するためには、所得税と法人税について知らなくてはなりません。

所得税については、皆様ご存じの通り累進課税となっています。言い換えると、所得が上がるにつれて税率も上がっていく仕組みです。

下の表をご覧ください。

≪表≫所得税率一覧表

所得金額税率控除額
1,950,000円以下5%0円
1,950,000円超

~3,300,000円以下

10%97,500円
3,300,000円超

~6,950,000円以下

20%427,500円
6,950,000円超

~9,000,000円以下

23%636,000円
9,000,000円超

~18,000,000円以下

33%1,536,000円
18,000,000円超

~40,000,000円以下

40%2,796,000円
40,000,000円超~45%4,796,000円

これは個人の所得に対して課せられる所得税率と控除額を、年収別に一覧にしたものです。

所得が大きくなるほど税率が上がっていることが分かります。

次に法人税についてです。

会社の資本金の規模や課税所得額によって異なる場合もありますが、現行の税法上では基本的に23.4%が最高税率となります。

ちなみに、法人税率23.4%の負担を所得税に置き換えてみると、「6,950,000円超~9,000,000円以下」の年収帯に課される税率とほぼ同じです。

つまり、900万円を越える役員報酬を支給する場合は、税率だけで見ると法人税の方が所得税よりも税率が低くなります。逆に役員報酬が695万円以下の場合には、法人税の方が所得税よりも税率は高くなります。

なお、役員報酬は基本的には経費(損金)として会計に計上できるなど、個人の収入とは性質が異なります。そのため、税率の違いのみで個人・法人の負担の大きさを比較した結果が全てではありません。あくまで個人・法人の税制度を理解するための比較であることに留意してください。

また、適切な役員報酬の金額については、会社の売り上げ、利益額、役員の納税意識、利益への貢献度合いなど、会社が置かれている状況により様々です。判断が難しい部分もあるので、専門家である税理士の先生と相談しながら決めていただくことをおすすめします。

◆株主総会で役員報酬額を決める場合は?

中小企業の場合、株主総会で役員報酬額を決めることは少ないでしょう。しかし規模の大きな会社になると、役員報酬は株主総会でその会社に出資をしている株主(多くの場合は役員)によって決定されます。これは、会社法で「役員報酬は株主総会でその会社に出資をしている株主(多くの場合は役員)によって決定する」と定められているという理由からです。

役員報酬の決め方

一般的な株式会社の場合、役員報酬の決め方は以下の2つのパターンが基本となります。

株主総会で各役員の報酬額を決定する

役員ごとの報酬額を個別に決めていくという、いたってシンプルな方法です。

株主総会で役員全員分の報酬額の合計を決定し、その後、代表役員同士の総意により個別の支給金額を決定する

予め予算のような形で、役員に支給する役員報酬額の合計を決めておきます。個別の額についてはその後、役員同士の総意により決めていくというやり方です。

決算が終わってからすぐの定時株主総会で、次の期1年間の役員報酬を決めるのが一般的ですが、定時株主総会でなくても問題ありません。原則、決算後3カ月以内でないと役員報酬額の変更はできませんが、定時株主総会で決めなければならないというルールは特にないからです。

株主総会では必ず議事録を残しておく

また、株主総会で役員報酬を決める際、必ず議事録を残しておくことも大事です。

小さい会社ほど株主総会は簡素なものになり、議事録などの記録を残していないこともあります。特に、社長一人でワンマン経営をしているような会社の場合は、役員報酬も一人で決めるため、記録の必要性を感じていない方も中にはいらっしゃるようです。

実際に会社法では、株主全員の同意をメールや書面などで確認ができるようであれば、その内容で決議があったものとみなすことになっています。このような場合、株主総会を開く必要はないとされていますので、議事録により明確に「決議があった」という旨を記録しておいた方が良いでしょう。議事録が存在することで、役員報酬が適正に決められたという証明にもなるからです。

◆専門家に相談する前に自分でも正しい知識を身につけましょう

今回は、主に中小企業での役員報酬の決定方法に焦点を当てて解説してきました。役員報酬は決定や変更のプロセスなどに、しっかりと明確なルールが存在します。まずは、会社の経営陣である役員自身が、このルールについて理解することが大切です。ルールに従わないことで役員報酬が損金として計上できないなど、会社にとって思わぬ損失につながる可能性もあります。

役員報酬のルールと同様に、税負担を減らすための知識も欠かせません。税の専門家である税理士と日々コミュニケーションを取っておくこと、そして判断に困ることが出てきたら素直に相談することが大切です。

また、自分でも関連知識を身に付けておくことで、困っていることをより的確に税理士に相談することができますので、この機会に知識を習得しておくことをおすすめします。

役員報酬は、健全な会社経営において重要な要素のひとつです。場合によっては、役員のみならず社員のモチベーションにも大きな影響を与えかねません。しっかりとルールを理解し、適切な決定を下していく上で、今回の記事が参考になれば幸いです。

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著 者

SOICO株式会社
共同創業者&代表取締役CEO
茅原 淳一 (かやはら じゅんいち)

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。

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